タネの調理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 12:37 UTC 版)
近年では生身のままタネとすることも多いが、冷蔵技術の無い時代に誕生したがゆえ、酢〆にしたり醤油漬けにしたりと、下拵えとしてタネにさまざまに「仕事」をする技法がある。 酢〆 酢〆は比較的古い仕事が残っている調理法である。主に光物に用いられる手法で、塩をあててしばらく置いてから、酢につけて(または酢にさっとくぐらせて)〆る。コハダ、キス、カスゴ、サバの他、今では生で使われることが多いアジやサヨリなども以前はたいてい酢〆にした。貝類や白身魚を酢〆にする仕事もある。強く〆て酸っぱいタネは、オボロをかませて握ることも多い。 醤油漬け 「ヅケ」と称し、醤油を主体にした調味液にしばらく漬ける(またはさっとくぐらせる)。マグロの赤身などがよく用いられ、長時間漬けてねっとりした質感をもたせたものや、切りつけて数分程度の短時間漬けるもの、湯霜にしてから漬けるなどの仕事がある。古くは白身魚も醤油漬けにすることが多く、八丈島などにみられる島寿司はその名残りである。近年は沖漬けに倣い、ボタンエビをヅケにして握る店もある。 煮物 アナゴやハマグリは煮あげて、さらに煮汁を炊き上げて再調味した「煮詰め(通称:ツメ)」を塗って供する。アナゴの場合は骨を加える・ハマグリの場合は茹で汁を加える等、ネタに合わせてそれぞれ異なる煮詰めを用意する。ミミイカやシラウオ、ホタテなどもかつては煮たり茹でたりした上で握る調理法が存在していたが、近年ではあまりみられなくなった。また、巻物の代表格となる干瓢の煮付けも江戸前として誇るべき仕事である。 茹でる トリ貝、ハモ、シャコなどは茹でて(湯通して)使う。生物学的特性からシャコは水揚げしてすぐに浜茹でしたものを仕入れる場合もある。またアワビも酒蒸しにする調理法と、水煮にする調理法とが混在する。タコは先に大根で叩き、繊維の破壊と酵素の浸潤を行った上で茹でる。なお、茹でた後に調味酢に漬けたり煮汁で煮返したりと、さらに手間をかける仕事もみられる。他の貝類や白身魚にも軽く湯引き(いわゆる「湯霜」)してから握るものがある。 飾り切り 見た目だけではなく、同じネタでも食感を変えたり筋を切って食べやすくするためには非常に重要な仕事となる。合わせて付いている葉欄(笹切り)が既製品ではなく飾り細工であるならば、それは職人の庖丁の技の目安ということである。 炙り 煮穴子や平貝などを軽く炙ってから握る手法は以前からみられたが、近年はサバ、マグロ、タイなどの皮目や身をバーナーなどの直火で焼くことが多い。養殖ものの魚の脂を抜き、香ばしさを活かす効果を狙ったものとされる。他にも、「叩き」がメジャーな調理法であるカツオでは無論炙りが多用される。マグロのトロを軽く炙って握る調理法については池波正太郎が仕掛人・藤枝梅安の文中で紹介している。 厚焼き玉子 溶き卵に芝海老のオボロや魚のすり身・トロロを加えた生地を弱火でじっくりとカステラのようになるまで焼き上げるのが江戸前ずし本来の玉子焼きであり、今日一般的となっただし巻き卵とは本来は異なるネタである。ただし、調理に非常に手間がかかるため魚市場で「河岸売り」として販売されている既製品を用いる店舗も存在する。店によっては甘く調味して〆に出すところ、逆にだしを利かせて酒の肴として単品で食べられるよう調味しているところと、様々に分かれる。 焼く 本来の江戸前のネタではないものの、棒鯖寿司やカニは炙りではなく芯まで火を通した上で握る。エビにおいても茹でずに焼く店舗がみられる。 薬味 マグロなど油脂の多いネタは、ワサビの代わりに和芥子をつけて供していた。他にも大根おろしを用いたり、刻み生姜を用いたりと、ネタとの相性を考えてワサビではなく別の薬味を合わせて調理するのが江戸前の仕事であった。
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