軽量ステンレス工法の普及
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 00:50 UTC 版)
「オールステンレス車両」の記事における「軽量ステンレス工法の普及」の解説
オールステンレス車の導入は先述した東急・南海・京王の3社を中心に進んでいたが、1970年代以降は保安装置や車両冷房など新たな機器類の搭載が相次ぎ、これによりアルミ車や鋼製車に比べて重量増になる欠点も露呈するようになった。さらに1976年にはブラジル連邦鉄道500形電車の製造権をそれまでオールステンレス車の製造実績がなかった日本車輌製造・日立製作所・三井グループによる企業連合に落札され、東急車輛製造内でもステンレス車両の製造に対する危機感を募らせていたという。 この状況を受けて1978年、東急車輛製造が当時量産中の東急8000系電車について、新開発技術の実証試験のために2両の試作車を製造した。これらは本来デハ8200形に含まれるべきものだった。しかし、当時同社がサンフランシスコおよびボストン向けLRV用車両の製造で提携していた米・ボーイング社が本来は航空機設計用として開発した、コンピュータを用いた有限要素法による3次元構造解析プログラムを使用し、その解析結果を強度計算に取り入れることで車体が全面的に再設計されたため、新形式を起こされデハ8400形8401・8402と付番された。 これらは在来工法による車体を備える8000系編成に組み込まれ、東急東横線での長期実用試験を兼ねた営業運転に充当され、大幅な軽量化と充分な車体強度や耐久性が確認された。この結果新工法を用いた車体は軽量ステンレス車体と命名され、1980年より量産が開始された東急8090系電車で全面採用され、以後同社で製造されるステンレス製車両の標準設計手法となった。 もっとも、この画期的な設計手法が日本の鉄道各社へ広く普及するにはしばらく時間を置く必要があった。これは、国鉄205系電車への採用条件とされ、それに渋々ながら同意して公開に踏み切るまで、開発元である東急車輛製造がこの工法に関する関連技術情報の公開を拒んでいたためである。ただしこの間にも例外として東急車輛製造との共同設計として、アルナ工機と富士重工業で東武9000系電車が1981年、東武10000系電車が1983年に、日本車輌製造で京王7000系電車と京成3600形電車が1984年に製造していた。一方、近畿車輛では近鉄3000系電車を独自の工法でオールステンレスカーを製造している(これらはいずれも従来と同じ車体にコルゲート外板の構造であった)。 205系電車をはじめとする軽量ステンレス車の大量受注の引き替えとして、1984年に東急車輛製造によって行われた関連技術の公開により、オールステンレス車両の普及が進むことになった。東急車輛製造や近畿車輛を除く取引先メーカーの製造能力の制約や、公開入札を行う関係で1社独占の技術の採用が困難といった理由で、これまではやむなくセミステンレスで車両を製造していた私鉄や公営の鉄道などでも、急速にオールステンレス車が普及し、国鉄を継承したJRグループ旅客鉄道でも全社でステンレス車両が採用されるまでに至った。 しかし、一部の私鉄では塗装済みアルミ車が既に普及していて、軽量ステンレス車の普及は進まず、2022年現在も大手私鉄のうち、阪急電鉄、京阪電気鉄道では1両もステンレス車を導入していない。また、帝都高速度交通営団→東京地下鉄や前述の近鉄でも本格的な採用は見送られており、少数に留まった。 軽量ステンレス工法で組み立てられた車両はひずみ防止のためのプレスリブ(ビード)を入れた「ビード(ひも出し)外板」を用いている。コルゲート外板は用いられた理由から端部のつぶし処理と部材同士の接合が難しく、凹凸も多いために自動洗車機による洗浄にも問題があり、見た目にも良くないため、東急8500系電車や京王3000系など、既に在来工法によるステンレス車を導入していた各社で、車体構造を軽量ステンレス車体に変更した増備車を導入する際に、編成としての美観の観点からコルゲートの継続採用を行ったケースを除き、軽量ステンレス工法の公開後急速に廃れた。 なお、ステンレス板にビードを入れる加工を量産ラインで実施するには大形のロールプレス機が必要であり、これが可能な設備を備えるのは東急車輛製造(・総合車両製作所横浜事業所)・川崎重工業・日立製作所などの一部の工場に限られていた。現在は日本車輌製造のみこの設備を備える。日立製作所はステンレス車両の製造を2004年以降行っていない。 この時期にはステンレス鋼は全面的にSUS301Lが用いられるようになり、部材によって強度区分の異なるものが使い分けられるようになっている。
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