精神科系疾患
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 23:32 UTC 版)
「メンタルヘルス#受診までの期間」も参照 精神障害の場合、患者自身の精神障害に対する差別意識もあって、たとえ「最近何かおかしい」と言う「病感」が起こったとしても、「自分は精神障害である」という「病識」に至ることはなかなか難しい。 特に統合失調症に関しては、世界保健機関(WHO)の報告では生涯有病率は0.1 - 1.8%と、人間の人生において罹患する可能性が決して少なくないにもかかわらず、患者自身が「自分は統合失調症である」という「病識」に至らない場合がとても多い。WHOの1973年の報告では、統合失調症患者の97%に「病識欠如」が認められ、「病識欠如」は統合失調症の特徴の一つとされる。 精神疾患の発症初期において、「統合失調症の陽性症状」と「双極性障害の躁状態」が、「統合失調症の陰性症状」と「双極性障害のうつ状態」が、それぞれよく似ており、経験の浅い医者には区別が難しい場合があるが、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)の両者を区別する際に、「病識」の有無が一つの指標となる。つまり、一つの指標として、統合失調症は「病識が無い」状態が多いが、双極性障害はいかに重くても「病識がある」場合が多い。 精神障害の場合、「病識」は有っても「正しい病識」が無い場合もある。特に統合失調症は、統合失調症の患者が自身を「躁うつ病である」などと、自分が納得できる病名を勝手に自認する場合がある。実際は、統合失調症は、誰でもかかりうる病気であり、正しい病識をもって正しい治療さえすれば普通に社会復帰できるような病気であり、決して差別するような病気ではない。うつ病が誰でもかかりうる普通の病気であることを周知させるために、1990年代末より製薬業界が「うつは『こころの風邪』」との啓発キャンペーンを行い、成功した歴史があるが、統合失調症も普通にかかりうる「こころの病気」であり、統合失調症に罹患することも、決して恥ずかしいようなことではない。[要出典] 双極性障害においても、本人は躁状態を心地良く感じ、病気であると思わないことや、躁状態に戻りたいとさえ考える人もいるため、患者教育にて病識を持たせることが重要である。 精神疾患においては、患者本人の「病識が無い」状態とは別に、患者の周囲の人々に「病識がない」状態が、症状の悪化を招くこともある。特に統合失調症やアルコール依存症などでは、患者自身に病識が無いのが普通である上に、精神障害に対する無理解、あるいは精神障害者に対する差別意識によって、自分の身内が精神疾患だと認めたがらず、そのせいでも治療の開始が遅れがちである。精神障害の初期症状を、単に「ひきこもり」や「家庭内暴力」などと考え、治療を受けさせずに放置していると、次第に悪化して自殺や殺人など取り返しのつかないことになる。統合失調症の患者の存在は、本人でも家族でもない第三者が初めに気付くことが多く、第三者がまず患者の家族に「病識」を持たせることも重要となる。 学習障害やアスペルガー症候群などの発達障害は、患者自身が病気の概念を持てないような低年齢で発現し、学校でのいじめやドロップアウトなどの深刻な事態をもたらすので、家族側の「病識」が特に重要となってくる。特に軽度な発達障害においては、周囲も患者自身も気が付きにくく、そのまま生きづらさを抱えて人生を過ごす場合も多いが、一方で投薬などの大掛かりな治療を必要とせず、現代においては周囲の適切なサポートとソーシャルスキルトレーニング(SST)などの適切な訓練によって、十分に社会適応が行え、普通の人生を送れるような病気となっているので、就職・進学と言った本格的な社会参加の時期を迎える前に、まずは病識を持って正しい訓練を受けさせることが重要となる。 精神疾患の場合、見た目に病的だとは分からないこともあり、特に症状が目立たない発症初期においては、本人や家族にも病気だと解らないことがある。しかし本人に「病識」がなくても「病感」さえあれば、「こころの健康相談」に電話して、医療機関の紹介を受け、すぐに治療が開始できる。発症の初期の場合は投薬治療すらせずに、生活環境を整えるだけで治療できる場合もあり、治療が早ければそれだけ良好な予後が期待できる病気である。仮に重症化したとしても、現代では精神障害用の良い薬もあり、「病識」を持って治療を受けながら普通に社会生活を送っている患者もたくさんいる。 いずれにせよ、自己診断が最も危険であり、正しく「病識」を持つためには、医療機関での診療を受けなければならない。日本では精神保健及び精神障害者福祉に関する法律により、国民の精神的健康の保持が義務付けられており、各自治体に精神保健福祉相談員などが配備されて「こころの健康相談」を行っている。無料で相談できるので、取り返しのつかない事態になる前に、たとえ「病識」が無くとも、「病感」がある段階で気軽に相談することが望ましい。 このように緊急の治療が必要にも関わらず病識欠如により患者が治療を拒むことが想定されるため、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では特定の要件を満たす場合非自発入院による強制入院治療を規定している。
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