早期警戒レーダー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/24 16:28 UTC 版)
早期警戒レーダー(そうきけいかいレーダー Early-warning radar)は、長距離弾道ミサイルを含む敵ミサイルや敵航空機等を遠距離目標を探知するためのレーダーシステムである。捜索・捕捉用途のため、捕捉レーダーの別称としても用いられる[1]。
長距離弾道ミサイル探知用のレーダーサイトの場合、地上設置の大型構造物であり、レーダーサイトや早期警戒機等の対空捜索レーダー(英語: air search radar)では、早期警戒(Early warning: EW)と地上要撃管制(Ground-controlled interception: GCI)の双方の役割を持つ場合もあり、それらはEW/GCIレーダー(警戒管制レーダー)とも称される[2]。また、単一のレーダーで捕捉・追尾の両モードを保有する機種もある[2]。
概要
早期警戒レーダーは、一般に探知距離は極めて長く、比較的低い周波数でパルス長が長い[2]。一部の機種では線形周波数変調(チャープ)によるパルス圧縮を導入して距離分解能の改善を図っている[2]。またパルス間に2進符号を使用することでも、距離分解能を改善できることがある[2]。
比較的狭いアンテナビームを使用するため、アンテナは通常大型となる[2]。また、民間で似たような役割を担っている航空路監視レーダー(ARSR)であれば二次レーダー(SSR)を用いて目標高度を知ることができるのに対し、軍用のEW/GCIレーダーでは目標機からの情報提供は期待できないことから、レーダー自身で高度を測定する必要が生じる[3]。初期のシステムでは、ARSRと同様の捜索レーダーと、高度情報を得るための測高レーダー (Height finder) を組み合わせて使用する方式が用いられていたが、後には単一のレーダーで捜索・測高を同時に行うことができる3次元レーダーが主流となった[3]。3次元レーダーにも多くの形式があるが、現在ではフェーズドアレイレーダーが多く用いられている[3]。
なおレーダーサイトなど地上に設置されて用いられるもののほか、航空機に搭載されて空中に進出して運用されるものもあり、これを搭載する航空機は早期警戒機(AEW)や早期警戒管制機(AWACS)と称される[3]。また軍艦の対空捜索レーダーも、警戒管制レーダーから派生して開発されていることがある[注 1]。
長距離弾道ミサイル警戒用
長距離弾道ミサイル警戒用の早期警戒レーダーは、大規模な固定施設となっている。アメリカ軍の弾道ミサイル早期警戒システム(BMEWS)は1959年に建設が開始され、当初は捜索用にAN/FPS-50が用いられた[5]。AN/FPS-50は、高さ50m、幅122mの網状の固定レーダーの巨大な構造物であり、探知距離は約5,500㎞に至った[5]。アメリカ軍ではその後も、PAVE PAWSやPARCSといった長距離弾道ミサイル警戒用レーダーサイトが構築された。PAVE PAWSのシステム1基が、2000年に対中華人民共和国監視用として、中華民国に売却されている[6]。
ロシアも同様にヴォロネジ・レーダー(en)のような長距離弾道ミサイル警戒用のレーダーを配備している[7]。
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第二次世界大戦時にドイツが配備したフライヤ
脚注
注釈
出典
- ^ アダミー 2014, p. 28.
- ^ a b c d e f アダミー 2014, pp. 303–304.
- ^ a b c d 吉田 1996, pp. 17–18.
- ^ 佐藤 2014.
- ^ a b “Ballistic Missile Early Warning System (BMEWS)”. globalsecurity. 2024年6月25日閲覧。
- ^ SPENCER ACKERMAN (2013年3月11日). “「着弾6分前にミサイル検知」台湾のシステムが完成”. WIRED. 2024年6月25日閲覧。
- ^ 乗りものニュース編集部 (2024年6月2日). “「目標は1800km先!?」 ウクライナ軍 ドローンで最長の攻撃記録を達成か ターゲットはロシア軍の大型レーダー”. 株式会社メディア・ヴァーグ. 2024年6月25日閲覧。
参考文献
- 佐藤義明「海自水上艦艇用レーダの開発・導入の軌跡」『第5巻 船務・航海』《第1分冊》水交会〈海上自衛隊 苦心の足跡〉、2014年、226-233頁。
- 吉田孝『改訂 レーダ技術』電子情報通信学会、1996年。ISBN 978-4885521393。
- アダミー, デビッド『電子戦の技術 拡充編』東京電機大学出版局、2014年。 ISBN 978-4501330309。
関連項目
- レーダーサイト
- 早期警戒管制機
- 警報即発射(Launch on warning)
早期警戒レーダー
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「B-29 (航空機)」の記事における「早期警戒レーダー」の解説
日本軍のレーダー開発は、第二次世界大戦初期はアメリカやイギリスなどの連合国のみならず、枢軸国のドイツと比較すると大きく出遅れていた。それでも陸軍が「超短波警戒機甲」と「超短波警戒機乙」の開発に成功すると、1942年から「超短波警戒機甲」、1943年には「超短波警戒機乙」が優先的に日本本土の主に海岸線や離島に設置されて早期警戒網を構築した。一方で海軍のレーダー「電波探信儀」の配置は前線のラバウルやウェーク島が優先されて、日本本土への配備はその後にされたが、設置された箇所は海軍基地や軍港周辺に限られた。 レーダーの設置個所についても、陸海軍の連携はなく、隣接した箇所に陸海軍がレーダーを設置するなど無駄が多かった。それでも、B-29による日本本土空襲が開始される1944年後半には、関東、中京、阪神の太平洋側及び九州は全周囲に渡ってレーダー網を構築できた。日本海側にはほぼ設置されず、東北方面も手薄ではあったが、それでも大都市や工業地帯といった主要地域については十分カバーができていた。中でも八丈島に設置された「超短波警戒機乙」はマリアナから出撃するB-29を真っ先に捉えることができたが、乙型レーダーの探知距離は最大で250kmであり、八丈島から東京までの距離が300kmで合計550kmの距離しかなく、巡航速度が約400km/hのB-29であれば一時間ほどで到達してしまう距離で、八丈島から報告を受けて日本軍が迎撃の準備を行う時間的余裕はあまりなかった。日本軍の警戒用レーダーの周波数がドイツ軍のレーダーとは異なっていたので、ヨーロッパ戦線で使用していたチャフの効果がなく、アメリカ軍は幅2.5cm、長さ30mから100mといった長細いアルミフォイルでつくったチャフを新たに作成している。このチャフは形状から「ロープ」と呼ばれていた。 しかし日本軍のレーダーは、いずれも接近してくる航空機の高度や編隊の性格(直掩戦闘機の有無など)まで探知することはできず、また方向もおおまかにわかるといった原始的なものであった。そのため、レーダーを補うために哨戒艇や目視監視哨戒といった人の目のよる旧来の手段に頼らざるを得ず、しばしば、これら人の目による第一報がレーダーよりも正確な情報となった。 日本軍は探知だけではなく火器管制レーダーについても配備を進めていた。大戦初期にシンガポールで鹵獲したイギリス軍のGL Mk.IIレーダー(英)をデッドコピーしたり、ドイツからウルツブルグレーダーの技術供与を受けたりして、「タチ1号」・「タチ2号」・「タチ3号」・「タチ4号」などの電波標定機を開発して本土防空戦に投入している。B-29が夜間爆撃を多用し始めると、日本軍は高射砲と探照灯の照準を射撃管制レーダーに頼るようになった。各高射砲陣地には「た号」(タチの略称)が設置されて、レーダーの誘導で射撃する訓練を徹底して行うようになり、6基~12基で1群を編成する探照灯陣地にもレーダーもしくは聴音機が設置されて、レーダーや聴音機に制御された探照灯がB-29を照射すると、他の探照灯もそのB-29を照射した。 アメリカ軍は日本軍の射撃管制レーダーがイギリス製のものをもとに開発していることを掴むと、その対抗手段を講じることとし、B-29にジャミング装置を装備した。そしてB-29に搭乗してジャミング装置を操作する特別な訓練を受けた士官を「レイヴン」(ワタリガラス)と呼んだ。東京大空襲以降の作戦変更により、B-29が単縦陣で個別に爆弾を投下するようになると、爆弾を投下しようとするB-29は多数の日本軍火器管制レーダーの焦点となって、機体個別のジャミングでは対応できなくなった。そこで、アメリカ軍はB-29数機をECM機に改造して、専門的にジャミングを行わせることとした。そのB-29には18基にものぼる受信・分析・妨害装置が搭載されたが、機体のあらゆる方向にアンテナが突き出しており、その形状から「ヤマアラシ」と呼ばれることとなった。ヤマアラシは、1回の作戦ごとに10機以上が真っ先に目標に到着して、熟練したレイヴンの操作により電波妨害をして探照灯や高射砲を撹乱、聴音機に対してはエンジンの回転数をずらしてエンジン特性を欺瞞するなど、爆撃を援護し最後まで目標に留まった。
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