神話期ギリシア氏族・私有財産制と家族
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「家族・私有財産・国家の起源」の記事における「神話期ギリシア氏族・私有財産制と家族」の解説
私有財産制は家族制度を新しい段階へと発展させる。集団婚を単婚へと移行させ、やがて、単婚制を一夫多妻の家父長制から一夫一婦制へと移行させた。それとともに一夫一婦婚そのものの内部に第二の対立が発展してくる。第二章の一節には「(単婚家族という)この新しい家族形態がまったくの過酷さをもって現れるのは、ギリシアの場合である」と語り、単婚制家族における夫婦を次のように描写している。 「英雄時代のギリシアの妻は、なるほど文明期の妻よりも尊敬されているが、しかし結局のところ、彼女は夫にとって、彼の相続者である嫡出子の母であり、彼の家政婦長であり、また彼が意のままに妾にすることができるし実際にもそうする女奴隷たちの監督官であるに過ぎない。単婚に並ぶ奴隷制の存在、その身にそなえたすべてをあげて男のものになる若い美しい女奴隷の存在、これこそが、単婚にはじめから特殊な性格を、すなわち、妻にとってだけの単婚であって、夫にとっての単婚ではないという性格を、押印するのである。そしてこの性格を単婚は今日でもなお帯びている。」 エンゲルスは、単婚制は財産所有権を掌握した男性による支配の原則で、女性に対して不平等な支配のシステムと考え、この不平等な婚姻は姦通と娼婦制度によって補完されるとした。古代文明の発展の過程と共に、女性は支配の対象となって家財として扱われるようになり、公的社会への参加権をはく奪されていった。エンゲルスは史的唯物論の公式に基づき、文明社会の家族と女性のあり方を以下のごとく端的に言及した。 「アテナイに代表されるイオニア族では……、娘たちは糸紡ぎ、機織り、縫い物、それにせいぜいわずかの読み書きをならったに過ぎない。彼女たちは監禁されているも同然であって、ほかの女たちとだけ交際した。女部屋は家の中の隔離された部分であり……、そこには、男、とくに外来者は容易には入れなかった……。そして、子供を産む仕事を別にすれば、妻はアテナイ人にとって女中頭以外の何物でもなかった。男には体操や公的な討議があったが、女はそれから排除されていた。そのうえ男は、……国家による大規模な売春制度をもっていた。スパルタの女性市民が気品の点でそうであったように、才気と芸術的嗜好の点で古代女性の一般的水準を抜く、無比のギリシア人婦人気質が発達したのは、まさにこの奴隷制度を基礎としてのことであった。……単婚は決して個人的性愛の果実ではなった。というのは婚姻は依然として便宜婚だったからである。それは、自然的条件ではなく、経済的条件に、つまり本源的な自然発生的な共同所有に対する私的所有の勝利にもとづく、最初の形態であった。家族内での夫の支配と、彼の子であることに疑いがなくて、彼の富の相続者に定められている子を産ませること―これだけがギリシア人があからさまに宣言した一夫一婦制の唯一の目的であった。……アテナイでは、結婚だけでなく、夫の側での最小限のいわゆる婚姻上の義務の遂行もまた、法律によって強制されていた。 このように、一夫一婦制が歴史に登場するのは、決して男女の和合としてではなく、いわんやその和合の最高形態でもない。その反対である。それが登場するのは、一方の性に対する他方の性の圧制としてであり、それまで先史の全期をつうじて知られることのなかった両性の抗争の宣言としてである。……。歴史にあらわれる最初の階級闘争は男性による女性の抑圧と合致する。しかしそれ(男女不平等)は同時に、奴隷制および私的な富と並んで、かの今日にまでも続く、すなわち、そこではあらゆる進歩が同時に相対的な退歩であり、一方の幸福と発展が他方の苦痛と排撃によって達成される時期を、開くのである。(家族制度)それは文明社会の細胞形態であって、われわれはすでにここに、文明社会で十全に展開する対立と矛盾の本性を研究することができるのである。()内筆者加筆。」 不貞は厳禁され厳罰に処されはするが、姦通が婚姻制度の不可避な社会制度になった。本来平等であるべき両性の原理が私有財産制によって捻じ曲げられ、男性による女性に対する支配という不自然な婚姻制度の解きえない矛盾を解くために、婚姻制度の邪悪な内面性を制度的に反響させる、対象物として娼婦制度が発明された。 「財産の差が生じるにつれて、したがって、未開の上位段階で、賃労働が奴隷労働と並んで散発的に現われ、そして同時に、その必然的な相関物として自由人の女子の職業的な売春が、奴隷の強制された肉体提供ととならんで現れるようになる。このように集団婚が残した遺産は二面的であるが、それは文明がうみだしたものがすべて二面的であり、二枚舌的であり、自己分裂的であり、対立的であるのと同様である。すなわち、一方には単婚があり、他方には売春という極端な形態を含む娼婦制がある。娼婦性もまた、他のすべてのものと同様に一つの社会的制度であり、それは、昔の性的自由を相続する―男性に有利なように。……。しかし、これとともに、単婚そのものの内部に第二の対立が発展する。自分の存在を娼婦制によって飾る夫のかたわらには放置された妻がいる。……。一夫一婦制ともに、以前には道の二人の登場人物が現れる。妻のおきまりの情夫と、妻に姦通された夫とが。……。一夫一婦制および娼婦制とならんで、姦通は一つの不可避的な社会的制度となった―厳禁され厳罰に処されるが、しかし抑制することはできない。この不正の確実さは依然としてせいぜい道徳的信念に基づくだけである。そして、この解決できない矛盾を解決するために、ナポレオン法典第312条は布告した。「仏: L'enfant conçu pendant le mariage a pour père le mari. 婚姻中に受胎された子の父は ── 夫である」。これが、三千年にわたる一夫一婦制の最後の帰結である。」 一夫一婦制と娼婦制は相互補完を通じて強化され、圧倒的に男性に有利な形ではあるが、男性と女性の両性に対する性的支配権力を強化し続けていく。私有財産制の根幹にある財産継承の原則を支えるべく登場するのが民法である。一夫一婦婚型家族制度の根本をなす民法典、ナポレオン法典第312条に引き続き、日本国民法第772条が規定する「嫡出の推定」すなわち「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」へと継承されている。 法務省は、民法第772条の源流が、ナポレオン法典第312条にあるとは、説明していない。 しかし、産業革命によって資本主義が成熟するとプロレタリアート階級における単婚制家族の崩壊が始まる。そして、エンゲルスは社会主義革命によって資本主義が崩壊すると、私有財産の主要部分、すなわち、生産手段の私的所有の廃止されることで、財産の相続を目的にした一夫一婦制の基礎も消滅するのだと主張した。
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