施行後の各業種での影響
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「株仲間解散令」の記事における「施行後の各業種での影響」の解説
安政年間に行なわれたと推定される株仲間停止後の流通機構についての調査によれば、下記のような影響があった(本庄栄治郎「幕末の株仲間再興是非」)。 灯油 - 文政期から灯油が高値となったため、天保3年(1832年)に霊岸島に油寄所を設けて役人が駐在するなどの対策がとられたが、市中の日用にも差し支えるようになり、さらに高値となって、天保8年(1837年)には供給が途絶えた。そこで、油問屋経由の売買に復したが、6年間の空白があったため十分な仕入れができず、市中で品不足となっていた。株仲間解散によって自由な商売が命じられたが、油屋は損失を嫌い、新規に参入しようとした者は油の性質なども分からなかったため、日用に支障をきたした。灯油の原料である菜種の生産地である近畿地方では、他国への直接売買が盛んになり大坂・江戸の中央市場への入荷は増えなかった。関東の地廻り油の早急な増産も不可能だったため、江戸での膨大な需要を賄うだけの入荷量を確保することはできなかった。 海産物 - 仲間解散が命じられたが、仲間外の素人では御用の肴・乾物の献上に差し支えるとして、仲間行事を御用肴同乾物納番納人に、仲間会所を御用品撰立所と改称して、日々御用品の集荷をさせた。 蠣殻灰・石灰 - 蠣殻灰の竈数は享保期に10口、寛政期に人足寄場に2口設けられて、計12竈となった。しかし、解散令によって竈数が増加し、焼き立てる蠣殻が不足し、従来からの竈持ちも焼き立てに差し支えるようになった。石灰も、素人や漆喰練売が、取り締まりも無く、自由に買い取りをしたため、品不足となった。 舂米(つきごめ) - 大道舂(だいどうつき)と呼ばれる者たちが享保12年(1727年)から御舂屋御次米の舂立を務めてきたが、仲間解散令により舂立を免じられたため、御賄方(まかないかた)御掛に差し支えを生じるようになった。 桶 - 寛政期ごろから桶職人住居の表役裏役差別を立てて、役銭を受けて御国役を務める仕法だったが、仲間停止以来、桶方の御用が不便となったため、嘉永5年から従来の仕法通りとなった。 海運 - 諸商売自由、諸荷物船積みも諸国勝手次第となったことで、廻船の船頭や水主までが航海中に不正の取り計らいをするようになった。浦改め(検査)が無いため、難船(船の遭難)または荷打をした旨を申し立て、商人は多額の損失をこうむって、世間では品不足となった。そのため、天保14年(1843年)に9店が共同出資して、大坂で堅牢な船を選んで廻船させ、元菱垣積諸問屋諸品積合の世話をし、難船の場合は大坂と江戸の9店で処置することとした。これでようやく船の取り締まりや、大坂からの買い付け・貨物運送が滞りなく行われるようになった。 木材 - 文政12年(1829年)3月の大火の際、買い付け自由が命じられたため、素人も競って買い取ったため品薄になり入荷した材木の所在も不明となり、8月になっても払底状態にあった。そのため天保5年(1834年)2月の大火の際に、諸国の板材木問屋に限って引き受けること、問屋は手筋の荷主から引き受けるように努めるべきことが命じられ、同年3月には木材が潤沢になった。しかし、株仲間解散後の弘化3年(1846年)正月の大火の際には、再び素人や職人が直買いしたため荷物が所在不明となり、同年9月ごろにようやく市場は沈静化した。 出版物 - 出版物の統制は、書物問屋仲間で選んだ行事が点検する自主規制が基本で、許可を決め難いもののみ町奉行所に伺い出る方式だった。町奉行所は、書物問屋仲間を通して書物に関する法や申し渡しを徹底させていたが、仲間の解散により直接統制をすることになり、「著者→版元→町年寄→町奉行所」という検閲方式になった。 御寮織物司および高機元八組の陳情書によれば、株仲間解散後は、西陣織および糸の取引に携わる者の中で困窮した者や、仲間停止後に創業した織屋などが、古くからの慣行に従わず手抜きをした商品を出荷し、それが従来の慣行を守る織屋にも影響がおよぼしている。このままでは西陣織が粗製濫造され、御用織物でさえ手抜きをした物が納められ、これまでの当地名産という名声も失われるのではないかという懸念が示されている。 幕府の御用商人は、江戸城で消費される魚・鳥・野菜・塩・味噌・醤油などの食材を供給する商人らは、たとえ「御用損」が出ても、従来は問屋仲間で割り合って「仕理」(補填)してきたが、仲間解散により幕府御用に関する損失に対し商人たちが「自儘」(我儘)を申し募るようになった。 このように、様々な業種で流通が滞って物資や財・サービスの供給不足をもたらし、幕府御用にまで支障を来すようになっていた。
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