日本語の色名とその語源
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 07:26 UTC 版)
上述のバーリンとケイによる定義に従えば、現代の日本語において基本色名と言える色は「赤」「青」「白」「黒」の4色であり、これらは古代から用いられている。他の色は、鉱物・植物名などからの借用が多い。 古代からある色が上記4色である事実は現代日本語においても、その使い方の中に見られる。この4色は形容詞があり、「赤い」「青い」「白い」「黒い」という。また、「アカアカと」、「シラジラと」、「クログロと」、「アオアオと」のように副詞的用法を持つ色もこの4色のみである。 黄は「黄色い」、茶は「茶色い」というように「色」を含めないと形容詞として使えない。この「黄色い」「茶色い」という形容詞は江戸時代後期から定着したものと思われる。 他の色名は、漢語・外来語も含めて、例えば名詞が後続する場合、「緑の」「紫の」「紺の」「ピンクの」あるいは「緑色の」「紫色の」「紺色の」「ピンク色の」というような形容詞の代わりとなるような表現はあっても、形容詞そのものとしては使えない。 また、日本語の「青」は「緑」より遥かに古い時代に遡り、緑を含む場合がある。これについて日本語学者の小松英雄は、日本語を反証と見なさざるを得ないが、法則に違背しない解釈も可能としている。 それぞれの語源は、以下の通りとされる。 アカ(赤) 「アケ(朱)」「ア(明)ける」「アカ(明)るい」と同源で、夜が明けて明るくなるという意味から色の赤に転用されたもの。 クロ(黒) 古くは玄の字が多く使われた。「ク(暮)レる」「クラ(暗)い」と同源で、日が暮れて暗くなるという意味から色の黒に転用されたもの。その際、母音交替(a→o甲)を起こしただけでなく、アクセントまでも高起式から低起式に変化しているのは後述のシロと共通している。染料のクリ(涅。水底の黒土。クロと同様低起式)は意義分化に伴ってアクセント変化を遂げた後にクロから生じたもの。 アヲ(青) 植物名で染料名でもある「アヰ(藍)」と同源。後述する「シル(顕)し」の対語で、はっきりしないという意味から色の青に転用されたもの。 シロ(白) 「シル(知)」「シルシ(印)」と同源で、はっきりした様を表す「シル(顕)し」が、色の白に転用されたもの。その際、u→o甲(詳しくは上代特殊仮名遣参照)に母音交替したのみならず、アクセントまでも高起式から低起式に変化しているのは注目される。 古代日本語では、明るい色はアカ、暗い色はクロ、はっきりせず曖昧な色はアヲ、はっきりした色はシロと呼ばれていたと思われる。これらはマンセル色体系等における明度、彩度の概念を想起させる。原始日本語においてはクロの対義語はシロではなくむしろアカであったと思われる。しかし、現代において「赤」と呼ばれる色ははっきりした(彩度が高い)色であり、「白」と呼ばれている色は明るい(明度が高い)色であることから、赤と白の間で言語の逆転が起こったと思われる。語源からも分かるように、奈良時代には既にシロ甲/クロ甲のようにロの母音が同じロ甲類音になっており、シロとクロが対義語として捉えられるようになっていたようである。 「白黒はっきりさせる」などのように、或いは警察関係の隠語でシロ・クロというように、シロがクロに対置されるようになった経緯については様々な意見が見られるが、「クラさ」に対する「アカるさ」が、「事物を明瞭にシルことができること」として意味が移り変わっていったことや、中国から入ってきた五行思想の色彩観の影響が理由として挙げられている。 「ミドリ(緑)」の語源ははっきりしない。「みどりの黒髪」という言い回しがあるが、『みずみずしさを感じさせる艶のある黒髪』を意味である。 日本文化の四原色の中で「ミドリ」は「アヲ」に含まれる。現代でも、greenを青の一部とする用法は方言などに広く残っている。進行を表す信号は法令により「緑色信号」と定められており、実際、緑色に分類される色が用いられているにも関わらず、「青信号」という呼び方が定着している。現在では法令の方が『実情に合わせて』改正され、「青信号」となった。 「キ(黄)」は葱(キ)の食べる部分の色という説が有力で、萌葱が由来の萌黄という色名も古くからある。 「ムラサキ(紫)」「チャ(茶)」は、染料の名前に由来する。 「ハイ(灰)」は灰の色に由来する。
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