鉄、ナトリウム及び酸素が関与する界面反応による床ライナの腐食に関する知見を欠いていたため、上記腐食により床ライナに貫通孔が生じ得ることを看過した点に関する判断
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「もんじゅ訴訟」の記事における「鉄、ナトリウム及び酸素が関与する界面反応による床ライナの腐食に関する知見を欠いていたため、上記腐食により床ライナに貫通孔が生じ得ることを看過した点に関する判断」の解説
1995年12月8日、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律28条1項の規定に基づく使用前検査の最中に、2次主冷却系のCループの配管に取り付けられていた温度計のさや管の細管部が破損し、この破損部から配管室内に2次冷却材ナトリウムが約3時間40分にわたって漏えいする事故(以下「本件ナトリウム漏えい事故」という。)が発生し、漏えいしたナトリウムが空気中の酸素と反応してナトリウム火災を起こした。 本件ナトリウム漏えい事故では、漏えい箇所直下近傍の床ライナ(板厚約6mm)に凹凸が生じ、全体として上下方向にたわみが認められ、局所的に0.5mmないし1.5mm程度の板厚減少が観察され、床ライナの加熱温度は最高で750℃と推定されている。動燃は、その原因等を解明するため2回にわたって燃焼実験を実施した。1996年(平成8年)4月8日の燃焼実験Iでは、鋼鉄製の円筒容器内でナトリウムを漏えいさせたところ、床ライナを模擬した鋼製の受け皿に貫通損傷はなかったものの、最大約1mmの減肉が認められ、受け皿で測定された温度が740℃ないし750℃で推移した。同年6月7日の燃焼実験IIでは、コンクリート製容器内でナトリウムを漏えいさせたところ、厚さ約6mmの鋼製の床ライナに5箇所の貫通孔が認められ、床ライナで測定された温度がおおむね800℃ないし850℃で推移した。 本件ナトリウム漏えい事故及び燃焼実験Iでは、室内からの湿分の供給が少なかったため、水酸化ナトリウムの生成が少なく、酸化ナトリウムと鋼板(鉄)が高温で反応して複合酸化物を形成することにより腐食するナトリウム・鉄複合酸化型腐食が生じたと考えられる。他方、燃焼実験IIでは、実験を行った容器の容積が小さかったこと等から、ナトリウムの燃焼に伴い室内の温度が高温となってコンクリート壁から多量の水分が放出され、これにより生成された水酸化ナトリウム等の溶融体に、過酸化ナトリウムが溶け込んで過酸化物イオンとなり、床ライナ(鉄)を急速に腐食させる溶融塩型腐食(界面反応による腐食)が生じたと考えられる。そして、溶融塩型腐食は、ナトリウム・鉄複合酸化型腐食より約5倍腐食速度が速いことが判明した。 この鉄、ナトリウム及び酸素が関与する激しい腐食の知見は、本件処分当時の高速増殖炉の開発及びその安全審査の関係者にとっては、問題意識があれば知り得た知見であったものの、知られていなかったため、本件安全審査においては、床ライナの健全性については熱膨張によって機械的に破損するか否かということに重点を置いた審査がされた。 この点において、原審は本件原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項についての安全審査における看過し難い過誤、欠落に当たるとした。 しかし、最高裁は、条件次第ではナトリウムの漏えいにより溶融塩型腐食が生ずる場合があり、この場合に床ライナに貫通孔が生ずれば、「漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触の防止」という床ライナの機能が果たされないこととなることを認めたが、しかし、床ライナに溶融塩型腐食が生じても、床ライナの板厚等の具体的形状次第では漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止することが可能であるというのであれば、2次冷却材漏えい事故に備えて上記の安全対策を行うことを内容とする本件原子炉施設の基本設計は合理性を失わず、床ライナの腐食に対する対策が、後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階における規制の対象とされ、その基本設計の安全性にかかわる事項に含まれないとすることは、不合理であるとはいい難いことになるとした。 そこで、検討すると、(1) 本件ナトリウム漏えい事故後に, 動燃は, 現状の本件原子炉施設において2次冷却材ナトリウムが漏えいしたときに床ライナに最も腐食速度の速い溶融塩型腐食が生ずると仮定して, ナトリウム燃焼解析を実施した, (2) その解析条件は, 漏えいナトリウムの初期温度を507℃, 部屋の初期温度を35℃, 相対湿度を80%, ナトリウムの漏えい継続時間を80分から82分等としたものであった、(3) 解析結果は、板厚約6mmの床ライナの減肉量が、中央値で3.2mmないし3.3mmであり, 上限値で5.2mmないし5.5mmであった、というのであり, 要するに、現状の施設において上記解析条件と同じ条件下で溶融塩型腐食が生じても, 現状の板厚約6mmの床ライナに貫通孔は生じないというのである。確かに、上限値の場合には、現状の板厚約6mmの床ライナでは、残存肉厚が0.5mmないし0.8mmであり、余裕として十分か否かが問題となるが、減肉量に相応した板厚等の具体的な設計によって床ライナの健全性を維持することも不可能ではないということができる。また、ナトリウム漏えいワーキンググループの第3次調査報告書は、床ライナの腐食抑制対策として、最高温度を低く抑えること及び高温の持続時間を短く抑えることが有効であるとの基本的な考え方を示しているところ、これを踏まえた腐食抑制対策を採ることも考えられるところである。動燃が1998年(平成10年)5月付けの報告書において取りまとめた設備改善策も、これに沿うものであり。従来の設計の基本的考え方を前提とした上で、その裕度の向上を図るものであるが, もんじゅ安全性確認ワーキンググループは, 上記改善策を前提とすると、最も厳しい条件を考慮しても床ライナの健全性が確保されることを確認した。 以上の点に照らせば、上記の床ライナの溶融塩型腐食という知見を踏まえても、床ライナの腐食に対する対策を行うことにより漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止することが可能であり、2次冷却材漏えい事故に対して床面に鋼製のライナを設置するという対策を行うことはその有効性を失わず、鋼製の床ライナを設置するとの本件原子炉施設の基本設計をもって、不合理なものということはできない。そして、床ライナの腐食に対する対策については、後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階でこれを行うことによって対処することが不可能又は非現実的であるとはいえず、これを原子炉設置の許可の段階においては安全審査の対象に含めないことをもって、不合理であるとはいい難い。
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