鐘
『俵藤太物語』(御伽草子) 俵藤太は琵琶湖の底の龍宮を訪れ、引出物に重宝の釣鐘を贈られる。異類異形の鱗(うろくず)たちが鐘を唐崎の浜へ引き上げ、小蛇が鐘の龍頭をくわえて三井寺まで運ぶ。三井寺では、多くの人が参詣して鐘供養が行なわれる。
『沈鐘』(ハウプトマン) ハインリヒが造った鐘が、教会を嫌う森の精によって湖に落とされる。ハインリヒは妖女に魅せられて妻子を捨てる。妻は湖に身を投げて死に、彼女の手が湖底の鐘に触れる。湖底から鐘の音が聞こえ、ハインリヒは錯乱する。
『ドイツ伝説集』(グリム)203「ダッセル近郊の悪魔の水浴び場」 悪魔が教会から持ち去った鐘が、底なし沼に眠っている。潜水夫が鐘を引き上げようとしたが、鐘のそばに黒犬と恐ろしい人魚がいて妨げた。
『用明天王職人鑑』3段目 龍宮の紫金を材として鋳造された天竺祇園精舎の鐘が、先帝欽明天皇の代に異朝から渡ったが、筑紫の海に捨てられた。敏達天皇の代に、その鐘は播磨潟の海の底から波に打たれて現れた。「諸行無常是生滅法・・・・」の経文を木遣り唄として、人々は鐘を引き上げた。
『道成寺』(能) 道成寺の鐘供養の場に白拍子が来て、人々に舞いを見せた後、釣り鐘を落としてその中に姿を消す。白拍子は大蛇と化して鐘の中から現れ、僧たちの必死の祈りによって、日高川の深淵に身を沈める→〔禁制〕3a。
『道成寺縁起』 熊野参詣の美僧が、清次庄司の妻に恋慕され追いかけられて、道成寺の鐘の中に身を隠す。しかし女は大蛇と変じて鐘に巻きつき、僧を焼き殺す。
『用明天王職人鑑』3段目 天竺祇園精舎の鐘が播磨潟から引き上げられ、「尾上の鐘」と命名されて鐘樓が建てられる。鐘供養の日に遊女が参詣し、自分を捨てた旧夫五位の介諸岩と出会って怒り、鐘樓の鐘を落としてその中に飛び入る。高僧の祈りにより、女は大蛇と変じて現れ、「今よりは夫婦の守り神となろう」と告げて昇天する。
★3a.鐘をついて時を知らせる。
『蛇の玉』(昔話) 蛇女房が、自分の子供にしゃぶらせるために両方の目玉をくり抜いて与える。蛇女房は「私はもう世の中を見ることができません。この子が大きくなったら三井寺の鐘つきにして下さい。鐘の音で朝夕を知って暮らします」と夫に請う。子供は目玉をなめて成長し、鐘つきになる。
*人が撞かなくても自動的に鳴って、時を知らせる鐘→〔禁忌〕8bの『今昔物語集』巻31-19。
*日没を告げる鐘を、それより1時間前に鳴らす→〔時計〕3bの『吾輩は猫である』(夏目漱石)11。
『夜叉ケ池』(泉鏡花) 毎日3度、鐘を撞いて、夜叉ケ池に棲む龍神に聞かせねばならない(*→〔封印〕1b)。それを怠ると、龍神は天地を馳せ廻り、池から津浪が起こって村里は水没する、との言い伝えがあった。長年、弥太兵衛老人が鐘をついていたが、ある夜、弥太兵衛は急病で死んだ。たまたまそこへ来合わせた萩原晃は、臨終の弥太兵衛に請われ、彼に代わって鐘を撞くことを引き受けた→〔水没〕1。
★4.鐘をつかない。
つかずの鐘の伝説 成相寺の「つかずの鐘」は、慶長15年(1610)に鋳造されたものである。寺が鋳造の奉加金を集めに麓の村を廻った折、赤ん坊を抱いた女が「貧しくて、この子の他には差し上げるものがない」と言って断った。鐘鋳造の当日、鋳型に湯を流し込んでいる時、女がその側を通ろうとして倒れ、煮えたぎる湯の中へ赤ん坊を落としてしまった。鋳あがった鐘は、つくと、赤ん坊の泣き声のような音がしたので、つかないままになった(京都府宮津市大字成相寺)。
★5.無間(むげん)の鐘。
『鏡と鐘』(小泉八雲『怪談』) 遠江の無間山の寺で、新しい大きな鐘が鋳造された。この鐘をつき破った者には多くの財宝が授かる(*→〔鏡〕12)というので、毎日大勢が押し寄せて、朝から晩まで力いっぱい鐘をついた。その音が耐えがたく、寺僧たちは鐘を沼まで運び、沈めてしまった〔*本物の鐘が沼の底なので、以後、何か別の物を無間の鐘に見立てて叩き、財を願うようになった〕→〔見立て〕3。
無間の鐘の伝説 昔、仙人が、粟が岳頂上の松の枝に小さなつり鐘をかけた。「この鐘を7度つけば、末永く長者になれる」というので、強悪無道な荒石長者が、粟が岳に登って鐘をつく。そのとたん彼は地獄の底に落ちた。食事は蛭と化して食べることができず、苦しんで死んだ。以来、「女房の朝寝と無間の鐘は、朝のご飯が蛭(昼)になる」という歌ができた(静岡県掛川市粟が岳)。
*鐘と同じ種類の言葉
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