実用化に際しての課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 06:50 UTC 版)
「軌間可変電車」の記事における「実用化に際しての課題」の解説
以下の理由により、九州新幹線(西九州ルート)での営業量産車両は不採用となった。 軌間可変装置の通過時間。軌間可変装置の通過速度向上にも重点が置かれている。開発当初は極端な低速でしか通過できず、1両通過するのに1分以上掛かる状況であった。その場合だと長編成の列車になれば軌間変更に時間が掛かることになり、結局は新八代駅で行われたような対面乗り換え(当時は九州新幹線の開業区間が新八代以南のみであったため、博多 - 新八代の在来線特急と新八代 - 鹿児島中央の新幹線列車との乗換が必要だった)の方が所要時間(約3分)の面では短いということになる。2009年(平成21年)5月現在、10 km/h程度まで通過速度が向上しており(分速166 m程度)単純計算すると20 m級車両なら1分で8両通過できることになるが、実際には様々な要因を含めて通過に要する時間は5分程度とされている。 ダイヤ組成の影響・山陽新幹線の保線負担九州新幹線(西九州ルート)の運営予定のJR九州は「関西からの直通列車が長崎まで来る」ことを計画していた。しかし、山陽新幹線を保有するJR西日本はダイヤ組成に影響がある点に加えて、台車の重さによって線路の傷みが早くなって線路保守費が増大するなどの問題点からフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れに難色を示す発言をしていた。2022年に予定される西九州ルート(長崎ルート)の開業までにこれらの問題点を解決して山陽区間を300 km/hで走行できる車両が実用化できるかが注目されていたが、こちらも第三次試験車両では解決できず、新幹線区間は270 km/hのままとなった。 駅整備の負担狭軌対応の軌間可変車両は車両長や車体断面などの寸法が在来線規格となる。このため、一部のホームドア設置駅では客用扉の位置が合わなくなるため、ホームドアの改修が必要となる。 過大な車両重量によるメンテナンスコストの増大標準軌の新幹線車両に比べ台車が数割重く、軌道やポイントに与える影響が大きい。また、高速走行の際の騒音や振動が問題ともなる。 軌間可変用の特殊な機構以外にも、新在共用走行のための運転保安設備を2系統備えるため、車両重量が増加する。 比較対象として、スペインのタルゴは機関車が客車を牽引する方式で、客車は左右の車輪が車軸で結ばれていないため、軌間可変装置を置くスペースが確保できている。また、機関車には客を乗せない分、車輪や台車を大きくすることで重量の問題を解決している。一方、日本は電車方式であり、台車にモーターを設置するため、台車が重くなってしまう。また、広軌 - 標準軌で軌間可変するタルゴと異なり、日本では標準軌 - 狭軌で軌間可変するため、狭軌の限界寸法に合わせて機器類を設置しなければならず、標準軌 - 狭軌の軌間差(変換幅)が狭軌の約34 %と大きいため、軌間可変装置を置くスペースがない。 フリーゲージトレイン(FGT)第3次試験車は、車両軽量化対策として、高価な部品を用いることで、270 km/h走行を行う一般の新幹線電車と同じ重量を実現。 軌間可変台車は可動部を有していることから点検箇所が増え、摺動部品、摩耗部品は交換周期自体も短いため、メンテナンスコストが増大する。軌間可変技術評価委員会は、フリーゲージトレイン(FGT)第3次試験車の検証走行試験での車軸の不具合から、車軸の定期的交換を想定して一般の新幹線車両と経済性の比較を行った結果、車軸を240万 kmごとに交換する場合で一般の新幹線車両の2.5倍程度、台車検査周期の60万 kmで交換する場合は3倍程度のメンテナンスコストになると試算している。
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