業務災害の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 08:34 UTC 版)
労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を業務災害という(労働者災害補償保険法第7条1項1号)。「業務災害」として認定されるためには、業務に内在する危険有害性が現実化したと認められること(業務起因性)が必要で、その前提として、労働者が使用者の支配下にある状態(業務遂行性)にあると認められなければならない。業務遂行性が認められる場合は、おもに以下のとおりである。 作業中(事業主の私用を手伝う場合を含む) 生理的行為(用便、飲水等)による作業中断中 作業に関連・附随する行為、作業の準備・後始末・待機中事業場施設内における業務に就くための出勤又は業務を終えた後の退勤で「業務」と接続するものは、業務行為そのものではないが、業務に通常付随する準備後始末行為と認められている。したがって、その行為中の災害については、労働者の積極的な私的行為又は恣意行為によるものと認められず、加えて通常発生しうるような災害である場合は、業務災害とされる(昭和50年12月25日基収第1724号)。 緊急事態・火災等に際しての緊急行為中事業主の命令がある場合は、業務に従事している・いないを問わず、緊急行為を行ったときは私的行為ではなく業務として取り扱う。 事業主の命令がない場合、業務に従事している場合に緊急行為を行ったときは、同僚労働者の救護、事業場施設の防護等当該業務に従事している労働者として行うべきものについては、私的行為ではなく業務として取り扱う。また以下の全ての要件を満たす場合には、当該業務に従事している労働者として行うべきものか否かにかかわらず、私的行為ではなく業務として取り扱う。労働者が緊急行為を行った(行おうとした)際に発生した災害が、労働者が使用されている事業の業務に従事している際に被災する蓋然性が高い災害(例えば運送事業の場合の交通事故等)に当たること。 当該災害に係る救出行為等の緊急行為を行うことが、業界団体等の行う講習の内容等から、職務上要請されていることが明らかであること。 緊急行為を行うものが付近に存在していないこと、災害が重篤であり、人命に関わりかねない一刻を争うものであったこと、被災者から救助を求められたこと等緊急行為が必要とされると認められる状況であったこと。 事業主の命令がない場合、業務に従事していない場合に緊急行為を行ったときは、業務に従事していない労働者が、使用されている事業の事業場又は作業場等において災害が生じている際に、業務に従事している同僚労働者とともに、労働契約の本旨に当たる作業を開始した場合には、特段の命令がないときであっても、当該作業は業務にあたると推定する(平成21年7月23日基発072314号)。 事業施設内での休憩中休憩時間の災害については、それが事業場施設(又はその管理)の状況(欠陥等)に起因することが証明されない限り、一般には業務起因性が認められない。 出張中(住居と出張先の往復を含む)出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っている以上、特別な事情がない限り、出張過程の全般について業務行為とみるのが実際的である。したがって、直接出張地へ赴くために自宅から通常通勤の最寄り駅まで移動する行為であっても、通勤災害ではなく業務災害となる(昭和34年7月15日基収第2980号)。 通勤途上や競技会等への参加中であっても、業務の性質が認められるとき事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している場合、その利用に起因する災害は通勤災害ではなく業務災害となる。 緊急用務のために勤務先から突然呼び出された場合は、自宅を出て職場に向かう途中も含めて全て業務遂行中とみなされる(昭和24年1月19日基収第3375号)。 派遣労働者について、派遣元事業場と派遣先事業場との往復の行為については、それが派遣元事業主又は派遣先事業主の業務命令によるものであれば、一般に業務遂行性が認められる(昭和61年6月30日基発383号)。 業務上の疾病については、厚生労働省令(労働基準法施行規則別表第1の2)第1号~第10号に例示列挙され、これらに該当した場合には特段の反証がない限りその疾病は業務に起因するものとして取り扱われる。また、同表第11号で「その他業務に起因することの明らかな疾病」と包括規定され、業務との間に相当因果関係があると認められる疾病について、個別に業務起因性を認めることとされていて、これにより、請求人による相当因果関係の充分な立証がなされることにより、業務災害による療養中の業務外傷病(昭和42年1月24日基収第1808号)や、過労死・自殺もその要因が、使用者の支配下によるものと認められた場合、業務災害として認定されうる。 特に残業時間と発病の関連性は認定基準として数字で明記され、労働時間の長さが重視されている。脳・心臓疾患については、発症前1ヶ月に100時間を超える時間外労働、あるいは発症前2~6ヶ月間に月80時間を超える時間外労働があると、手待ち時間が多いなど労働密度が特に低い場合を除き、その業務と発症の関連性が強いと判断される(平成22年5月7日基発0507第3号)。 うつ病などの精神障害については、発病日から起算した直前の1ヶ月間におおむね160時間超える時間外労働を行った場合、またはこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行った場合には、手待ち時間が多いなど労働密度が特に低い場合を除き、当該極度の長時間労働に従事したことのみで心理的負荷の総合評価を「強」とする(業務による強い心理的負荷が認められる)。発症前2ヶ月間に月120時間以上の時間外労働を行った場合、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合等には、心理的負荷の総合評価を「強」とする。また心理的負荷の総合評価を「中」程度と判断される出来事の後に、発症前6ヶ月間に月100時間以上の時間外労働があると、心理的負荷の総合評価を「強」とする(平成23年12月26日基発1226第1号)。 なお数字は目安であり、数字がわずかに基準に届かない場合であっても業務災害が認定されることはありうる。さらに数字が基準に届かないがために労働基準監督署で不認定となっても、裁判所が諸般の事情を考慮して認定するケースが相次いでいる。 いっぽう、労働者の積極的な私的・恣意的行為によって発生した事故の場合や、業務による危険性と認められないほどの特殊的・例外的要因により発生した事故の場合は、業務起因性が認められず、業務災害として認定されない。例えば、業務として強制されない(使用者の支配下にない)社外での懇親会(忘年会、花見など)等は業務災害に含まれず、また懇親会場への行き帰りの際の事故等について、いかなる場合も通勤災害とはならない。また、一般には第三者の犯罪行為は除かれるが、第三者の犯罪行為であっても、業務または通勤に内在する危険が現実化したと評価される場合は対象となる。例えば、警備中の警備員が暴漢に殴られた場合などは対象となる。個人的私怨により、偶然職場や通勤途中で知人から殺されたような場合は業務に起因するものとはいえず対象外とされている。また戦争、内乱なども同様である。 特別加入者(海外派遣者を除く)の場合は、業務等の範囲を確定させることが通常困難であることから、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって認定を行う。具体的には、以下のような場合には業務遂行性は認められない。 事業主本来の業務を行う場合(株主総会や役員会への出席、銀行等に融資を受けるために赴く場合等) 建設業の一人親方が自宅の補修を行う場合 個人タクシー営業者が家族を一定場所まで送る場合
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