雪
『青柳のはなし』(小泉八雲『怪談』) 君命で能登から京都へ向かう若侍が、吹雪の山道を行くうち夜になり、柳の木の近くの一軒家に宿を借りる。その家には老人夫婦と青柳という美しい娘がおり、若侍は青柳に求婚し、妻としてもらいうける。しかし青柳は柳の精だった→〔木〕5。
*身延山参りの旅人が雪道に迷い、宿を求める→〔三題噺〕1の『鰍沢』(落語)。
*2人の木こりが、吹雪のため小屋に宿る→〔雪女〕1の『雪おんな』(小泉八雲『怪談』)。
★2.雪の夜に、神仏またはそれに等しい存在が身をやつして訪れ、福を授ける。
『笠地蔵』(昔話) 雪の降る年越しの夜の明け方、6体の地蔵が「6体の地蔵さ、笠取ってかぶせた爺あ家はどこだ、婆あ家はどこだ」と歌いつつ、橇を引いて来る。爺婆が「ここだ」と答えると、地蔵たちは宝物の袋を投げこんで帰って行く〔*仏教説話では、地蔵や観音は、普通の人間の姿に化身して人を助け、後にそれが地蔵・観音であったことがわかる、という形をとるのが一般的であるが、『笠地蔵』は異例で、地蔵の姿のまま、やって来る〕。
『鉢木』(能) 同族の者に所領を奪われ、貧しく暮らす佐野源左衛門常世の庵に、大雪の夜、旅の修行僧(=実は鎌倉幕府の執権北条時頼)が宿を請う。常世は旅僧の正体を知らぬまま、秘蔵の梅・桜・松の鉢の木を焚いてもてなし、幕府への忠義の心を語る。鎌倉へ帰った北条時頼は、武士たちを召集して忠誠心を試し、真っ先に駆けつけた常世に、梅・桜・松の鉢の木にちなんで、梅田・桜井・松枝の荘園を与える。
★3.雪と足跡。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第20章 トリスタンは寝室を抜け出して、マルケ王妃イゾルデのいる建物まで行き、密会する。ところがその夜は道が雪でおおわれ、月も照っていたので、内膳頭マリョドーが足跡を見つけ、トリスタンとイゾルデの関係をマルケ王に教える。
『本陣殺人事件』(横溝正史) 一柳賢蔵は婚礼の晩に、屋敷内の離れ家で新妻を殺して自殺する。彼は、賊が自分たち夫婦を殺して逃げたように見せるため、雨戸を開けておくが、その時、外には雪が一面に積もっていた。雪の上に足跡がなければ雨戸を開けても無意味だ、と賢蔵は思い直して雨戸を閉め、やむなく密室殺人事件の形にする→〔初夜〕3。
*雪を降らせて足跡を隠す→〔足跡〕1bの『跡隠しの雪』(昔話)。
*雪に足跡が残らないように工夫する→〔足跡〕2の『ドイツ伝説集』(グリム)457「エギンハルトとエマ」。
『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」 ロシア目指して旅をする「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」は、一面の雪野原で夜をむかえた。雪から突き出た木に馬をつなぎ、「ワガハイ」は雪中に寝ころんで熟睡する。翌朝目覚めると、「ワガハイ」は村の墓地に寝ており、馬は教会の高い塔からぶらさがっていた。昨夜は村全体が雪に埋もれており、「ワガハイ」が馬をつないだ木は、教会の塔の先端だった。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「雪達磨」 大雪の夜。贋金使いの悪人たちの内輪もめで、1人が興奮して頓死する。仲間たちは役人の調べを恐れ、巨大な雪だるまを作って死体を隠す。しかし2週間ほどして雪は溶け出し、悪人たちは半七に捕らえられる。小細工をせず死体を外へ捨てておけば、行き倒れということで済んだかもしれなかった。
★5b.雪だるまの恋。
『雪だるま』(アンデルセン) 子供たちが、お屋敷の庭に雪だるまを作る。番犬が雪だるまに、地下室の暖かいストーブのことを話すと、雪だるまはストーブを恋い慕い、「ぼくの体の中が妙にミシミシ言う。何とかして彼女(ストーブ)の所へ行きたいものだ」と願う。やがて雪どけ模様になって、雪だるまはくずれ、中からストーブの火掻き棒があらわれた。番犬は、「火掻き棒を芯にして作った雪だるまだから、あんなにストーブにあこがれたんだ」と悟った。
★6.雪山。
『銀嶺の果て』(谷口千吉) 銀行強盗の野尻・江島・高杉が、冬の北アルプスに逃げ込む。高杉は雪崩に流され、野尻と江島は山小屋にたどり着く。そこにいた登山家の本田に道案内をさせて、野尻と江島は山越えをしようとする。山に慣れない2人が滑落しかけるのを、本田はザイルで助け上げる。その時本田は骨折し、動けなくなる。江島は本田を見捨てて行こうとするが、野尻は「そんな恩知らずなことはできぬ」と言う。2人は格闘し、江島は谷底へ落ちる。野尻は本田を背負い、山小屋へ戻る。
『八甲田山』(森谷司郎) 日露開戦に備え、雪中での行軍・戦闘研究のために、明治35年(1902)1月、青森と弘前の部隊が、北と南から厳寒の八甲田山に入る。青森隊は210名の大部隊だったが、猛烈な暴風雪に見舞われ、方向を見失う。「前進」「帰営」と指揮も乱れ、兵たちは雪の中に倒れ、死んでいった。生存者はわずか12名、大隊長山田少佐は拳銃自殺した。一方、弘前隊は少数精鋭の27名編成で、周到な準備のもと、無事に八甲田山を踏破する。しかし2年後の日露戦争で、彼らは全員戦死した。
★7.真夏の雪。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)100「雪の三タ丸屋(サンタマルヤ)」 るそんの国の王様が、貧しい大工の娘・丸屋に求婚する。丸屋は、「私は一生びるぜん(処女)でいることを神様に誓った身です(*→〔処女〕4)」と言って、天に祈る。すると、暑い6月(旧暦)なのに雪が降り出し、みるまに5尺も積もった。天から花車が降りて来て、丸屋を天へ連れて行った。雪の日に昇天した丸屋は、神様から「雪の三タ丸屋」という名をもらった→〔恋わずらい〕4b。
雪と同じ種類の言葉
- >> 「雪」を含む用語の索引
- 雪のページへのリンク