裁判所の見解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 02:09 UTC 版)
地方裁判所 合衆国地方裁判所のリチャード・バーマン判事は、リーグ側の処分決定プロセスには根本的な欠陥があり、公平なものだとは言えないとして、リーグ側に出場停止処分の取り消しを命じた。バーマン判事は主に、選手がボールの空気圧を減圧するという不正行為に参加したもしくは不正が行われていることについて大よそ把握していた場合、あるいは選手が捜査への協力を惜しんだ場合に、薬物規定違反の初犯者と同じく4試合の出場停止処分が下される可能性があるという警告がなされたことも、またその先例がないにも関わらず、そのような理由でリーグがブレイディに4試合の出場停止処分を下したこと、リーグが4試合の出場停止処分の根拠としたステロイド使用への罰則規定は本案件の比較対象として不適切であること、ブレイディ側にリーグ側の弁護士ジェフ・パッシュへの質疑の機会を与えず、またリーグ側が行なった目撃者への取調べ内容をブレイディ側と共有しなかったことなどを判決の理由に挙げた。 控訴裁判所 合衆国控訴裁判所は、三人の判事による2対1の判決で地方裁判所の判決を覆した。判決文はまず「我々の分析及び結論を導いた基礎原則は周知のとおり揺ぎ無いものである。それは、連邦裁判所にとって労使協定における見解の余地はごく制限されたものであり、また協定へは、あらゆる法の中でも最高の部類に属する敬意を払っているということである。我々の役割とは、果たしてブレイディがボールの減圧行為に参加したのかどうか、もしくはコミッショナーによって下された出場停止処分は3試合が適切か、5試合が適切か、いや0試合が適切かを判断することではない。仲裁人の処分決定過程を後知恵で批判することでもない。我々の役割とは、仲裁人の処分決定手順と裁定はタフト=ハートリー法の定める最低基準に則っているかを判断することのみに制限されている。(中略)これらの基準は仲裁者の判断に完璧を求めるものではない。むしろ、たとえ仲裁者が真実あるいは法において誤認・過失を犯していたとしても、彼の行動が協定の認める権限内に留まる限り、我々は彼らの裁定を妨害すべきではないと命じているのである。」と述べ、加えて選手側とリーグは何年も前の労使間団体交渉において、コミッショナーはルール違反の疑惑が浮上した場合にはこれを調査し、適切な処分を下し、調停時には主宰者となることを相互に認めていることに言及し、その異端性について触れながらも("Although this tripartite regime may appear somewhat unorthodox")、したがって裁判所は、双方は納得の上でこの条件を含む労使協定に同意したと仮定する他なく、これらを前提とした上で、本案件においてコミッショナーは選手・リーグ間の問題を解決する為に適切に権限を行使したとの判断を下し、地方裁判所の判断を覆した。 控訴裁判事ロバート・カッズマン 三人の判事の中で唯一、地方裁判所の判決を支持したロバート・カッズマン判事は、選手団とリーグ間で結ばれた労使協定の第46条に着目し、同条項はコミッショナーが罰則を下す場合、その基準を選手側に知らせ、控訴審においては罰則に異議を申し立てる機会を選手に与える必要があると記していることを指摘した。その上で、コミッショナーが控訴審後に出場停止処分の事実的根拠をすり替えたとき("When the Commissioner, acting in his capacity as an arbitrator,changes the factual basis for the disciplinary action after the appeal hearing concludes")、それは協定が定めた、適切な告知の義務を彼が怠り("he undermines the fair notice for which the Association bargained")、選手が告発に対抗する為の機会を奪い("deprives the player of an opportunity to confront the case against him")、ゆえにコミッショナーに与えられた労使協定下での権限を超越することとなる("exceeds his limited authority under the CBA to decide “appeals” of disciplinary decisions.”)と述べ、そこに着目せず、また根拠のすり替えはなかったあるいはあったとしても重大なものではなかった、と判断した多数派判事の見解には同意できないと記した。またより根本的に、コミッショナーが今回の案件に非常に近い前例があるにも関わらずそれを見落とし、ステロイド使用という不適切な例を裁定の根拠に、4試合の出場停止という前例のない決断を下したことに困惑している、と述べた。 カッズマン判事が事実的根拠のすり替えだと指摘したのは、前述のウェルズ・レポートでは、"more probable than not"(全くないというよりは確かなようだ)、"at least generally aware of the inappropriate activities”(少なくとも不正が行なわれていることに気がついていた)、"it was 'unlikely' that McNally and Jastremski deflated the balls without Brady’s 'knowledge,' 'approval,' 'awareness,' and 'consent'(ブレイディの「知識」・「許可」・「認知」・「同意」なしに二人の用具係がボールの空気圧を減圧したとは「考えにくい」)といった表現で結論付けられているにも関わらず、グッデルの最終結論の文面では、"Brady 'knew about, approved of, consented to, and provided inducements and rewards in support of a scheme by which, with Mr. Jastremski’s support, Mr. McNally tampered with the game balls.'"(ブレイディは「二人の不正を熟知しており、また賛成し、不正に協力する為に二人を勧誘し報酬を与えた」)と記されており、二つの文面の結論には看過し難い相違が存在していると述べた。また、判事が本案件に酷使している例として挙げたのが、主にワイドレシーバーがボールをキャッチしやすくなるように「スティッカム」(粘着性物質)を使用する違反行為で、この場合の初犯者に対する罰則は8,268ドルの罰金となっているが、同じようにボールの握りを向上することで不正な競技上のアドバンテージを得たと説明されている今回の空気圧減圧問題で、ブレイディにはこの罰則を遥かに超える裁定が下されたことを、「労使間協定に則るものではなく、コミッショナー自身の企業正義に基づく裁定である」"his decision in the arbitration appeal was based not on his interpretation of the CBA, but on 'his own brand of industrial justice.'"と指摘した。
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