杖
★1a.地にさした杖が根づき、葉が生じたり花が咲いたりする。
『宇治拾遺物語』巻8-5 東大寺御堂建立の日、鯖売り翁が大仏殿東回廊前に突き立てた杖は、たちまちに枝葉をなした〔*『古事談』巻3-2に類話。『今昔物語集』巻12-7の異伝では、突き立てられた杖は丈高くもならず花咲くこともなく、常に枯れた状態で庭に立っている、と記す〕。
『黄金伝説』95「聖クリストポルス」 聖クリストポルスが子供(実はキリスト)を肩に乗せ、杖をついて川を渡る。その杖を川岸に植えると、翌朝には棕櫚の木のごとく葉をしげらせ、実をつけていた。また、彼は異教徒を改宗させるため、杖を地面にさし、即座に緑の葉をしげらせた。
『黄金伝説』122「聖サウィニアヌスと聖女サウィナ」 セカナ(セーヌ)の川の水で洗礼を受けたサウィニアヌスが、杖を地面に立てると緑の葉が生え花が咲いた。
『三国伝記』巻7-24 小野の一万大菩薩の化現である老僧が突き立てた杖は、根づいて椋木となった。
杖立木の伝説 永禄(1558~69)の頃。伊勢神女が伊勢神宮改築の寄付金を募るために、諸国を回っていた。神女は宮原の中西へ来て、持っていた杉の木の杖7本をたばにして地にさすと、杖は生きついて芽を吹いた。枝葉はみな下を向いて伸びて行ったので、土地の人は不思議がり、これは伊勢神女の杉だからといって敬った(岡山県英田郡作東町)。
*竹杖が根づき、枝葉が下を向き、竹林になる→〔あり得ぬこと〕1aの親鸞の伝説。
*杖が林になる→〔太陽〕5の『山海経(せんがいきょう)』第8「海外北経」。
*箸が木になる→〔箸〕1。
★1b.杖に花が咲く。
『黄金伝説』125「聖母マリアお誕生」 マリアが14歳の時、神が、すべての独身の男に杖を持って集まるよう命じた。老齢のヨセフの杖に花が咲き、鳩の姿の聖霊が舞い降りたので、ヨセフがマリアの婚約者と定められた。
『民数記』第17章 神の命令によって、イスラエルの人々は部族ごと父祖の家ごとに、指導者1人に1本ずつ、合計12本の杖を神の幕屋の中に置いた。翌日見ると、神が祭司職として選んだアロンの杖から芽が出て、花が咲いていた。
*法王の持つ杖に新緑が芽吹く→〔あり得ぬこと〕1aの『タンホイザー』(ワーグナー)第3幕。
★1c.杖から鳩が出る。
『ヤコブ原福音書』第8~9章 マリアが12歳の時、主の使いが、男やもめたちに「杖を持って集まれ」と命じた。大祭司が皆の杖を受け取り神に祈ると、年寄りヨセフの杖から鳩が出て彼の頭上に舞い降りた。ヨセフはマリアの保護者となった。
弘法大師の伝説 旅の弘法大師が水不足の土地を訪れ、杖を立てて水を湧き出させた、という伝説が諸地方にある。
『出エジプト記』第17章 荒野をさすらうイスラエルの人々は、飲み水がないために苦しみ、「我々を渇きで殺すのか」とモーセ(モーゼ)に不平を言った。モーセは神の教えに従って杖で岩を打ち、水を湧き出させた。
『播磨国風土記』揖保郡揖保の里 アシハラノシコヲが杖で地を刺すと、そこから寒泉が湧き出、南と北に流れ通った。
『民数記』第20章 イスラエルの人々はカデシュに到った時、水が得られず、モーセとアロンに迫った。神の教えにしたがい、モーセはアロンとともに人々を岩の前に集め、杖で岩を2度打つと、水がたくさん湧き出た。
『出エジプト記』第7章 モーセ(モーゼ)と兄アロンがファラオ(パロ)の所へ行って、イスラエルの民の解放を要求する。それが神の意志であることを示すためにアロンが杖を投げると、蛇になる。ファラオの家来の魔術師らも杖を蛇にして対抗するが、アロンの杖が魔術師らの杖を呑みこむ。
『オデュッセイア』第13巻・第16巻 故郷イタケに戻ったオデュッセウスを女神アテナが迎える。アテナは杖でオデュッセウスに触れ、彼を老乞食の姿に変える。後、アテナはオデュッセウスを息子テレマコスと再会させ、黄金の杖でオデュッセウスに触れて、彼を本来の壮年の姿に戻す。
*杖で打って変身する・変身させる→〔性転換〕4の『変身物語』(オヴィディウス)巻3・〔変身〕1aの『魔術師』(谷崎潤一郎)・〔宿〕3bの『オデュッセイア』第10巻。
『ケルトの神話』(井村君江)「ディルムッドとグラーニャの恋」 ロクは、自分の子供がドンに殺された時(*→〔膝〕1c)、子供の死体をドゥルイドの杖で打った。すると死体から1頭の猪が跳ね出した。その猪には耳と尾がなかった。猪は子供の死体を見て、「ドンの息子ディルムッドの命を奪ってやる」と言い、森へ走り去った。何十年か後に、猪は鋭い牙でディルムッドを殺した→〔猪〕3。
杖と同じ種類の言葉
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