種子の散布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 16:56 UTC 版)
植物には基本的に移動能力がない。ある場所で種子が発芽をすれば、そこに一生とどまるのが基本である。従って、種子が好適な場所に到達する何らかの手段がなければならない。現に親植物が生息している以上、親の根元は好適地であるから、親が自分の根元に種子を落とすのは一つの方法だが、それでは親子あるいは子供同士で無意味な競争をせねばならない。また分布拡大の意味からも、種子はある程度以上、遠くに運ばれる必要がある。 実際には、種子にも移動能力はないので、種子の散布en:Seed dispersalは何か外の力に頼らざるを得ない。そのためそれぞれの植物は、何かに頼って種子を散布するための方法を発達させてきた。 風による散布 物理的な力に頼るものとしては、よく見られるものの一つである。裸子植物のクロマツやアカマツでは、種子の一端が薄い膜状に伸びており、空中にでると風を受けて、回転しながら飛んでゆく。同じような構造を発達させたものに、カエデ科のもの(モミジの仲間)やアオギリなどの果実がある。同じ風を利用するにも、キク科のタンポポ(セイヨウタンポポの痩果)などは、果実の一端から多数の毛を生じて、これが風を捉える方法を取っている。同様なものは、ガガイモ科のガガイモの種子、イネ科のススキの果実など、多くのものに見られる。 水による散布 水はものを運ぶ力が強く、特別な適応がなくても勝手に運んでくれるので、多くの種がその恩恵をこうむっていると思われる。特に、水による運搬への適応を示しているので有名なものにラッカセイ(落花生・ピーナッツ)がある。豆の鞘が空気を含み、水に運ばれやすくなっている。スゲの仲間の果実は後述のアリによる種子散布に適応したものと水による種子散布に適応したものの2つに大別される。 海流による散布 海岸性のごく限られた植物に見られる。陸上植物には海水が有害なので、まず塩分に耐えられる事が前提になる。ハマユウやマングローブの胎生種子や、ゴバンノアシなど、熱帯の海岸性植物には、大きく膨らみ海水に浮かぶ果実や種子をつけるものがあり、これらは海流による散布に適応したものである。ココヤシの果実は遠い海岸に流れつくことで有名である。 動物による散布 これにはいくつかの型がある。餌となることによる散布を目指すものは、種子や果実が動物の食料として選ばれ、この時に散布の手助けをしてもらうことを期待する。いわゆる果物(くだもの)を多く含む漿果の果肉はそのために発達したものである。哺乳類や鳥類などに果物を食わせておき、同時に種子を丸呑みさせ、糞と一緒に排出され、そこで発芽する。この場合、果肉は大きく柔らかく、糖分や脂肪を多く含む。それに対して種子は小さかったり、大きくて硬く壊されにくい構造になったりしている。ドリアンやレイシ、イチイのように果皮起源の果肉ではなく仮種皮を果肉として発達させるものも多い。 ドングリの場合、食料になるのはデンプンを多量に蓄積した種子そのもの(コナラの堅果)である。種子散布に寄与する動物はリスのように種子を集めて貯蔵する習性がある動物である。餌になるとその時点で種子としての役割を失うが、それでも絶滅することがないのは、壊されるのが子葉の一部に過ぎなければ充分発芽に役に立つという側面があるとともに、貯蔵種子の一部を忘れてしまったり、食べ残したりしたものも種子散布に役立っていると考えられている。 種子そのものが食料になるのではなく、種子に餌をつけて運ばせるように進化したものがある。スミレ類やカタクリは種子に付属するエライオソームと呼ばれる脂質を多く含む肉質の部分を持つ(ニシキスミレの種子)。これがアリの餌となってアリに運ばれる。 動物の体表面にくっつき、運んで貰うための種子を発達させたものもある。果実や種子の一部に粘着物質を出したり、棘や毛で絡み付いたりするようになっているものである。よく人間の衣服にも付着し、結実期(日本では主に秋)の山野にでかければ、必ず何種類かの種子に絡み付かれ、後で取るのに苦労する、いわゆる「ひっつき虫」イガオナモミの「いが」がこれにあたる。 機械的に種子を飛ばす仕組みを発達させたもの 有名なのはホウセンカで、成熟した果実は何かの刺激があると割れて、皮が大きく歪み、中の種子を跳ね飛ばすようになっている。 服に引っ付いたタウコギの種子 はじけたツリフネソウの仲間の果実 バクダンウリの果実
※この「種子の散布」の解説は、「種子」の解説の一部です。
「種子の散布」を含む「種子」の記事については、「種子」の概要を参照ください。
- 種子の散布のページへのリンク