蛇行動の克服
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 17:09 UTC 版)
鉄道車両の輪軸においては通常、曲線区間での自己操舵を成立させるために円弧踏面を備えた車輪を車軸に固定してある。 しかしながら、この構造で2軸ボギー台車を構成する場合、限界速度域での自励振動による蛇行動現象の発生は不可避であり、安全な列車運行のためにはこの限界速度が実用速度域よりも高い速度となるよう、台車を設計する必要がある。 この問題は長く重要視されていなかったが、高速台車振動研究会の発足後、日本においてはこの分野での研究が急速に、そして飛躍的に発展した。 これはまず高速化実現の方策の一つとして研究が進められ、松平らによる精密な模型を用いた振動試験の成果を反映する形で、蛇行動対策として高剛性の鋳鋼製側枠を使用し、軸距を伸ばし、更に軸箱剛性を高く設定した新型台車の開発が進められた。 この構想に忠実に従って設計された台車の一つに扶桑金属工業FS-1がある。ユーザーである国鉄と南海電鉄が与えた形式名をそれぞれDT14(TR37)・F-24と称するこの台車は、新しいウィングばね式の軸箱支持機構を備え、従来通り重ね板ばねによる枕ばねを揺れ枕で支える、過渡的な形態を備えていた。だが、それでもこれは在来品と比較して優秀な乗り心地と走行特性を示し、高速台車振動研究会の研究成果を実証するものであった。 もっとも、大型鋳鋼製部品を用いた台車枠は高剛性が確保できる一方で、重量が過大となる傾向が強くばね間重量が大きくなるため軌道保守の観点からは受け入れがたい面があり、また長大な軸距は床下機器艤装スペースの確保や曲線通過時の転向性能の低下といった観点で難があった。このため以後はより軽量かつコンパクトで、ばね下重量の少ない方式の模索が行われ、カルダン駆動方式など駆動システムのばね上装架への移行と歩調を合わせ、台車枠全体について大幅な軽量化を図った鋼板プレス材溶接組み立て構造への移行、過大と見なされた軸距の短縮による適正化、新しい軸箱支持方式の導入、といった新設計の導入が進んだ。 この段階で注目されるのは、航空技術者が多数参加した新興車両メーカーである東急車輛製造が東急5000系(初代)のために1954年に開発したTS-301である。これは徹底的な軽量化実現のため、台車枠全体についてプレス材による全溶接構造を採用し、さらにコイルばねが備える横剛性に注目し、これと振動の減衰特性に優れたオイルダンパーを併用して枕ばねとすることで揺れ枕を省略、側梁と枕梁の間の前後力をボルスタアンカーで伝達する、インダイレクトマウント台車の日本における鼻祖となった形式であり、この台車で採用された各種要素技術はその後の日本のメーカー各社による台車開発に大きな影響を与えた。 このTS-301で採用された、単列のコイルばねの横剛性に依存する形のインダイレクトマウント方式を旅客車用として直接模倣するメーカーはほぼ皆無であったが、前述の空気ばねを枕ばねに採用し、横剛性を左右動ダンパーと過大左右動ストッパーの併用で確保する構造のインダイレクトマウント方式は、保守上の理由などで後述するダイレクトマウント方式の導入に難色を示した各社で採用され、また初期の採用例の一つとなったボルスタアンカーは揺れ枕式の台車でやはり側梁と上揺れ枕間の牽引力伝達手段として、あるいは側梁と上揺れ枕間を結合することで常用速度域での蛇行動減衰特性を確保する手段としてこの時期以降、各社で多用されるようになった。
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