フォークランド戦争での撃沈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 00:58 UTC 版)
「ヘネラル・ベルグラノ (巡洋艦)」の記事における「フォークランド戦争での撃沈」の解説
1982年3月末、アルゼンチンがフォークランド諸島に侵攻した。イギリスは機動部隊(第317任務部隊)を編成して反撃体制を整えた。ここにフォークランド戦争(マルビナス戦争)が勃発する。 「フォークランド紛争#第317任務部隊の編成と海上封鎖の開始 (3月31日-4月18日)」も参照 アルゼンチンは当初イギリスの反攻を予期していなかったが、イギリスの動きを見て4月5日から大規模な艦隊の再編成に着手した。ヘネラル・ベルグラノを含むアルゼンチンの主要な戦闘艦艇および補助艦艇は第79任務部隊として再編された。4月30日、この任務部隊は3つの任務群に分割され、本艦はロス・エスタードス島北方を担当する第79.3任務群の旗艦となった。 5月1日、第79.1任務群旗艦である航空母艦ベインティシンコ・デ・マヨ搭載のトラッカー哨戒機がイギリス空母戦闘群を発見したことで、同日2307Z時(2007L時)、同空母に乗艦していた第79任務部隊指揮官アララ准将は攻撃作戦の開始を命じた。この作戦では、ベインティシンコ・デ・マヨの第79.1任務群とへネラル・ベルグラノの第79.3任務群によってイギリス空母戦闘群を挟撃することになっていた。しかし風が弱まってベインティシンコ・デ・マヨのスカイホーク艦上攻撃機が発艦できなかったほか、イギリス側に位置を知られたと思われたことから、攻撃作戦は5月2日未明に中止された。各任務群はイギリスの潜水艦を避けるために反転して浅海域に戻ることとなった。へネラル・ベルグラノも、5月2日の0900Z時までには反転を完了していた。 アルゼンチン側は気付いていなかったが、本艦は5月1日1400Z時以降、イギリス海軍の原子力潜水艦コンカラーに追尾されていた。へネラル・ベルグラノはイギリス側の設定した完全排除水域(TEZ)に入らず、その外縁部を沿うように進んでいたため、イギリスの交戦規定(ROE)で定められた攻撃対象の範囲外であった。しかし本艦は旧式とはいえ強力な艦砲と装甲を持ち、イギリス側の水上戦闘艦の4.5インチ砲やエグゾセ艦対艦ミサイルだけでは対抗できない存在であり、もし本艦が針路を変更して完全排除水域に突入してきた場合にはイギリス艦隊にとって脅威となると予想されていた。このため、本艦を攻撃するか否かはイギリス側の懸案事項となっていた。最終的にマーガレット・サッチャー首相の認可を得て交戦規定が変更され、完全排除水域外にいるベルグラノに対しての攻撃が許可された。 コンカラーの通信装置の不調のため、攻撃許可の受信には時間がかかったが、コンカラーは攻撃する意思を示す通信を5月2日1710Z時までに返信し、1813Z時、戦闘配置についた。へネラル・ベルグラノは依然としてコンカラーの存在に気付いておらず、緩やかに蛇行しながら前進していた。1857Z時までに、コンカラーは理想的な攻撃位置であるベルグラノの艦首左前方1,400 ヤードに回り込み、Mk8魚雷3発を斉射した。 コンカラーの魚雷2発がほぼ同時、3秒ないし4秒の差でヘネラル・ベルグラノに命中した。1発目の魚雷は艦首を吹き飛ばしたものの、内部の対魚雷隔壁は損傷を受けなかったため浸水はなく、弾薬の誘爆も起こらず、また付近に乗員がいなかったため死傷者も発生しなかった。より深刻な被害を与えたのは、左舷後方に突き刺さって後部機械室で爆発した2発目の魚雷であった。その爆風は後部機械室の上階の食堂や娯楽室に達して多数の死者を出した後、さらに上へと抜けて主甲板に長さ20ヤード(約18メートル)の破孔を開けた。2発目の魚雷による浸水が発生したが、艦内の2箇所の非常用発電設備は爆発と冠水によって両方とも失われたため、電動ポンプによる排水作業は不可能であった。魚雷命中から20分後にはエクトール・E・ボンソ艦長が総員退去命令を下し、やがてヘネラル・ベルグラノは沈没した。乗員321名と乗艦していた民間人2名が死亡し、生存者772名がアルゼンチン海軍と近隣を航行していたチリ海軍の船艇によって救助された。 本艦の沈没を受けて第79任務部隊が大陸棚の浅海に戻って以降、アルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に徹し、紛争が終わるまで二度と出撃してくることはなかった。航空母艦ベインティシンコ・デ・マヨの艦載機は搭載解除され、陸上基地からの航空作戦に参加することとなった。 へネラル・ベルグラノの沈没で323人が死亡したが、これはフォークランド戦争(マルビナス戦争)におけるアルゼンチン側の戦死者649人の半数近くを占める。
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