さすらい
『男はつらいよ』(山田洋次) 車寅次郎は16歳で家出して、20年ぶりに故郷葛飾柴又へ戻り、叔父夫婦の経営する団子屋「とらや」の2階に厄介になる。しかし彼は柴又の町に落ち着くことなく、異母妹さくらに心配をかけつつも、テキヤ稼業をして旅から旅へのフーテン暮らしを続ける。
『カインの末裔』(有島武郎) 広岡仁右衛門は妻と赤ん坊と痩せ馬を連れて、北海道羊蹄山麓の松川農場へやって来る。彼は農場で働くが、粗暴で村人との争いが絶えず、小作料も納めない。婦女暴行事件の犯人とも見なされる。1年余りのうちに彼は赤ん坊と馬を失い、雪の中、妻と2人でまたどこへともなく去って行く〔*タイトルは、→〔さすらい〕2の『創世記』第4章の、カインの物語にもとづく〕。
『子をつれて』(葛西善蔵) 小説家小田は家賃を4ヵ月滞納し、「8月10日限りで立ち退け」と要求される。妻は次女を連れ実家へ金策に行ったきり、連絡がない。8月11日の夜8時前に、小田は家財道具を持ち、尋常2年の長男と7歳の長女を連れて家を出る。バーで酒を飲み、11時近くに、行くあてもないまま電車に乗る。
『ティファニーで朝食を』(カポーティ) ホリー・ゴライトリーの名刺のアドレス欄には「トラヴェリング(旅行中)」と記してある。彼女は19歳の頃、ニューヨ-クのアパートで小説家の「私」と知り合うが、彼女には他にも多くの男友達がいる。彼女は麻薬密輸組織との関わりの疑いで逮捕され、流産し、保釈中の身でありながら、ブラジルへ、次いでアフリカへ旅立つ。彼女がニューヨ-クで飼っていた猫は、1軒の家に拾われ、安住の地を得る。
『裸の大将』(堀川弘通) 八幡学園で教育を受けた山下清は、貼り絵にすぐれた才能を発揮したが、20歳の頃、学園から脱走した。徴兵検査が恐かったからである。彼は浴衣姿でリュックを背負い、汽車の線路を歩いた。方々の家で握り飯をもらい、各地を放浪する。さいわい彼は兵役を免除され、貼り絵は高い評価を受けて、後には「日本のゴッホ」と称されるまでになった。しかし名声はかえって煩わしく、彼は気ままな放浪を好んだ。
★2.神や悪魔の呪いを受けたために、永遠にさすらいを続けねばならない人。
『さまよえるオランダ人』(ワーグナー)第2幕 さまよえるオランダ人は悪魔の呪いを受け(*→〔言挙げ〕4)、海を果てしなくさすらう運命となった。7年に1度上陸し、その時に、永遠の愛を誓う乙女を妻とすることができれば、彼は救われる。さもなければ、彼は死ぬこともできず、漂泊し続けねばならないのだ→〔宿〕7a。
『さまよえる猶太人』(芥川龍之介) 刑場へ歩むイエスを罵り打擲したユダヤ人が、イエスの呪いを受けて、最後の審判の日まで永遠に諸国をさすらう運命となる。彼は日本へも来たらしく、平戸から九州本土へ渡る船の中で、フランシス・ザヴィエルと出会い、問答を交わしたことがあった。
『創世記』第4章 カインがアベルを殺したことを知った主(しゅ)は、殺人者カインに「今、お前は呪われる者となった。お前は地上をさまよい、さすらう者となる」と宣告する。しかし、さすらいのカインに出会う者が彼を打ち殺すことのないように、主はカインに1つのしるしをつけた〔*額にしるしをつけたのであろう、と一般に解されている〕。
★3.さすらいの旅人が、立ち寄った土地の悪人たちを退治して、去って行く。
『シェーン』(スティーヴンス) 先住の牧場主ライカー一味が、開拓農民を追い払おうとして、いやがらせをする。流れ者シェーンが、農民たちのリーダーであるジョーとその妻マリアン、息子ジョーイの住む家に立ち寄り、彼らを助けて、ライカー一味と対決する。マリアンはシェーンにほのかな思いを寄せ、それに気づいたジョーは、1人でライカーたちと戦って死ぬ覚悟をする。シェーンはジョーを殴り倒して、ライカー一味の待つ酒場へ行き、銃撃戦の末に彼らを殺して、どこへともなく去って行く。
『用心棒』(黒澤明) 清兵衛一家と丑寅一家の縄張り争いで、宿場町の人々は困り果てていた。そこへ、どこからともなく旅の浪人がやって来る。彼は名を問われ、眼前の桑畑を見て「桑畑三十郎。もうすぐ四十郎だがな」と答える。浪人は、自分を用心棒として清兵衛一家と丑寅一家の双方へ売り込みつつ、彼らの争いをあおり、自らも何人かを斬って、両一家を壊滅させる。最後に強敵・丑寅一家の卯之助を倒し、「これで宿場も静かになる」と、居酒屋の親爺に言い残して、立ち去る。
*「椿三十郎」と名乗ることもある→〔名付け〕6aの『椿三十郎』(黒澤明)。
★4.さすらいの旅は無益である。
『イスラーム神秘主義聖者列伝』「バーヤズィード・バスターミー」 旅を続けるアフマドに、導師バーヤズィードが「いつまで旅を続け、世界を経巡るつもりかね」と尋ねた。アフマドは「水を一つ所に止めておこうとしても、形が定まらず姿を変えてしまいますゆえ」と答えた。それに対して導師はこう言った。「なぜ大海であろうとせぬのか。変化することも汚れることもないではないか」。
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