連作短編「コルィマ物語」
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「ヴァルラーム・シャラーモフ」の記事における「連作短編「コルィマ物語」」の解説
シャラーモフの代表作「コルィマ物語」は、1953年から書き始められた短編群の総称である。以下の6つのシリーズからなると言われている。 「コルィマ物語」(1953-1963) 「ルポ・犯罪世界」(1954-1960) 「シャベルの名手」(1959-1965) 「左岸」(1959-1965) 「カラマツの蘇生」(1966-1967) 「手ぶくろ、あるいは第2コルィマ物語」(1970-1973) 1953年から1973年にかけて書かれ、全部で150編以上の短編からなる。これらの作品集で書かれたエピソードには、自身が収容所で体験した事実が織り込まれているものの、基本的にはフィクションである。連作短編という形式をとったのは、シャラーモフが、ロシア文学において伝統的な大河小説の時代は終わったと考えたからである。ただし、その配置は綿密に計画されている。シャラーモフは様々な編集部を訪ねて出版の可能性を探ったが、生前これら全てが旧ソヴィエト連邦国内で出版されることはなかった。しかし、他の反体制的作品と同様にタイプ原稿によるサミズダートとして旧ソ連国内で密かに流通した。1965年頃のモスクワの知識人であれば、たいていシャラーモフの作品に触れていたらしい。一方、シャラーモフの知らぬ間に原稿は国外流出し、タミズダートとして1966年から1976年まで断続的に、ニューヨークのロシア語雑誌「ノーヴィー・ジュルナール」誌に約50編が掲載された。1976年には、選集ではあるが初の単行本がロンドンで出版され、作者の死後にパリのYMCAから第2版、第3版が発行された。また、1967年のドイツ語訳を皮切りに、フランス語、英語、イタリア語、ポーランド語などの翻訳版が出版されている。旧ソ連での発行は、1987年(著者が死去してから5年後)に雑誌「農村青年」に3編が掲載されたのが初めてで、その後ペレストロイカの波に乗って、1980年代末に約10種類の単行本が発行され、1998年には4巻からなる選集が発行された。以降彼は反体制作家としてアレクサンドル・ソルジェニーツィンと並び称されるようになり、生地のヴォログダには記念館が建設された。 2015年現在、日本で訳出されたのはこのうち以下の29編である。 「雪の上を」「夜に」「使徒パウロ」「チェリーブランデー」「コンデンスミルク」「休息日」「ドミノ」「ハイマツ」「赤十字」「チフス検疫」(以上「コルィマ物語」より) 「達筆」「カモ」「ビジネスマン」「シャベルの名手」「十字架」「義肢」「汽車」(以上「シャベルの名手」より) 「ユダヤの太守」「帰依せぬ輩」「奇術」「ブガーチョフ少佐最後の戦い」「センテンツィア」(以上「左岸」より) 「地獄の波止場」「静寂」「勇ましい目」「技師キブレーエフ伝」「手紙」「夕べの祈祷」「カラマツの蘇生」(以上「カラマツの蘇生」より) これらは「極北 コルィマ物語」(朝日新聞社、1998年)の中に訳出されている。「センテンツィア」だけは、「極北 コルィマ物語」の出版以前に内村剛介が「失語と断念―石原吉郎論」(思潮社、1979年)の中で抄訳しているのと、江川卓が雑誌「新日本文学」内で翻訳している。 2015年現在、英語版ではペンギン・ブックスから55編が英訳・出版されている。ペンギン・ブックス版に収録されているのは、 Through the Snow(雪の上を), On Tick, In the Night, Carpenters, An Individual Assignment, A `Push Over' Job, Dry Rations, The Injectetor, The Apostel Paul(使徒パウロ), Berries, Tamara the Bitch, Cherry Brandy(チェリー・ブランデー), A Child's Drawings, Condesed Milk(コンデンスミルク), The Snake Charmer, The Golden Taiga, Vaska Denisov, Kiddnapper of Pigs, A Day Off(休息日), Dominoes(ドミノ), Shock Therapy, The Lawyer's Plot, Typhoid Quarantine(チフス検疫)(以上「コルィマ物語」より) The Procurator of Judea(ユダヤの太守), The Lepers, Descendant of a Decembrist, Comittees for the Poor, Magic(奇術), A Piece of Meat, Esperanto, Major Pugachov's Last Battle(プガーチョフ少佐最後の戦い), The Used-Book Dealer, Lend-Lease, Sententious(センテンツィア)(以上「左岸」より) The Seizure, An Epitaph, Handwriting, The Buisinessman, Captain Tolly's Love, In the Bathhouse, The Green Procurator, My First Tooth, Prosthetic Appliances, The Train(汽車)(以上「シャベルの名手」より) The Red Cross(赤十字), Women in the Criminal World(以上「ルポ・犯罪世界」より) Quiet(静寂), Grishka Logun's Thermometer, Chief of Political Control, The Life of Engineer Kipreev(技師キブレーエフ伝), Mister Popp's Visit, The Theft, The Letter(手紙), Fire and Water, Graphite(以上「カラマツの蘇生」より) である。
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