多重国籍者の国籍選択制度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 04:14 UTC 版)
「国籍法 (日本)」の記事における「多重国籍者の国籍選択制度」の解説
外国の国籍も有する日本国籍保持者は、外国及び日本の国籍を取得した時が20歳未満のときは、22歳までに(多重国籍で出生した場合は22歳の誕生日までに)、取得が20歳の誕生日以降であったときは取得時から2年以内に国籍の選択をしなければならないとされている(第14条第1項)。 その場合において、日本の国籍を選択する場合は、外国の国籍を離脱する(事後に外国国籍喪失届提出)か、国籍選択宣言(日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する宣言)を行うことによってする。しかし、日本の官庁に提出する国籍選択宣言によって当然に外国の国籍を離脱したことになるわけでない。放棄しようとする国の国籍法の定めによって国籍を離脱することになる場合もあるが、多重国籍状態が国籍選択宣言を行うことによって直ちに解消されるとは限らない。日本法によって外国の国籍を喪失させることはその国への内政干渉になるため不可能である。 日本の国籍の選択の宣言をした者は、外国の国籍の離脱に努めなければならないという努力義務規定がある(第16条第1項)が、後述するように、その国の国籍が必要な外国の公務員となった場合に、日本国籍を失う可能性があるだけで、外国籍を離脱しないことについての罰則もない。その結果、主に出生地主義の国で生まれた重国籍者が多数存在すると思われるが、実態は明らかでなく、国政選挙権も含めて、日本国籍だけを有する者と平等に扱われている。 なお、重国籍となってから2年以内(20歳未満で重国籍となった場合は22歳に達するまで)に国籍を選択しなかった者について、市町村長はその旨を管轄法務局または地方法務局に通知することとされており(戸籍法第104条の3。ただし、1984年(昭和59年)以前に出生した者については、昭和60年以降外国人との婚姻若しくは養子縁組又は外国人からの認知により重国籍者となったと思料されるものに限り通知される。)、法務大臣による催告が行われた場合は、1月以内に国籍選択をしないと日本国籍を喪失することとされている(第15条。もっとも、実際に法務大臣による催告が行われた事例は2010年(平成22年)2月現在ない。これはみなし規定を除き、帰化等国籍の得喪に関する事務を取り扱う、地方法務局戸籍課の所管である)。 1984年(昭和59年)以前に既に多重国籍であった日本人は、1985年(昭和60年)改正法施行の日(1985年(昭和60年)1月1日)に多重国籍になったものと見なされる。その時点で未成年であった者は22歳に達するまでに、すでに成人であった者は2年以内に国籍の選択をしない場合、日本の国籍の選択の宣言をしたものと見なされる(国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律(昭和59年法律第45号)附則第3条(国籍の選択に関する経過措置))。 日本の国籍の選択の宣言をすると、法務大臣は、外国の国籍を失っていない者が自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる(第16条第2項)。実際に宣告がされた例はないようだが、日本以外の公務員になることに興味のある人は、注意が必要である。 帰化申請など、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、自動的に日本国籍を失う。また、出生や結婚などが理由の、自己の志望によらない重国籍者であっても、日本以外に持っている国籍、市民権の有るの国の法令に、国籍選択の宣言のような制度があり、その制度によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。どちらの場合も、外国の国籍担当機関と日本の法務当局のデータが自動連動しているわけではないため、戸籍の台帳上の記載が直ちに物理的に消去されることはないが、外国籍、市民権の取得と同時に日本国籍を喪失する。これらの要因で日本国籍を喪失した者は、一定の期間内にその旨を届けなければならず(戸籍法第103条)、これにより戸籍にも日本国籍喪失の旨が反映されることになる。なお、アメリカやカナダ、オーストラリアなどに移住して、市民権を取得した日本人の中で、国籍喪失届を提出するのは「1割」と言われている。日本人の市民権取得について、個人情報管理を日本より厳格に運用している外国政府が日本政府に通報しない現状では、下記のドイツ以外の場合、第11条で、国籍を失った後、戸籍簿の更新がされていない事が多い。それは、戸籍簿の更新が、主に前述の喪失の届け出に頼っているためである。戸籍簿が更新されていないからといって、国籍を失っていないわけではないが、国籍を失っているかどうかを、事務的にも、心理的にも、把握するのが難しい、主な要因になっている。ドイツ以外の他のG8同様に、「喪失する」を「喪失しない」に法改正する事が急務であると考え、活動している人たちもいる。 なお、ドイツ-日本間には「通報制度」が取りきめられており、ドイツ国籍を取得した日本人については、その旨を在独日本大使館・総領事館に通告する。通告を受けて、日本側で日本国籍の喪失・離脱手続きが開始される。(根拠法:ドイツ国籍法9条、ドイツ外国人法85条)。またスペインは基本的に旧植民地諸国(ブラジルやプエルトリコを含む中南米、フィリピンなど)以外との二重国籍は認めておらず(主要国としては、2021年に条約でフランスとの間で二重国籍が可能に)、日本人がスペイン国籍を取得する場合、スペイン側から国籍の離脱を要求されることになり、国籍取得後3年以内に元の国籍の使用が明らかになった場合にはスペイン国籍が抹消される。 日本弁護士連合会は、2008年に「国籍選択制度に関する意見書」、2017年に「国籍留保・喪失制度に関する意見書」を公表している。 また、2021年には「日台複数籍者の国籍選択に関する人権救済申立事件(勧告)」を公表し、「日台複数籍者は国籍法14条に基づく選択義務を負わないと解すべきである」との判断を示したうえで、内閣総理大臣および法務大臣宛てに「日台複数籍者に国籍法14条が規定する国籍選択を求めてはならない。」「日台複数籍者に対して,日本国籍の選択宣言を行わなかったとしても,国籍法上の義務違反に当たらないことを周知徹底するべき。」との勧告を行っている。
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