かつての亜種・近縁種
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/12 21:35 UTC 版)
「ツクシマイマイ」の記事における「かつての亜種・近縁種」の解説
上述のとおり分子系統解析の結果からは九州南部より北のものは全てツクシマイマイ、九州南部に分布するものは別種タカチホマイマイ E. nesiotica として扱うのが妥当だとされるが、20世紀前期には、九州と周辺の島々に分布するものを全てツクシマイマイ1種とした上で、地域個体群ごとに複数の亜種として扱う分類法があった。しかしそれらの”亜種”は20世紀半ばからはランクが下げられ、黒田徳米(1953及び1963)は単なる「諸地方型」とし、湊(1988)はタカチホマイマイ(亜種)とヤクシママイマイ(独立種)以外はツクシマイマイの異名(シノニム)と見なしており、いずれも分子系統解析の結果に近い扱いとなっている。他方、細分傾向の強い『原色日本陸産貝類図鑑』(東、1995)では下記のものが全て”亜種”として区別されて20世紀前期に回帰した分類になっているが、その根拠などは一切示されていない。しかしそのためかこれらの”亜種名”が使用されることもあるため、以下に列挙し説明する。 ツシママイマイ(対馬蝸牛) E. h. tsushimana Möllendorff,1900 = ツクシマイマイ E. herklotsi 対馬と壱岐に分布するとされるが、従来からツクシマイマイの異名とされるのが一般的。殻高28mm・殻径42mmに達する。体層腹面が著しく中高。殻口は円形で、縁は桃色か白色。原記載の産地も壱岐・対馬の両方となっているが、分子系統解析では両個体群は同じクレードに属さず、それぞれが九州本土の別の個体群に近いという結果が出されている。 【原記載】 Euhadra luhuana tsushimana Möllendorff, 1900: p.108 (原記載文) 産地:「Tsushima und Iki.」。 ハンス・フルストルファー(Hans Fruhstorfer :1866-1922)が対馬と壱岐で採集したものに基づく。記載者のメーレンドルフ(Otto Franz von Möllendorff)は色帯変異として simplex、subzonata、taeniata、fuscozona、 subtrizona、tricolor、nigrescens の7型を区別しているが、これ以降これらの名が使用されたことはない。 ツクシマイマイ(筑紫蝸牛) E. h. hesperia Pilsbry,1928 = ツクシマイマイ E. herklotsi タイプ産地はNagasakiで、今日ツクシマイマイと呼ばれるものと事実上同じ。そもそもツクシマイマイという和名も最初はこの hesperia に対して新称されたもので、herklotsi の方にはハアクロマイマイという和名が付けられていた。記載者のピルスブリーは、九州産マイマイ属で最古の学名である herklotsi を九州南部の個体群(=タカチホマイマイ)だと考えたため、北部のものには新たに hesperia と名づけて亜種として区別した。herklotsi のタイプ標本が、長崎を中心に活動したシーボルトの収集品であることからすればむしろ不自然な考え方であるが、herklotsi を記載した本人であるマルテンス自身が後に北部のものを luhuana として別種扱いしていることなどから、ピルスブリーはシーボルトが誰か人を使って九州南部のものを手に入れたのだと推定している。しかし他の研究者らは herklotsi のタイプ標本は長崎近辺の産であり、ピルスブリーが改めて長崎から記載した hesperia はその異名だと考えており、一般にもこれが受け入れられている。 【原記載】 Euhadra herklotsi hesperia Pilsbry, 1928 Proc. Acad. Nat. Sci. Phil. 80: pp.127-129, pl.15, figs.1-3.(原記載文, 写真(図1-7)) タイプ産地:Nagasaki(長崎市)。タイプ標本は殻高22mm、殻径40mm。 オオヒュウガマイマイ(大日向蝸牛) E. h. hyugana Kuroda,1936 = ツクシマイマイ E. herklotsi 名の通り宮崎県などに分布する大型のものを言うが、従来からツクシマイマイのシノニムとするのが一般的。殻高29mm・殻径47mmに達し、殻口は暗紫色、殻口内は紫色をしており、ツクシマイマイより殻高が高く、体色が全体的に黒っぽいとされ、特に螺塔部が赤褐色を帯びるのが特徴的だとされる。和名は日向に産する大型マイマイの意で、他にヒュウガマイマイという名の貝があるわけではない。 【原記載】 オホヒウガマイマイ Euhadra herklotsi hyugana Kuroda, 1936 Venus 6(2): 82-84, pl.4, figs.1-2. タイプ産地:「near Tokuzumi, Hinokage, Miyazaki Prefecture(宮崎県日之影町七折徳富)」)。ホロタイプは殻高29.0mm、殻径47.0mm、パラタイプは殻高28.5mm、殻径45.3mm。 キリシママイマイ(霧島蝸牛) E. h. kirishimensis Kuroda,1936 =タカチホマイマイ E. nesiotica 霧島温泉の丸尾滝がタイプ産地で、霧島山周辺に分布するものを言うが、分子系統からも形態的にもタカチホマイマイと同じもの。殻高19mm・殻径30mmほど、ツクシマイマイより小型で、鈍い周縁角があるとされ、特に殻口縁が紅色を呈するのが特徴的であるとして区別された。殻の模様は黄白色で無帯のもの、1234型のもの、全体に黒いものなどがある。 【原記載】 キリシママイマイ Euhadra herklotsi hyugana Kuroda, 1936 Venus 6(2): 83-84, pl.4, figs.3-4. タイプ産地:「Maruo-taki (water-fall), Kirishima hot springs, Kagoshima Prefecture」(鹿児島県霧島温泉丸尾滝)。ホロタイプは殻高19.0mm、殻径30.0mm、パラタイプは殻高20.0mm、殻径31.0mm。 タカチホマイマイ(高千穂蝸牛) E. h. nesiotica (Pilsbry,1902) =タカチホマイマイ E. nesiotica 種子島がタイプ産地で、九州本土の南部・種子島・屋久島に分布する。2007年の論文で分子系統解析の結果から独立種とされた。殻高24mm・殻径36mmほどになり、ツクシマイマイより殻高が高く、臍孔が狭い。和名には建国の意を含めて高千穂の名が付けられた。種小名"nesiotica"は「島の~」の意で、タイプ産地が種子島であることによるが、タイプ産地の nesiotica には古くはチンヒトスジマイマイ(チンヒトスヂマイマイ)という和名があった。一方タカチホマイマイという和名はピルスブリーの言う herklotsi(=九州本土南部の個体群)に対して新称された和名であったが、後にherklotsi は九州北部の個体群(今日のクシマイマイ)だと考えられるようになると同時に、種子島の個体群と九州本土南部の個体群が同種とされるに至り、九州南部群に与えられた最古の学名 nesiotica と、九州本土南部の個体群に与えられた和名タカチホマイマイとの組み合わせが有効名として使用されている。 【原記載】 Eulota (Euhadra) luhuana var. nesiotica Pilsbry, 1902 Proc. Acad. Nat. Sci. Phil. 53 p.614-615.(原記載文) タイプ産地:Tane-ga-shima, Osumi (Mr. Y. Hirase, No.73b.) (大隅・種子島--平瀬コレクション No.73b)。原記載におけるタイプ標本の寸法は1個は殻高221⁄2mm、殻径35mm、臍孔3mm、他の1個は同201⁄2mm、301⁄2mm、臍孔22⁄3mm。 タイプ標本は1928年のピルスブリーの論文に図示されている(図4・5)。 ヤクシママイマイ(屋久島蝸牛) E. h. yakushimana (Pilsbry et Hirase,1903) =?タカチホマイマイ E. nesiotica 屋久島と種子島に分布し、分類上の位置には議論がある。殻高15mm・殻径22mmほどとツクシマイマイの半分ほどしかない小型種で、殻高が高く、臍孔が狭い。殻口は白色。なお『原色日本陸産貝類図鑑』(p.165)には「色帯は0000型(無帯)」とあるが、原記載にもあるとおり実際には様々な色帯型があり、誤りである(標本例)。分子系統ではタカチホマイマイと区別できないとされるが、殻が小型で殻口が下方を向くことや生殖器の形態に違いがあるとされる。主として屋久島の南西部に分布するが、分子系統解析に用いられたものは屋久島北部のものであるため、分類上の位置については十分な結論は出ていない。独立種 E. yakushimana とする見解もある。 【原記載】 Eulota luhuana yakushimana Pilsbry & Hirase, 1903 Nautilus 17, p.78.(原記載文) タイプ産地:Yakushima, Osumi (大隅、屋久島)。原記載によるタイプ標本の大きさは殻高17.5mm、殻径23mm、臍孔径2mmおよび同じく17mm、23mm、2.5mm。 最初ピルスブリーらはヤクシママイマイを luhuana (その当時はツクシマイマイ類を指す)の亜種として記載したが、1928年の論文では殻の特徴から独立種に昇格させている(p.124, 図2-2a)。
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