裁判所の関与
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/19 15:34 UTC 版)
特定調停法は、調停委員会や裁判所が公正妥当な調停の成立に向けて積極的に関与することを認めている。 まず、調停委員会が当事者に対し調停条項案を提示する場合には、当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない(同法15条)。調停委員会は、この意味で適切な内容の合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が適切な内容のものであるとは認められない場合において、裁判所が17条決定(後述)をしないときは、特定調停が成立しないものとして、事件を終了させることができる(同法18条)。例えば、貸主が無登録貸金業者であることが判明したような場合、貸主に債務名義を付与するのは妥当ではないとして、事件を終了させることがある。また、特定債務者が一部の貸主との間で他の貸主に比して極端に有利な内容の合意をしたような場合も、公正ではないとして、事件を終了させることがある。 調停委員会が当事者に対してあらかじめ調停条項案を提示し、出頭することが困難であると認められる当事者(遠隔の地に居住しているなど)があらかじめその調停条項案を受諾する旨の書面(受諾書面)を提出しているときは、その当事者が期日に出頭しなくとも、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾すれば、当事者間に合意が成立したものとみなされる(同法16条)。特定調停を確実に成立させることができる手法として多用された時期もあったが、当事者双方との調停条項案の摺り合わせや受諾書面の取付けのために裁判所が膨大な事務を要求されるため、2003(平成15)年ころまでにはほとんど用いられなくなった。 調停委員会は、当事者の共同の書面による申立てがあるときは、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる(同法17条1項、3項)。調停条項の定めが当事者双方に告知されたときは、当事者間に合意が成立したものとみなされる(同条4項、6項)。これは、調停委員会による一種の仲裁であるが、17条決定(後述)による方が簡便であるため、実務上は利用頻度は高くないようである。 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合においても、相当であると認めるときは、職権で、事件の解決のために必要な決定をすることができる(特定調停に代わる決定。実務上、17条決定(じゅうななじょうけってい)と呼ばれる。同法22条、民事調停法17条)。この決定に対して、当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てなければ、この決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する(同法18条)。この決定についても、前述の内容の適切さが要求されている(特定調停法20条、17条2項)。特定調停に代わる決定は、特定調停の成立事由の事実上の原則形態となっている。これは、手続が簡易迅速であること、裁判所の事務処理基準を正面から条項に反映させ得ること、貸主側の内部決裁を得やすい(調停担当者の判断で譲歩したというよりも、裁判所が譲歩を要求したという方が、決裁権者の理解を得やすい)ことなどによるものであろう。
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