重巡最上の誤射
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 05:18 UTC 版)
戦闘後の調査によって、神州丸以下に直撃した魚雷は日本海軍の九三式魚雷(酸素魚雷)である事が判明した。これは3月1日1時27分、最上がヒューストンに対し放った筈の複数本の魚雷が、射線延長線上の神州丸以下船団に命中してしまった同士討ち(誤射)であった。神州丸は優秀な上陸戦遂行能力のみならず旗艦的な司令部機能を有する日本軍にとって虎の子的存在であり、それを輸送船2隻・病院船1隻・掃海艇1隻とともに「撃沈」してしまった海軍の失態は大きなものであった(佐倉丸・第二号掃海艇は沈没、神州丸・蓬莱丸・龍野丸は大破着底)。かつ、神州丸沈没によって座乗していた司令官以下第16軍司令部は上陸前にあわや全滅という危機に陥り、中・東部上陸部隊の直接指揮に必要な遠距離用無線機を喪失している。バンタム湾は浅瀬の泊地であるため船は完全沈下せずに着底し、被雷は第1次上陸部隊の揚陸後で、当日は月齢13と非常に明るい夜であったため人的被害は最小限に食い止められたが、それでも約100名が死亡した。なお『戦史叢書第26巻、蘭印・ベンガル湾方面海軍進攻作戦』では「最上」の誤射としているが、当時の初雪砲術長は第11駆逐隊(初雪、白雪、吹雪)が発射した魚雷だった可能性を指摘している。当時の春風駆逐艦長は、第5駆逐隊(朝風、旗風、春風)や他艦の発射した魚雷も命中しなかったか、味方輸送船団の方向に流れていったと回想している。第五水雷戦隊の消費弾数は、名取(主砲29発、魚雷4本)、第5駆逐隊(主砲16発、魚雷17本)、第12駆逐隊(主砲37発、魚雷18本)、第11駆逐隊(主砲116発、魚雷4本)と記録されている。 帝国陸軍はバタビア沖海戦における誤射事件を不問に処し、帝国海軍の名誉に傷をつけぬよう神州丸以下の沈没は敵軍の攻撃によるものにすることを提案、かつ責任追及も行っていない。「人情将軍」と謳われた人格者たる名将今村陸軍中将も、後日司令部揃って謝罪に参った海軍関係者を快く赦している。戦後、今村中将は「2隻の高速魚雷艇にやられた」と回想している。また『提督小沢治三郎伝』には今村の感謝が述べられているが、この「大巡二隻」が三隈と最上である。 この提督は、万一にも連合艦隊の不承認があったらいけないと思ってか、全くの独断によりこの大きな兵力転用を断行しようとしている。 右の艦艇増加により私の軍の輸送船団は二月十八日カムラン湾を出航し、巡洋艦一隻、駆逐艦三十二隻に護衛され、赤道を越え南へ南へと進んだ。 小沢長官はそれでも尚なお私の軍の上を案じ、更に大巡二隻を増派してくれた。 バタビヤに近いバンタム湾付近の海戦で、わが駆逐艦が敵巡洋艦二隻と交戦している最中、突如わが大巡二隻がかけつけ、米巡洋艦ヒューストン(一万トン級)と豪巡洋艦パース号(七千トン級)と交戦、見事に撃沈した。このため輸送船団は僅か四隻沈没百名戦死しただけで上陸作戦に成功した。 もし小沢長官の独断専行の協力がなかったとしたら、どんな大きな犠牲が生じたか、また上陸そのものが可能だったかどうかもわからなかっただろう。 第十六軍主力方面の上陸作戦の成功は、全く小沢長官の賜たま物ものだったので、私は今にその時の感激を忘れないでいる。 — 生出寿『智将 小沢治三郎』68ページ、『提督小沢治三郎伝』掲載の今村均回想より引用 第十六軍参謀長岡崎清三郎陸軍少将と、最上艦長曾爾章大佐は、同じ中学校の先輩と後輩という関係であった。最上艦長によれば、太平洋戦争後の岡崎は曾爾に「船上からまたとない珍しい海戦を見物させてもらった」と笑ったという。曾爾自身は、ジャワ方面の行動で最も残念だったのは(バタビア沖海戦の誤射ではなく)知床型給油艦鶴見が補給任務後に潜水艦(K-15)によって撃沈され多数の戦死者を出した事……と回想している。 のちの陸軍による神州丸サルベージ作業中、「九三式」の刻印がある九三式魚雷の破片が船倉ヘドロ内より発見されたがこれはバンタム湾に投棄され証拠隠滅、陸軍省が企画した対外用公刊戦史『大東亜戦史 ジャワ作戦』(1942年11月)では、連合軍の駆逐艦や爆撃機の攻撃によって神州丸以下は沈没したことになっている。 以下は上陸後の3月1日15時50分および54分に、海軍に対して第16軍司令官今村均陸軍中将と第1揚陸団長伊藤忍陸軍少将が送った謝辞である。 二月二十八日夜貴戦隊海戦ノ赫々タル戦果ヲ慶祝シ併セテ当軍主力ノ戦闘ニ対スル献身的【一字不明】協力ヲ深謝ス — 今村第16軍司令官(第5水雷戦隊・第7戦隊司令官に対し) 一、非常ナル御苦心御尽力ヲ深謝ス 二、損傷輸送船団ハ砲弾ノ外高速魚雷艇ノ攻撃ニ依ルモノノ如シ(後略) — 伊藤第1揚陸団長(第3護衛隊指揮官に対し、救助作業用に使用していた熱田丸より名取に発信)
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