種子の支配と種苗会社の寡占化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 16:18 UTC 版)
「遺伝子組み換え作物」の記事における「種子の支配と種苗会社の寡占化」の解説
毎作毎に種子を購入する必要性を通じて、開発した種苗会社による種子の支配が強化されるという批判がある。これは、農民には収穫した種子の一部を次回作に利用する権利があり、それを侵害することになるという意見である。しかし、これは、組換え品種に限定された問題ではない。 現代農業では、交雑による雑種第一代が栽培されている。F1品種に実った種子はF2世代であり、F2世代は遺伝的に不均一であるため、F2世代は栽培可能ではあるが、F2世代を栽培すると様々な表現型の植物の雑多な集団となってしまう。そのため、栽培管理上著しく不利になってしまう。 そこで、F1品種を栽培する場合、安定して同一形質の作物を得るためには、毎作毎に種子を購入しなくてはならない。更に、F1品種でなくても自家採種した種子は、遺伝的な純粋性の問題、病原菌汚染や種子の品質の問題、その品種名を名乗って販売する場合の種苗法の問題があり、多くの農家が種子を種苗会社から購入している現状がある。つまり、特定企業による種子の支配の問題は、遺伝子組換え品種に特有の問題ではない。 一方、この意見に対する反論もある。従来の交配や突然変異による育種において優良な品種を開発するためには、扱う材料が膨大で、人員や時間が大量に必要で費用がかかる一方、優良な品種が得られる確率が低かった。それに対して、遺伝子組換え育種では、アイデアさえよければ比較的短期間・低コストで優良な品種を育種できる確率が高いために、小資本のベンチャー企業や小規模な研究機関でも組換え品種の開発に参入できた。 ただし、組換え品種を開発すること自体は比較的容易であっても、それを商品化して上市するためには安全性審査に合格する必要がある。安全性審査には多額の費用と時間がかかるために、小資本のベンチャー企業や中小資本の種苗会社や中小研究機関にはその余裕がなく、それに耐えられる大資本の種苗会社に企業ごと買収されたり、特許を売却したりすることにつながった。つまり、遺伝子組換え品種に対する規制の強化の結果として、大資本の種苗会社による寡占化が進んだという解釈も成り立つ。 その他、組換え品種の多いトウモロコシ、ダイズ、ワタ以外の果樹や野菜やバイオ燃料用作物においても、様々な形質の組換え品種が開発されているが、それらの多くは商業化されていない。その理由としても、同様のことが指摘されている。 更に、別の問題によって寡占化が進んでいるという指摘もある。日本で組換え食品の安全性審査を多数の申請業務を経験しているのは数社の大手企業だけであり、それらの会社では申請のノウハウが蓄積され、提出文書も改善されている。 しかし、例えば、ウイルス抵抗性パパイヤの安全性審査の申請を行ったハワイパパイヤ産業協会などのように、食品安全委員会に組換え作物・食品の商業利用申請を出すことが今後少ないであろう小企業や大学などは、食品や環境への安全性審査に多大な時間と経費を要し、そこで得たノウハウをさらに活用する機会が少なければ、商業化への意欲も低下し、ひいては研究・開発活動自体が停滞・縮小していくとも考えられる。
※この「種子の支配と種苗会社の寡占化」の解説は、「遺伝子組み換え作物」の解説の一部です。
「種子の支配と種苗会社の寡占化」を含む「遺伝子組み換え作物」の記事については、「遺伝子組み換え作物」の概要を参照ください。
- 種子の支配と種苗会社の寡占化のページへのリンク