片親性ダイソミーとは? わかりやすく解説

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片親性ダイソミー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/23 09:59 UTC 版)

Uniparental disomy
片親性ダイソミーのアニメーション
概要
診療科 遺伝医学
分類および外部参照情報

片親性ダイソミー(かたおやせいダイソミー、: Uniparental disomy、略称: UPD)は、いずれか一方の親から2コピーの染色体または染色体の一部を受け取り、もう一方の親からは受け取らなかった場合に生じる[1]。UPDには、一方の親から同一でない染色体対を受け取っている場合(ヘテロダイソミー [heterodisomy]、減数分裂第一分裂のエラー)、もしくは一方の親の1本の染色体が重複したものである場合(イソダイソミー英語版 [アイソダイソミー, isodisomy]、第二分裂のエラー)がある[2]。イソダイソミーやヘテロダイソミーによって親特異的なゲノムインプリンティングが損なわれる場合があり、ゲノムインプリンティング異常症の原因となる。さらに、イソダイソミーでは多くの遺伝子がホモ接合型となるため、近親婚家庭の子供でみられるのと同じように、劣性遺伝形質が出現する可能性がある[3]

UPDは2000出生当たり1人の割合でみられる[4]

病態生理

UPDは卵形成や精子形成時の無作為なイベントして生じる場合があり、初期胚発生時やトリソミーレスキュー英語版によって起こる場合もある。

  • 子が一方の親から2つの異なる相同染色体を受け取った場合、ヘテロダイソミーと呼ばれる。乗換えが起こっていない場合、ヘテロダイソミーは減数第一分裂時のエラーを意味している。
  • 子が1本の染色体の2つの同一なレプリカを受け取った場合、イソダイソミーと呼ばれる。乗換えが起こっていない場合、イソダイソミーは減数第二分裂時のエラーもしくは接合後の染色体重複を意味している。
  • 乗換えが起こっている場合、減数第一分裂時のエラーによってイソダイソミーとなる場合がある。例えばdistal isodisomyのように、乗換えが起こった遺伝子座では減数第一分裂時のエラーによってイソダイソミーが生じる。
  • 同様に、乗換えが起こっている場合には減数第二分裂時のエラーによってヘテロダイソミーとなる場合もある[5]

表現型

UPDの大部分では、表現型の異常が引き起こされることはない。しかしながら、UPDの原因となるイベントが減数第二分裂時に生じた場合には、片親由来の染色体の遺伝子に関して同一のコピーを持つこととなり、稀な劣性疾患が生じる可能性がある。劣性疾患の症状を示す患者の一方の親のみが保因者である場合、UPDが疑われる。

インプリンティング遺伝子の片親遺伝も表現型の異常を引き起こす場合がある。インプリンティング遺伝子として同定されているものはわずかであるが、インプリンティング遺伝子の片親遺伝は遺伝子機能の喪失を引き起こす場合があり、発生の遅れ、精神遅滞やその他の健康問題が引き起こされる場合がある。

  • 最もよく知られている疾患としては、プラダー・ウィリ症候群アンジェルマン症候群がある。これらの疾患はどちらも15番染色体英語版の長腕に位置するインプリンティング関連遺伝子のUPDやその他のエラーによって引き起こされる[6]
  • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群英語版は、11番染色体英語版短腕に位置するインプリンティング遺伝子の異常と関係している。
  • 14番染色体英語版に関しても、UPDによって骨格の異常、知的障害、関節拘縮など、特定の症状が引き起こされることが知られている[7][8]

UPDの前向き研究はほとんど行われておらず、大部分の研究は既知の疾患や偶発病変に焦点を当てたものである。UPDの発生率は考えられているほど低くはなく、過少報告されている可能性が提唱されている[9]

全染色体

ゲノムワイドUPD(genome wide UPD)またはuniparental diploidyは、すべての染色体が一方の親から遺伝している状態である。この現象はモザイクの場合のみ、生存可能である。2017年時点で、ゲノムワイドUPDは18症例が報告されているのみである[10]

歴史

UPDの最初の臨床例が報告されたのは1988年であり、嚢胞性線維症と低身長の少女が母親由来の7番染色体英語版を2コピー持っていることが報告された[11]

出典

  1. ^ Robinson WP (May 2000). “Mechanisms leading to uniparental disomy and their clinical consequences”. BioEssays 22 (5): 452–9. doi:10.1002/(SICI)1521-1878(200005)22:5<452::AID-BIES7>3.0.CO;2-K. PMID 10797485. 
  2. ^ Human Molecular Genetics 3. Garland Science. pp. 58. ISBN 0-8153-4183-0. https://archive.org/details/humanmolecularge0000stra_b0q6/page/58 
  3. ^ King DA (2013). “A novel method for detecting uniparental disomy from trio genotypes identifies a significant excess in children with developmental disorders”. Genome Research 24 (4): 673–687. doi:10.1101/gr.160465.113. PMC 3975066. PMID 24356988. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3975066/. 
  4. ^ Nakka, Priyanka; Smith, Samuel Pattillo; O’Donnell-Luria, Anne H.; McManus, Kimberly F.; Agee, Michelle; Auton, Adam; Bell, Robert K.; Bryc, Katarzyna et al. (2019-11-07). “Characterization of Prevalence and Health Consequences of Uniparental Disomy in Four Million Individuals from the General Population” (英語). The American Journal of Human Genetics 105 (5): 921–932. doi:10.1016/j.ajhg.2019.09.016. ISSN 0002-9297. PMC 6848996. PMID 31607426. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6848996/. 
  5. ^ Meiosis: Uniparental Disomy”. 29 February 2016閲覧。
  6. ^ OMIM Entry - # 105830 - ANGELMAN SYNDROME; AS”. web.archive.org (2014年5月29日). 2022年7月10日閲覧。
  7. ^ OMIM Entry - # 608149 - KAGAMI-OGATA SYNDROME” (英語). omim.org. 1 September 2020閲覧。
  8. ^ Chromosome 14 uniparental disomy syndrome information Diseases Database” (英語). www.diseasesdatabase.com (1 September 2020). 1 September 2020閲覧。
  9. ^ Bhatt, Arpan; Liehr, Thomas; Bakshi, Sonal R. (2013). “Phenotypic spectrum in uniparental disomy: Low incidence or lack of study”. Indian Journal of Human Genetics 19 (3): 131–34. doi:10.4103/0971-6866.120819. PMC 3841555. PMID 24339543. オリジナルの2014-02-20時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20140220040935/http://www.ijhg.com/text.asp?2013/19/3/311/120819. 
  10. ^ Bens, Susanne; Luedeke, Manuel; Richter, Tanja; Graf, Melanie; Kolarova, Julia; Barbi, Gotthold; Lato, Krisztian; Barth, Thomas F. et al. (2017). “Mosaic genome-wide maternal isodiploidy: an extreme form of imprinting disorder presenting as prenatal diagnostic challenge”. Clinical Epigenetics 9: 111. doi:10.1186/s13148-017-0410-y. ISSN 1868-7083. PMC 5640928. PMID 29046733. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29046733. 
  11. ^ “Uniparental disomy as a mechanism for human genetic disease”. American Journal of Human Genetics 42 (2): 217–226. (1988). PMC 1715272. PMID 2893543. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1715272/. 

関連項目

  • 異数性

外部リンク


片親性ダイソミー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 05:10 UTC 版)

染色体異常」の記事における「片親性ダイソミー」の解説

普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。染色体の数は正常だが、障害現れるアンジェルマン症候群プラダー・ウィリー症候群は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状異なる。

※この「片親性ダイソミー」の解説は、「染色体異常」の解説の一部です。
「片親性ダイソミー」を含む「染色体異常」の記事については、「染色体異常」の概要を参照ください。

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