ヴァルター潜水艦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/07 05:29 UTC 版)
ヴァルター機関は燃焼用の酸素を外部から供給する必要がないため、潜水艦用の水中動力として1937年頃からドイツ海軍に提案された。1940年には出力1840kW(2500馬力)の低温式ヴァルター・タービンを備えた排水量80トンの小型試作艦V-80が建造され、潜航中の最大速力26ノットを記録した。 第二次世界大戦末期、ドイツ海軍は潜水艦戦の不振を取り返すためにさまざまな水中航行用動力を装備した水中高速潜水艦を建造したが、それらのうちUボートXVIIB型およびXXVI型は高温式ヴァルター・タービンが搭載されていた。 XVIIB型では、過酸化水素水溶液は船体下部の非耐圧船殻内に、柔軟なポリ塩化ビニルの袋に入れて収められていた。ステンレス製送液パイプを経て触媒室にポンプで圧送され、ここで高温の酸素ガスと水蒸気に変えられ燃焼室へと送られる。燃焼室には別の送液系から軽油が送り込まれ、さらに別の送液系から燃焼温度調節の水が送り込まれる。 燃焼室内では、酸素水蒸気混合ガス:軽油:水 = 9:12:1 の容積比で混合された後、燃焼によって水蒸気に変わる。最終的にこの水蒸気を作動流体として蒸気タービンを駆動する。蒸気タービンで発生する軸出力は減速ギヤを介してスクリューを回し推進力となる。 一方、蒸気タービンから排出された水蒸気は復水器で水に戻され、さらに冷却器で適温に調整したうえで再使用される。この燃焼で発生する二酸化炭素ガスは復水器上部に溜まるので自然に分離される。その後、二酸化炭素ガスは電動ポンプで海中に排出される。 問題点としては、 燃料費が高価(毎時毎出力あたり約2kgの過酸化水素が必要) 低速航行が不可能(XVII型で12ノットまで) 潜航深度が深くなって水圧が増大すると、排気の押し出しによる損失で出力が急減する 過酸化水素の取り扱いに注意を要する 燃焼室で発生する一酸化炭素や二酸化炭素の漏洩対策として、機関室を密閉にしたうえ遠隔操作にしなければならない 水中に排出された二酸化炭素の一部が気泡となるのでソナーに探知されやすくなる 一度、過酸化水素を消費してしまうと補充ができないため、ディーゼルエンジンおよび蓄電池電動機を別に搭載しておかねばならず、ヴァルター・タービンは緊急用としてしか使用できない などである。 解決策としてヴァルター博士は間接式ヴァルター・タービンを考案した。これは過酸化水素と軽油を特殊なボイラー内で反応させて約2,000℃の高温ガスを作り、この熱によって水蒸気を発生させるものである。過熱水蒸気(水が沸騰して発生する摂氏100度の水蒸気をさらに加熱した水蒸気)が使えるので、熱効率は元のヴァルター・タービンよりも高くすることができた。この間接式ヴァルター・タービン機関は開発中に終戦となり、実用化までには至らなかった。 第二次世界大戦後、水中で高速を発揮できるヴァルター・タービン潜水艦は戦勝国に注目され、イギリスとアメリカはそれぞれ1隻ずつXVIIB型(U1406とU1407)を接収し、研究調査目的に供した。1956年、イギリス海軍はエクスプローラー級潜水艦2隻を試作したが、大量の過酸化水素が必要であることと、過酸化水素の安全性の問題からほとんど実用に供されなかった。アメリカ海軍でも小型潜水艦X-1で実験はしたが、より高性能で(表面上は)安全な原子力潜水艦の成功によって取りやめとなった。ソビエトも接収したXXVIの資料を元に616計画で試験を行い、1950年代にS-99潜水艦を建造したが実用化には至らなかった。
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