潜水艦の対抗手段
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 13:26 UTC 版)
ソナーによる探知に対しては、静粛化対策が施される。戦後の潜水艦の活動においては、以前とは比較にならないほど潜航時間の比率が増した結果、静粛化が一段と重視されるようになった。これは、一方では敵に探知されるのを防ぐためであるが、他方では自身のソナーによる探知(特に受聴)を妨げないためであり、攻防のいずれにおいても重要である。そこで、設計上の高度な技術的改良から、艦内床面へのゴムシート敷設や乗員のゴム底靴使用などのような単純な工夫まで、ありとあらゆる対策を実施している。 防振浮台機構 静粛化の代表的な対策には、浮台構造の採用がある。浮台構造は、機関などの騒音源となる機器を船殻に直接設置せずに、浮台(ラフト)の上に搭載し、その付け根部分に吸振ゴムやサスペンションを挟んで船殻に設置することで、騒音の吸収を狙ったもの。激しい機動時には固定する必要がある。 無反響タイル アクティブ・ソナーによる探知への対策として採用される。硬質ゴム製のタイルを船体外面に貼り付け、探信音の反響を軽減させることと、船体内部からの騒音を遮蔽することが期待できる。今日では一般化した無反響タイルだが、その先駆者はソ連であって、少なくとも1960年代後半には実現されていた。 本質的には、大きな騒音源を抱える原子力潜水艦(冷却水循環ポンプ、タービンの減速ギア)のために考案された対策であるが、今日では通常動力潜水艦にまで広く普及してきている。被探知からの回避という点に関しては、通常動力でも核動力でも変わりはなく、むしろ航続性能の点からすれば通常動力潜水艦の方が深刻である。 推進装置静粛化 潜水艦の騒音源の一つとなるスクリューのキャビテーションであるが、これを改善するため、ハイスキュード・スクリューやポンプジェット推進装置が採用される。しかし、静粛化はひとつやふたつの装備の交換で容易に向上するようなものではない。また、船体構造や機関との適合性の検討なしに、この種のスクリューを装備しても、静粛性の向上に寄与するかどうかは不明である。 被探知妨害機動 LD温度境界層(数10mから最大200m程度)下への潜航 深深度潜航 ナックル(急回頭によって強烈な水流を作り擬似目標とする方法。この水流はソナーの探信音も反射する) スパイラルターン(急旋回と急速潜航を同時に行い、擬似目標と気泡の放出で敵のアクティブソナーや追尾魚雷を欺瞞する) ホバリング(水中停止による魚群・水塊の擬似、海流に乗って海峡を突破するなど) 東西方向への逃走(磁力線に触れることを避け磁気探知からの回避) 囮装置 デコイには、気泡や騒がしい雑音を出して敵ソナーの聴音を困難にさせる気泡缶やノイズメーカー、自艦の発する音を実際の何倍にも大きくして流したり、敵魚雷や敵艦のアクティブ・ソナーの音を少し遅らせて多少の変調をかけて大きな音圧で流したりするタイプなどがある。 バラージジャマーに相当するノイズメーカーもあるが、持続が難しいとのことである。 レーダーを妨害するためのチャフに相当する昔からの手段は発泡缶で、泡が作る虚像にアクティブホーミングさせる。新型の魚雷は反射波のドップラーシフトを分析して、航行していた潜水艦と動かない泡との違いを見破って索敵モードに戻ってしまう。それに対抗するディセプションジャマーに相当する多機能デコイもあり、魚雷のアクティブシーカーにドップラーシフトを模擬した偽反射音を遅延させて返し、走る虚像を見せるという。 ところが、さらに新しいスマート魚雷では、長さで潜水艦とデコイを見破るものも出現するに及んだため、発音アレーを曳航して潜水艦を模擬するデコイも出現した。 近年、キロ型潜水艦にTV併用有線魚雷が搭載されている(TVは近寄らねば有効ではないが、TVを欺瞞できる音響デコイはない)。 対抗魚雷 敵の魚雷を迎撃する魚雷。潜水艦用としては研究段階であるが、水上艦用の装備としては試験が行われている。 音響攻撃 かつては複数のスピーカーから出力された音波をアクティブフェイズドアレイの原理により集中させた衝撃波を潜水艦に当てるアイデアがあったが頓挫した。研究成果は尿路結石を体外から破壊する体外衝撃波結石破砕術の基礎となり、1980年にドルニエ メドテックが製品化した。その後はコンピュータの計算速度や制御技術が進展したことでより小型の目標を狙うことも可能となったことから、水上艦に向かってくる魚雷の信管を誤作動させるアクティブ防護システムが研究されている。
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