悠 (人工鰭のウミガメ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/28 00:07 UTC 版)
悠(ゆう)とは、神戸市立須磨海浜水族園で飼育されていたメスのアカウミガメである。“悠ちゃん”とも呼ばれた。野生下においてサメに両前肢(前ヒレ)を食べられた状態で保護された。のちに悠には“悠ちゃんプロジェクト”と呼ばれる「ウミガメ用の人工ヒレ開発プロジェクト」が開始され、人工ヒレの試作品が何モデルもテストされた。両前肢欠損のウミガメが人工ヒレによって元の遊泳力や元の生活を取り戻し、自然に帰れた成功例は存在せず、このプロジェクトが成功すれば、世界初となる[注釈 1]とされたが、最終的には体の成長に人工ヒレが追いつかず、ヒレをつけない状態で飼育されていた[1]。2019年9月26日、疾病に伴う衰弱のため死亡[2]。
- ^ a b 世界で初めてウミガメに補助具が用いられたのは、アメリカの「アリソン」(Allison, アオウミガメ)の例である。アリソンは四肢のうち三肢をサメに食べられ、右前肢しか残っていないためまっすぐ泳げず左回りをするだけで、水中から浮かび上がって息継ぎもできない状態であった。全損しているアリソンの左前肢の痕跡(基部)に人工物をつけることを試みたが失敗したため、代わりに背中に補助具を取り付けることで、片腕でもまっすぐ泳げるようになった。しかし、成長に合わせて補助具を取り換える必要があるため、野生復帰はしていない。[20][21][22][14] また、ウミガメは海中と陸とで違うヒレの使い方をするうえに、骨がもろいため、それに対応した人工のヒレ脚の成功例は無い[23]。
- ^ 測定された悠のヒレの大きさは、右前肢が347.1平方センチメートル、左前肢が230.7平方センチメートルであり、ほぼ同じ身体のサイズの「照」は右前肢504.4平方センチメートル、左前肢490.0平方センチメートルであった。[8]
- ^ 北太平洋のアカウミガメは日本列島の太平洋側の砂浜でしか産卵しないと考えられている[9]。また、日本ウミガメ協議会の調査では、アカウミガメが夏の大阪湾や播磨灘にみられるのは、そこが重要な餌場となっているためとされている。しかし、その場所は船舶の航行や漁業活動が盛んなため、ウミガメと人間との接触が起こり、怪我を負う個体もでる[4]。 そのため、日本ウミガメ協議会は大阪湾に来たウミガメを保護し、しかる後に海に戻す活動をしている[10]。通常、協議会が大阪湾で保護したウミガメは、12月には四国沖の紀伊水道などに戻され、太平洋に向かう(例えば、2009年に和歌山県友ヶ島沖から放流された「照」など3個体は、アメリカの国立海洋大気局 (NOAA) の追跡では太平洋に泳ぎ出している)[11][12]。しかし、悠の場合は泳ぐ力が乏しいため、放流しても再びサメに襲われたり、航行する船舶から逃げられないおそれがあり長生きできないと、日本ウミガメ協議会は判断した[5][13]。 また、神戸市民からも放流することをかわいそうだと疑問視する声もでていた[14]。
- ^ クラレファスニング社から提供されたマジックテープ(面ファスナー)は水に強いとされる「ニューエコマジック」である[27]。
- ^ 大阪大学チームが2009年9月のデータを解析したところ、悠は左右で前肢の大きさが大きく異なる状態であるが、悠は、通常のヒレの半分しか残っていない左前肢を推進力に用い、3分の2が残っている右前肢でバランスを取っているだけであることが明らかになった[29]。これについて亀崎直樹は「長いほうのヒレで泳げば、反対側に曲がってしまう。悠ちゃんは自分の遊泳を分析し、四肢の動きをコントロールしている」と推測している[29]。
- ^ 生物学者でもある亀崎直樹は開発当初のウミガメの姿にショックを表している[30][29]。悠の負担を減らすために甲羅に取り付けられた金具など、本来の生物の姿をかけ離れたウミガメの姿は、生物学者の亀崎には受け入れがたかった[30][29]。川村義肢の技術者らはスピードを求めるが、一方、研究者らはウミガメ本来の姿の保存を求めたることになった[30][29]。亀崎は「生物本来の姿が一番美しく、また機能的」と述べている[29]。
- ^ 亀崎直樹は、ウミガメ研究の実績などによって、2010年4月、神戸市立須磨海浜水族園の園長になった[17]。民間人初の公立水族館館長である[17]。
- ^ この時の悠は人工池から出された時よりも体重が11キログラムも増加していた。また、この日は、左前肢の断端の形状が以前より変化していることも気にされた[4]。
- ^ 悠の幸福度(幸せ度、幸せ度数)が必要なのは「いくら人工ヒレをつけてあげても、彼女が幸せに感じないと意味がない」という着想によるが[29]、物理学者の阪上雅昭は、速く泳ぐことが必ずしも幸せにつながるかどうかという点に疑問を投げかけ、一方、生物学者の亀崎直樹らはサメから逃げるに足りる遊泳速度が必要だと考えている[30]。
- ^ スポーツの評論家の二宮清純は、「山本化学工業ならではの工夫が施されたのが、義肢と足の付け根の接合部分だ。ここにバイオラバー素材を使用した。バイオラバーから放射される赤外線により、冷たい水の中でも体は温められ、血流の悪化を防げる。」と紹介し、壊死のリスクを抑える工夫を施したとしている[38]。また、「山本化学工業ではヒレの上側には流水抵抗を限りなくゼロに近づけたウェットスーツ素材の「S.C.S.(スーパー・コンポジット・スキン)」を用い、逆に下側は抵抗のある素材にすることを考え出した。これにより、ヒレを上へ動かしやすくなり、より水をかきやすくなる。」という工夫も施されていると紹介した[38]。
- ^ a b “須磨水族園再整備計画にノーを!(1) 義肢のアカウミガメ「悠」、無名の最期│PEACE 命の搾取ではなく尊厳を”. animals-peace.net. 2021年7月22日閲覧。
- ^ a b “サメに襲われた両前肢に義肢をつけたアカウミガメの「悠」が死亡しました。献花台を設置いたします。 - ニュース・お知らせ”. web.archive.org (2019年10月19日). 2021年7月22日閲覧。
- ^ “須磨海浜水族園” アカウミガメの“悠ちゃん”今年最後の人工ヒレ装着実験を行います! 2011年12月19日 神戸市役所
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw ax ay az ba bb bc bd be bf bg bh bi bj bk bl bm bn bo bp bq br bs bt bu bv bw bx by bz ca cb cc cd ce cf cg ch ci cj ck cl cm cn co cp cq cr cs ct cu cv cw cx cy cz da db dc dd de df dg dh di dj dk dl dm dn do dp dq dr ds dt du dv dw dx dy dz ea eb ec ed ee ef eg eh ei ej ek el em en eo ep eq er es et eu ev ew ex ey 日本ウミガメ協議会 (2013年10月17日). “悠ちゃん義肢プロジェクト経過報告”. 特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会. 2013年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月17日閲覧。
- ^ a b c d e f 「ウミガメ、両前肢がない「悠ちゃん」に人工ヒレ 国内初の試み」 2009年1月27日 宮地佳那子 毎日新聞
- ^ a b c d e f g h 日本ウミガメ協議会 (2013年9月18日). “悠ちゃん義肢プロジェクト概要”. 特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会. 2013年9月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月3日閲覧。
- ^ a b c 事務局だより2008 日本ウミガメ協議会web
- ^ a b c d 研究項目>人工鰭を装着したアカウミガメの運動解析 大阪大学工学部 船舶海洋工学コース 海事機械システム工学領域 加藤研究室 加藤直三教授サイト
- ^ 亀崎直樹「あっぱれ!水の動物たち:アカウミガメの産卵」 毎日新聞大阪夕刊、2012年6月21日、第3面。
- ^ 神戸空港におけるウミガメ保護活動報告 2007年 (PDF) 日本ウミガメ協議会
- ^ a b 事務局だより2009 日本ウミガメ協議会web
- ^ 事務局だより2010 日本ウミガメ協議会web
- ^ a b c d e f ウミガメ 人工ヒレで泳ぐ:なるほどランド:教育 2011年6月28日 東京新聞(TOKYO Web)
- ^ a b 日本ウミガメ協議会 (2013年9月18日). “悠ちゃんQ&A”. 特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会. 2013年9月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月3日閲覧。
- ^ Motion Analysis of Sea Turtle with Prosthetic Flippers - Isope (PDF)
- ^ Q&A: How a Turtle With Fake Limbs Got a Leg Up – News Watch February 20, 2013, National Geographic ※ニュース映像付記事
- ^ a b c d 市民登場(民間人で初めて公立水族館の館長に就任した「ウミガメ博士」 亀崎直樹さん No.612)(50面) (PDF) 広報ひらかた平成22年6月号 - 枚方市ホームページ
- ^ Disabled Turtle Yu Given Prosthetic Flippers 1:40pm UK, Tuesday 12 February 2013, Sky.com (Sky News)
- ^ 両前肢失ったウミガメ、人工ヒレで試験遊泳 27回目の試み - 国際ニュース 2013年02月13日 12:22 AFPBB News
- ^ 「補助具を装着、元気になったウミガメ」『ナショナル ジオグラフィック日本版サイト』2009年4月9日。2023年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月27日閲覧。
- ^ 「動物用人工パーツ:ウミガメの前肢」『ナショナル ジオグラフィック日本版サイト』2009年7月7日。2023年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月27日閲覧。
- ^ サメに襲われたウミガメ、インプラントで「人工ひれ」装着へ 2008年02月29日 18:38JST ロイター
- ^ 両脚失ったウミガメを海へ 人工ひれの開発目指す 2009/02/14 05:45 『47NEWS(よんななニュース)』 共同通信
- ^ カメの悠ちゃんPROJECT(2010) 朝日新聞神戸総局
- ^ a b c 2009年6月23日(火) 13:55-15:50 放送内容 日本テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』 (価格.comカカクコム - テレビ紹介情報)
- ^ a b ウミガメ、人工ひれでプールに サメに脚食べられ初装着 2009/06/20 16:56 『47NEWS(よんななニュース)』 共同通信
- ^ クラレファスニング/ウミガメ悠ちゃんに人工ヒレを 2009年08月20日(木曜日) 午後1時11分 『繊維ニュース』(ダイセン社)
- ^ a b c d 人工のヒレで 私は泳ぐ 2009年10月26日 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
- ^ a b c d e f g h 亀崎直樹「あっぱれ!水の動物たち:続々・人工ヒレの悠ちゃん」毎日新聞大阪夕刊、2012年11月08日、第3面。
- ^ a b c d 【ウミガメ悠ちゃんの幸せ探し】の番組概要ページ - TVトピック検索 2013年1月8日(火) 0:25 - 0:45, NHK総合大阪 『ドキュメント20min.』 (gooテレビ番組)
- ^ 人工ヒレのアカウミガメ「悠」 須磨海浜水族園で療養中 アップロード日:2010/04/26 神戸新聞 (YOUTUBE)
- ^ 神戸市:須磨海浜水族園 2010 悠ちゃんプロジェクト報告会 -人工ヒレ、なかなかうまくいかんわい- 2010年12月8日 神戸市役所
- ^ a b c ウミガメ悠ちゃん ママになる!! - スタッフルーム 2012/06/22 神戸市立須磨海浜水族園、2013年10月19日時点のインターネット・アーカイブ。
- ^ “須磨海浜水族園” 前肢を失ったアカウミガメの「悠ちゃん」に人工ヒレ(第28モデル)を装着します! 平成25年3月15日 神戸市役所
- ^ a b VOICE - 「前肢をサメに… ウミガメ救おう! 27回目のチャレンジ」 2013-02-15放送 MBSテレビweb
- ^ 20日 悠ちゃん 2013年03月22日10:00 KAWAMURAグループ広報ブログ(川村義肢)
- ^ a b 人工ヒレ装着目指すウミガメに強い味方 山本化学工業、最適の素材を提供 2013/8/6 09:37 徳島新聞社
- ^ a b c 二宮清純のスポーツ・ラボ:第44回 カメの恩返し -悠ちゃん義肢プロジェクト- 2013-07-01 12:00:00, SPORTS COMMUNICATIONS
- ^ ウミガメさんいらっしゃい 2013年06月05日15:03 KAWAMURAグループ広報ブログ(川村義肢)
- ^ 悠ちゃんの来社 2013年08月12日13:41 KAWAMURAグループ広報ブログ(川村義肢)
- ^ いつもと違うタイプです 2013年09月18日09:00 KAWAMURAグループ広報ブログ(川村義肢)
- 1 悠 (人工鰭のウミガメ)とは
- 2 悠 (人工鰭のウミガメ)の概要
- 3 幸せのヒレ探し
- 4 悠のお見合い
- 5 死亡
- 6 関連項目
「悠 (人工鰭のウミガメ)」の例文・使い方・用例・文例
- 彼女はひと言も言わず,悠々とした足どりで2階へ上がった
- 加奈が、悠貴が描いた絵が素晴らしかったので去年新聞に載ったと言っていました。
- 決して悠長な仕事ではない。
- 演説者は悠々と演壇に向かっていった.
- みんながあわてても彼女は悠然と構えていた.
- 大空を見上げると一羽のワシが悠然と飛んでいた.
- そんな悠長なことを言っている時ではない.
- 悠々とビールを一杯飲んだ.
- 今日は早めに家を出たので, 電車には悠々と間に合った.
- 彼は他の走者を悠々と抜いて行った.
- 海に注ぐまで悠々と流れる長江のほとりに立ち, はるかなる中国の古(いにしえ)を偲んだ.
- 退職して今は悠々自適の生活をしている.
- 彼は悠容として部屋に入った.
- 悠容迫らざる態度をとる
- 彼は悠容として迫らないところが有る
- 洋画は悠容を欠いている
- 敵を前に控えて悠々と飯を食った
- 鐘が鳴っても悠々と構えている
- 悠々と闊歩する
- 敵を前に控えて(敵に臨んだ)悠々と飯を食った
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