木魚念仏の開祖
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(木魚本山之称一奏達)“浄土一宗”の誕生: 寛延2年(1749年) 圓説38歳から、大破していた伏見鳥羽の法傳寺(ほうでんじ)跡に小庵を建てて、そこに住みながら、如何にこの法傳寺を再建するかを計画する。正覚寺に居たときからの熱い思いの念仏改革の実行と人々に如何にこの思いを伝える実践行動をどうするかと、もう一つは再建資金の調達にあった。寺を再建するは並大抵な事では出来ない。正覚寺を離れた今、其れまでの檀信徒や縁故頼りは出来ないし、勧進をするにしても、どの様にするかであったが、圓説は考えるよりも行動に移す方が速かった。 今までの聲だけの念仏の唱え方では限りがある。まずは今までの既成説教や念仏の唱え方に対する反省と疑問点を推し量りて知る事、その上で何が足りないのか、他宗派のことはどうか、比較する様な物はあるか、参考になる様なものがあるか、考え知ることであった。圓説和尚には日蓮宗の僧侶とも親交があり、また黄檗山の僧侶とも繋がりがわかっている。黄檗山は禅宗の中でも木魚云々の使用で他派の疎外を受けていた。圓説和尚の木魚念仏の下地は出来上がっていた。 そうだ、法華の信徒が、あの経を唱えるときの調子には独特の節回しがある。念仏の唱和に取り入れては・・、ならば、声をあげて唱題や読経をするときに打ち鳴らすことで、聴覚的に調子を整える。打ち鳴らす木柾(もくしょう)や鉦、団扇太鼓の迫力があるものに何か替わる物はないか、傍と、これだと思いつくに時間はかからなかったであろう、よく似たものに木魚がある。禅宗の木魚は元々打ちて時を知らせるもので「魚板」(魚鼓)である。当時は読経に合わせても使われていた。 魚の形をしているのは、魚は日夜を問わず目を閉じないことから、寝る間を惜しんで修行に精進しなさいという意味である。そして、口にくわえた丸いものは煩悩を表し、魚の背をたたくことで煩悩を吐き出させる、という意味合いが有るという、圓説は見て取った。手に持ちては使用はされていない。これだ、この木魚を小さくして手に持つようにしてこれを叩きながら念佛を唱えれば、今までの念仏唱和とは全く違う姿になる。思いついたが早いが仏具屋に手持用の木魚を作らせた。木魚を握りしめ端を布で巻いた枹(ばち)で叩くとポクポクといい音が出る。これで聲を出し高く低くと念仏に合わせながら唱えると、得も言われぬ高揚感が出る。これだ・・・光月庵の『寺史』にも木魚使用の件がある。 圓説弾劾の答弁の中の受け答えに、「念仏策励の具なれば木鉦又は鉦鉐を叩くも差別なし木魚は其音響柔らかにして病者の耳に快く聞し得て木鉦鉦鉐よりも優れたるを自覚せしを以て自も用ひ他に勧めたるに何の不可あらんと」座しては居まい、行動あるのみ、開祖木魚念仏の“浄土一宗”の誕生である。 風雨を別たず寒暑を論ぜず遠近巡杖して京市中を首からかけた木魚を叩きながら念仏を唱え歩いた。法を説き兼て托鉢しながらの説法はますます広まり四部の弟子は慕効していくのである。「法傳寺講」では、日課念仏を授けた者一万五千人に及んだという。そして法傳寺の薬師堂と阿弥陀堂の再建勧進をも務め、其の浄財や寄付に布施を蓄積して一千数百金を得たり、その他相等の借財もあったというが、一宇を建立し願望を達したのが鳥羽の法傳寺であった。元々この法傳寺は奈良時代に行基上人(668-749年)が開基したと言う。当時の聖武天皇が病気平癒のための勅願所として薬師像を安置し、最初の呼称は「法田寺」と言ったが、後年「法傳寺」に改められた。本尊の「阿弥陀如来坐像」は鎌倉時代の作で本堂に安置されている。また「木造薬師如来坐像」は平安時代の作と考えられている。 また、この頃になると浄土宗の近辺の寺が圓説和尚を慕って末寺にと増えていった。寺格制度(本末制度)により、法傳寺は中本山として末寺十餘箇寺を有する寺院になっていた。寛延3年(1750年)頃、(圓説39歳) 伏見・光月庵を創建し弘化す。これは庵という名が示すように圓説和尚の終の住処として建てられたものと思われる。 大飢饉の飢えや疫病、大火事、大地震で亡くなった者への追悼供養と、生きている人々への死と対峙しての念仏への自覚、念死念仏の教えの啓蒙活動のためであったものが、圓説和尚の意思に拘わらず、瞬く間にその想いは民衆の心を捉え、何かにつけて幕府に抑えつけられている世の鬱積した不満が木魚を叩くことで厭世から逃れる様に高揚した気分になり野火のように木魚念仏が広がっていった。圓説の説法はますます盛んになり僧俗皆欽伏した。圓説は平生において衣服や房舎を飾らず、粗食を自戒として守っていた。
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