関心事と所信
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/29 06:11 UTC 版)
音楽は若いころからラットの生活の重要な一部を占めてきた。あるインタビューでは、ペギー・マーチの「愛のシャリオ (I Will Follow Him)」や、ポールとポーラ(英語版)の「ヘイ・ポーラ (Hey Paula)」を聴いて英語を学んだと述べた。音楽を聴くことは仕事中に漫画のインスピレーションを得るための重要な儀式でもある。「ファッショナブルな女の子」を描く場合、スケッチの段階ではポール・マッカートニーの曲をかけ、込み入ったディテールを描くときにはインドネシアのガムランに変える。ラットはポピュラー音楽のファンで、特に1950年代と60年代のロックを好み、ビートルズ、ボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリーを聴いている。またカントリー音楽、特にハンク・ウィリアムズやロイ・ロジャース(英語版)の曲は「つつましやか」だと感じてお気に入りとなった。音楽を聴くだけにとどまらず、ギターとピアノを暗譜で弾きこなす。 かつてマレーシア社会では漫画家は低く見られており、作家と比べて知的に劣り、画家と比べて技術が劣っていると考えられた。1950年代に原稿料を映画チケットで支払われたのはラットだけではない。ルジャブハッドは10本の風刺漫画に対してチケット1枚を与えられたことがある。ほかにも多くの漫画家が同様の報酬を受けたり、わずかな金銭しか支払われなかったりしていた。しかし、たとえ社会的地位が低かろうとも当時のラットは自らの職業に誇りを持っており、自分の作品のセリフとアイディアを誰か別人が書いていると思い込んでいた知人の女友達に立腹したことがある。漫画を描くことは彼にとって職業以上の何かだった。 もしそれが仕事だとすれば、私が子供のころから今まで33年も続けているのはどういうわけだろうか? 仕事は決まった時間に行うものだ。出勤しては仕事を済ませ、やがて退職する。仕事であればとっくに退職していただろう。しかし、私はまだ描き続けている。私にとってこれは仕事ではなく、当然やるべきことなのだ。 —ラット(2007年) ラットのサインで「L」の字が引き伸ばされているのは、作品を完成させた喜びから来るものだという。ラットは漫画を描く最大の目的は人々を笑わせることだと述べている。彼が言うには、漫画家としての自分の役目は、「人々が感じていることをユーモラスな漫画に変換すること」である。彼には漫画を通して主張を押し付ける意図はなく、人々は自分の頭で考える自由を持つべきであり、自分にできるのはせいぜいユーモラスなシーンの裏にある深い意味を考えさせることくらいだと信じている。彼にとって漫画を描くことの報いは幼少期から単純なものだった。 おもしろい絵を描いて人を楽しませるのは気分のいいものだ。子供のころならなおさらだ。家族や友達に自分の絵を見せてちょっとでも笑ってもらえたとき、私は芸能人にでもなった気でいた。 漫画家としての誇りから、ラットは漫画制作を尊敬すべき職業に押し上げようと試みた。1991年には同業の漫画家Zunar、ルジャブハッド、ムリヤディとともに「Pekartun」(Persatuan Kartunis Selangor dan Kuala Lumpur、「セランゴール州・クアラルンプール漫画家協会」)を結成した。Pekartunは展示や公開討論を開催し、一般の漫画に対する意識を高めるとともにメンバー間の親睦を深めた。また著作権などの法的な問題をメンバーに対して明確化し、政府とメンバーとの間の仲介役ともなった。その前年、ラットのカンポンボーイ社が企画した Malaysian International Cartoonists Gathering (国際マンガ家大集合)が開催され、国外から多数の漫画家がマレーシアに集まり、作品の展示や交流活動を行った。レザの見るところでは、マレーシアの漫画家が同国人から尊敬を得るようになる上でラットの果たした役割は大きい。 漫画家の権利向上のほかには、環境保護の促進に関心を抱いている。公害と資源の乱用を風刺した作品はいくつもある。1988年、大阪で開かれた国際シンポジウム「アジアの選択 明日の世界――文明、耐性、そして発展」で招待講演を行ったとき、ラットは人口過剰と行き過ぎた工業化に関する環境問題について発言した。さらに、簡素で清浄だったカンポンでの子供時代の思い出を語った。1977年にエンダウ・ロンピン保護林での伐採活動に対する抗議運動が起こったときには、ラットは新聞連載でこの問題を取り上げて活動への支援を集めた。ラットが特に懸念しているのは、彼がいうところの都市開発の負の側面である。ラットは都市開発が伝統的な生き方の喪失につながると信じていた。都市のせわしく洗練されたライフスタイルへ追従を強いられた人々は、古い文化と価値観を忘れるであろう。彼は『カンポンボーイ』、『タウンボーイ』、『マッ・ソム』、そして『カンポンボーイ: イェスタデイ・アンド・トゥデイ』で伝統的な生き方を擁護し、それへの愛情を表した。これらの作品は古くからのライフスタイルを精神的に優れたものとして擁護している。
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