時代背景・主題
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『夏子の冒険』は、「お嬢さま」を主人公とした三島の作品群の中でも、特にヒロインが大活躍し、女子の魅力があふれているものの一つであるが、この作品の執筆当時は、まだ日本が敗戦後数年しか経っておらず、連合国の占領下の時代で、女子の4年制大学進学率も低く、良家のお嬢さんは高校や短大などを出ると「良縁」を待つことが一般的で、主人公・夏子もそうした良家の子女の設定となっている。また、夏子が惹かれる青年は、恋人を熊に殺され仇討ちに行く若者の設定となっている。 三島は『夏子の冒険』の主人公たちについて次のように述べている。 舞台は北海道だが、主人公の若い男女は都会人である。しかし都会の中には若い彼らがあふれるエネルギーをぶつけるに足る対象がみつからない。彼らは別々の夢をもつて東京を出てくる。この若々しい青春のはけ口を託するに足る夢を、今の時代が与へてくれないことが不満なのである。私は現在の日本に多少とも外地にちかい雰囲気を漂はせてゐる北海道の湖や森のなかに、彼らの夢を追つてゆかうと思ふ。彼らのロマンチシズムにかぶれた脱線旅行を、苦笑したり皮肉つたりしないで追つてゆかうと思ふ。野宿の恋人同士が夜半目をさまして仰ぐ星は、どの星座の星がよからうか? 大熊座の星がいいだらうか? かれらの情熱は熊の形をしてゐるからである。 — 三島由紀夫「作者の言葉」 上述のように、北海道は当時まだ〈外地〉に近い雰囲気を漂わせていた時代であり、歴史的に見て、「近代国家」と「北海道」の関係を反映していた作品という面もある。なお、そういった点の見られる同系列の小説は他に、有島武郎『カインの末裔』、吉屋信子『海の極みまで』、武田泰淳『森と湖のまつり』、安部公房『榎本武揚』、池澤夏樹『静かな大地』などがある。
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時代背景・主題
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『恋の都』の執筆された前年の1952年(昭和27年)にGHQの占領は一応終るが、まだ当時の東京は占領下の延長線上にあり、作中でも米国人に対する日本人の肩身の狭さが所々に読みとれる。また、「MSA」という言葉が何の説明もなく作中に記されているが、『恋の都』刊行翌年の1954年(昭和29年)に日本はMSA協定(安全保障協定)に調印することとなる。さらに、「国際賭博容疑」(銀座で国際賭博を開き、米国人のクラブオーナーが手入れを受ける)、「北九州大水害」などの話題も出てきたり、精神病院の代名詞として「松沢病院」という言葉も使われ、当時の時事ネタや事件や世相が随所に含まれている。 三島は連載にあたって、自作について次のように語っている。 私は第二の上海といはれ、東京租界といはれ、植民地都市といはれる、東京といふヌエのやうな都会の、そのいちばん国際的な雰囲気のなかに生活する人たちの物語を書きたいと思ふ。私の小説のことであるから、ルポルタージュと幻想の相半ばしたものになるだらう。だからその女主人公も、東京といふ都会のヌエ的性格をそのまゝに、リアリストでもあり、空想家でもある。彼女は変つてゐる。とつぴな考へをもつてゐる。しかしそれは何も彼女自身のせゐばかりではない。……読者諸姉もどうか彼女の批判をあせらずに、永い目で見てやつていたゞきたい。 — 三島由紀夫「作者の言葉」 三島が永い目で見てほしいという『恋の都』のヒロイン・まゆみの人物造型は、三島の死んだ年(1970年)以後もグアムやルバング島に潜伏してサバイバルな戦争を続けていた日本兵(横井庄一、小野田寛郎)に似ていると千野帽子は説明し、まゆみの中では、「国家」や「日本」の輪郭が、周囲の浮ついた戦後を生きている人物たちよりも、明確になっているとしている。
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