アボット教授による調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 23:21 UTC 版)
「タマム・シュッド事件」の記事における「アボット教授による調査」の解説
2009年3月、アデレード大学のデレク・アボット教授らのチームが、暗号解読と遺体を掘り返してDNA検査することにより事件の真相を解明しようと試みた。 この調査により、それまでの警察の事件に対する仮説に疑問点が浮かび上がった。例えば、遺留品の中の1つ「ケンジタス」ブランドのタバコ(別名Club)の入った「アーミー・クラブ」のタバコの箱について、警察は当時、安いタバコを買ってより高価なタバコの箱にしまっておくことはよくある習慣であると考えていた (オーストラリアは当時まだ戦時配給制度下だった) 。しかし、事件当日の官報を調べると「ケンジタス」ブランドのタバコは実際には高価なブランドであり、このことから、犠牲者のタバコが毒入りのタバコにすり替えられたという可能性も出てきた (この点についてはそれまで捜査されたことはなかった) 。アボット教授はまた、当時のバブアー社のブランドが入った糸を調査し、包装に様々な種類があることを見つけた。このことは糸がどの国で購入されたものかを特定する手がかりとなるかもしれない。 「暗号」の解読もゼロから再開された。文字の出現頻度からでたらめに書かれたのではないと思われ、でたらめに文字を書く場合にアルコールの影響が書く文字の頻度にどれ程影響するのかも調査された。暗号の形式については、乱数鍵を1回だけ使う形式のアルゴリズムであるという仮説を基に、『ルバイヤート』の詩の形式と同じ四行連であると思われた。コンピューターを使って『ルバイヤート』や『タルムード』、聖書と比較し、文字出現の頻度の統計上の規則を見つけ出そうとした。しかし、文字列が短いため、当時発見されたものと同じ版本と比較する必要があった。その版本は既に1960年代に紛失していたため、研究者達は同じフィッツジェラルドの英訳版を探したが見つけることはできなかった。 調査により1948年と1949年のソマートン・マンの検視報告書も紛失していることが分かった。アデレード大学の図書館に所蔵されているクレランド検察官の記録類にも、この事件に関するものは何も含まれていない。同大学のマチェイ・ヘンネバーグ教授はソマートン・マンの写真の耳の形を調べ、彼の耳の形は上部のくぼみ (英語: cymba) が下部のくぼみ (英語: cavum) より大きいという、白人では人口の1–2%にしかいない珍しいものであることに気付いた。2009年5月、アボット教授が調査を依頼した歯科専門医は、ソマートン・マンには、上下の顎の側切歯が足りない歯数不足症という珍しい先天的異常があったと結論付けた。このような異常を持つ者は全人口の2%しかいないという。2010年6月、アボット教授はジェスティンの息子の写真で、耳と歯がはっきりと写っているものを入手した。写真を見ると、ソマートン・マンと同様に彼の耳の上部のくぼみが下部のものより大きいだけでなく、歯数不足症も有していることが分かった。このような一致が偶然発生する確率は、100万分の1~200万分の1と見積もられている。 ジェスティンの息子 (1948年当時16か月で2009年に死亡、後述のテレビ番組 「60 ミニッツ」参照) は、ボクソール、もしくはソマートン・マンとの間にできた子であるが、ジェスティンは夫との子と偽っていたのではないか、との推測がメディア上で流れた。この推測を証明、もしくは否定するためにはDNA検査が必要である。アボット教授は、遺体を掘り返してDNA中の 常染色体を検査して血縁関係を調べることが、いくつかの候補の中からソマートン・マンの姓を特定するための「パズルの最後のピース」であると考えていた。しかし、2011年10月に法務長官のジョン・ロー(英語版)は、「世間一般の好奇心や広範囲な科学的関心以上に、公共の利益にかなう必要性がない」と述べ、遺体の掘り起こしの申請を却下した。 フェルタス元刑事は、その頃もまだソマートン・マンは行方不明になっている親族ではないかと訴えるヨーロッパの人々から接触を受けていたという。しかしフェルタスは、遺体を掘り起こしてソマートン・マンの家系を見つけ出したとしてもそうした人々の助けにはならないだろうと考えていた。なぜなら、「当時は多くの戦争犯罪人が名前を変え、様々な国へ渡っていたから」であるとフェルタスは述べている。 2013年7月アボット教授は、最終的にはソマートン・マンの身元特定につながるだろうと考え、画家によるソマートン・マンの想像上の生前の似顔絵を発表した。「これまで我々は検視写真を発表してきたが、それでは誰かに似ているかどうか分かりにくい」と教授は述べている。 最近の報道によれば、アボット教授はロマ・イーガン (英語: Roma Egan) と、ロビン・トムソン (英語: Robin Thomson) –明らかに「ジェスティン」の息子と思われる(後述のテレビ番組 「60 ミニッツ」参照) – との間の娘、レイチェル (英語: Rachel) と2010年に結婚した。
※この「アボット教授による調査」の解説は、「タマム・シュッド事件」の解説の一部です。
「アボット教授による調査」を含む「タマム・シュッド事件」の記事については、「タマム・シュッド事件」の概要を参照ください。
- アボット教授による調査のページへのリンク