染色体異常の種類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 04:34 UTC 版)
細胞分裂時の染色体不分離現象によるもの 減数分裂する際に染色体が均等に別れず、本来別々の細胞に入る対の2本が同じ細胞に入り、もう一つの細胞では欠落する。この細胞が受精するとその染色体の本数が通常と異なる細胞になる。 通常、染色体は2本で対をなしている(ダイソミー)が、これが1本になるのが「モノソミー」、3本になるのが「トリソミー」、4本になるのが「テトラソミー」、5本になるのが「ペンタソミー」という。 上述の「染色体が47本あるダウン症」は21番染色体のトリソミー。不分離現象は必ずしも遺伝的ではなく、むしろ高齢の女性から生まれた子供に比較的多い。 染色体の数が1対が2本以外の組み合わせで全部そろったセットであるもの(倍数体)。例として全部3本ずつの69本(三倍体 triploidy)など。 三倍体単独は人間では通常流産するが、二倍体とのモザイクでは生存出生する場合がある。 人間を含む哺乳類では倍数体は致死もしくは出生直後に死亡することが多いが、カエルは半数体から3・4・5・6倍体でも普通に生存するなど生物によって違いが多い。 ある染色体の一部もしくは全部が別の染色体にくっついているもの(転座) 均衡型転座と不均衡転座があり、均衡型では染色体の過不足はない(足りない分が他の染色体に同じだけある)ので正常だが、その人の生殖細胞からは転座した染色体が減数分裂でちゃんと1本分の遺伝子が渡されなくなるので不均衡転座の子供が生まれる確率がある、習慣性流産の原因となる場合がある。不均衡型では過不足(部分モノソミーや部分トリソミーなど、場合によっては完全トリソミーの場合も)が生じるので何らかの問題(場合によっては流産)が起きる。なお、親に転座がなくても最初から不均衡転座が生まれるケースもあり「de novo(新生)相互転座」という。 染色体単位で転座しているロバートソン(Robertson )型転座というものもあり、こちらはDグループ(13~15番)かGグループ(21~22)の染色体の短腕が取れて(ここは遺伝子がないのでこれ自体は異常を起こさない)お互い長腕同士がくっついており、これによってDグループやGグループの染色体がトリソミーやモノソミー(部分型だが実質は1本丸ごとと変わらない変化になる)を起こす。 ダウン症のこのタイプの転座の例をあげると21番染色体が21番同士でくっついているG21/G21転座型やDグループ染色体とくっついているD/G21転座型などがあり、染色体数は正常同様46本だが実際には21番染色体が3つ分あるのでトリソミーと同じような症状が出る。なお、転座している染色体の形状が通常と異なる(21番染色体の分だけ大きくなっている)他、(de novoでない限り)親を調べると染色体数が45本しかない事で見当がつく。 ある染色体の形が変わっているもの(欠失・重複) 転座と違いある染色体の一部が取れてたり(欠失)、逆に一部が二重に存在する(重複)もの。染色体量に変化が起きるので異常が起きる。また欠失の一種で染色体の末端部分が切れてそこがつながり輪のようになっているものもある(環状染色体)。 例として第5番染色体の短腕(V字状突出部の短い方)が欠損する(後述の5p-症候群)とネコなき症(猫鳴き症候群、仏:Cri Du Chat Syndrome 英:cat cry Syndrome)という丸顔で両眼隔離・発育障害・知能障害・子ネコ様の鳴き声などの異常が起きる。また第18番染色体が環状染色体に変形している(E-18リング)と知能や発育に障害が出るほか中耳閉塞・内蔵手足奇形などが起きる。 なお、染色体には、短腕(p)と長腕(q)があり、例えば前述の5番染色体の片方の短腕が欠失することを5pモノソミー(「5番染色体短腕が1本分しかない」という意味)といい、5p-(ゴピーマイナス)と表記する。 同腕染色体 「イソ染色体」とも、分裂時のエラーで両方同側(両方長いor両方短い)の腕になっている染色体。エラーが起こった本人は対になる「両方短いor両方長い腕の染色体」があるので無症状だが、配偶子形成時に問題が生じ(部分トリソミーと部分モノソミーが同時に発生することになる。)通常子供は流産や死産になる。例外的に「X染色体の長腕の同腕染色体」だけは子供は生存可能だが、後述のターナー症候群になる。 染色体上の遺伝子が同一染色体内部で並びの向きや位置が変化したもの 向きが変わったものを「逆位」、位置が変化したものを「転位」という。 理論上は遺伝子量の違いはなく表現型は正常のはずで、実際に9番染色体中央部の逆位(inv(9)(p12q13))などは多くの健常者に見られるが、場所によっては何らかの障害や表現型異常を伴う場合もある。 モザイク 染色体異常に限らないが正常の細胞と異常の細胞が混ざっていること。症状は軽度になる。 片親性ダイソミー 普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。染色体の数は正常だが、障害が現れる。アンジェルマン症候群とプラダー・ウィリー症候群は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状が異なる。 胞状奇胎 全胞状奇胎と部分胞状奇胎でやや経緯は異なる(片親性ダイソミーと三倍体)が、両者とも正常の受精が起きなかったことによる染色体異常発生が原因とされる。 全胞状奇胎は無核卵子と精子が受精した場合で、大半が染色体23Xの精子の遺伝子を倍加させた46XXと一見正常に見えるが、哺乳類の場合は胎児と胎盤の発達に使う遺伝子がそれぞれ母親と父親由来の物なので、この場合(母親由来の遺伝子がない)胎児はごく小さいうちに致死となり、父親由来の遺伝子が多すぎるため胎盤の絨毛組織が異常発達する。 部分胞状奇胎は1つの卵子に2つの精子が受精することで発生し、精子2つ分の遺伝子があるため他に問題が無ければ69XXX、69XXY、69XYYのいずれかの三倍体になり、上記と同様に父親由来の遺伝子が多すぎるため、やはり胎盤の絨毛組織が異常発達する(胎児は生存する場合もある)。
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