多発筋炎
炎症性筋疾患(多発筋炎)は表4のように分類されています。
I. 成人型多発筋炎 II. 成人型皮膚筋炎 III. 小児および若年型皮膚筋炎 IV. 膠原病を伴う皮膚筋炎 V. 膠原病を伴う多発筋炎 VI. 悪性腫瘍に伴う皮膚筋炎 VII. 悪性腫瘍に伴う多発筋炎 |
(Banker と Engel,1986) |
表4 多発筋炎の分類 |
成人の多発筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)は臨床的に厳密な区別がつけがたいものが多いので、ここでは一括して説明します。
a.病因、病態、病理
原因不明の特発性のものと、結合織疾患や悪性腫瘍に伴うものがあります。罹患筋では筋線維の壊死・再生とともに、単核球の細胞浸潤を間質、血管周囲に認めます。また単核球は壊死線維の周囲に集積して存在することもあります。このような細胞はCD8陽性のT細胞(cytotoxic T cell)が多いことより、T細胞によって筋線維が直接傷害されると考えられています。
皮膚症状が特に顕著な筋炎は皮膚筋炎とよばれます。病理学的には血管炎が主で、しばしば虚血性の変化(筋束周辺萎縮、小梗塞像など)をみます(図29)。
小さく黒く染まっているのは浸潤しているリンパ球。 筋束の周辺の筋線維が細くなっていることが(筋束周辺萎縮: perifascicular atrophy)診断的所見である。 | |
図29:皮膚筋炎の病理 |
主な臨床症状は筋力低下です。躯幹近位筋のことが多く、ごく例外的に筋力低下を局所的にみることがあります。頸部の屈筋群、咽頭筋がおかされることもまれでなく、その場合は嚥下困難をみます。急性期には発熱、筋痛、倦怠感、レイノー(Raynaud)現象を認めます。皮膚症状で典型的なものは上眼瞼に淡赤紫色の発疹(heliotrope rash)です。腱反射は消失ないし減弱します。
慢性に経過するものは、近位筋の筋力低下で気付かれます。筋ジストロフィーとの鑑別が困難なこともまれではありません。
成人例では約20%に腫瘍の合併があり、特に40歳以上で皮膚筋炎の場合はその可能性が高いといわれています。腫瘍が発見される以前に筋症状が出現することもあります。腫瘍の中では肺癌が特に多くみられます。結合織疾患としてはエリトマトーデス、慢性関節リューマチ、シェーグレン症候群が代表的です。
小児皮膚筋炎は成人の皮膚筋炎と異なり、悪性腫瘍を伴うことはなく、予後は良好です。皮膚症状は眼瞼周囲の紅斑、手足関節周囲の発疹です。症状は急性で、筋力低下は近位筋優位にみられます。病理学的には筋束周辺萎縮(perifascicular atrophy)と血管炎を主病変とします。ステロイドが著効しますので、早期診断、早期治療開始が重要です。
類肉腫性筋炎(granulomatous myositis)はサルコイドーシスとの関連性が深いと考えられています。サルコイドーシスは全身性の疾患で骨格筋の症状を伴うことはまれとされていました。しかし、症例によっては筋症状が前景に立つことが知られています。さらに筋内にサルコイド結節を証明しても全身性の所見に欠けることもあります。これらは類肉腫性筋炎として区別してよばれていますが、多分サルコイドーシスと同一なものではないかと考えられています。
c.検査所見
急性期には赤沈の亢進、白血球の増加があります。血清CK値は上昇します(皮膚筋炎では正常のこともある)。自己免疫疾患と合併した例では免疫グロブリン(α2、γなど)の増加があり、RA(リュウマチ)、LE因子が陽性となります。
d.治療
ステロイド剤が第一選択です。成人では60mg/日より開始し、症状、血清クレアチンキナーゼ(CK)値、赤沈値などの値をみて次の治療方針をたてます。激症で筋力低下が急速に進むものはステロイド大量点滴(パルス)療法、血漿交換が行われることもあります。少なくとも一ヶ月間継続します。次にステロイド抵抗例には免疫抑制剤を使用します。
慢性例では関節拘縮の防止、筋力低下防止のためのリハビリテーションが必要です。
筋炎
(多発筋炎 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 10:52 UTC 版)
炎症性筋疾患または筋炎(myositis)は骨格筋に炎症性変化および障害をきたす疾患である。ウイルスや細菌などの感染が原因となる感染性筋炎(infectious myositis)と自己免疫が原因となる自己免疫性筋炎(autoimmune myositis)または特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathy、IIM)、薬物や治療に関連する有害事象性筋炎に分類される。有害事象性筋炎は免疫チェックポイント阻害薬関連筋炎、スタチン関連免疫介在性壊死性ミオパチー、慢性移植片宿主病などがある。おもに自己免疫性筋炎に関して述べる。
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多発筋炎
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 05:00 UTC 版)
その他の自己免疫性筋炎と同様に筋原性変化が認められる。特徴的であるのは筋内鞘主体に炎症細胞浸潤を認めるということである。筋束の外である筋周鞘に存在するリンパ球は非特異的であり診断的特異性は殆どない。HE染色では小型単核球が非壊死筋線維を取り囲み、内部に侵入する像を認める。 免疫染色ではCD8陽性T細胞が筋内鞘を主体としたスペースに浸潤し、HLA-ABCを発現している非壊死筋線維を取り囲み、筋線維内に侵入する像を認める。これをCD8/MHC class Ⅰ complexという。この所見は皮膚筋炎では認められず多発筋炎に特徴的な所見と考えられていた。筋内鞘主体にCD68陽性マクロファージを認める。電子顕微鏡では非壊死筋線維に単核球が接し、同部位では筋線維の基底膜は消失している。つまり、単核球が筋線維の基底膜を破壊して、筋線維の細胞質に侵入していると考えられている。筋線維の筋原性変化、HLA-ABCの筋細胞膜への発現亢進所見のほか、CD8陽性T細胞が非壊死筋線維を取り囲み、筋線維内に侵入する像を認めることが特徴的かつ診断的と考えられている。ヨーロッパ神経筋センター(European Neuromuscular Centre、ENMC)の診断基準ではCD8陽性T細胞が非壊死筋線維を取り囲み、筋線維内に侵入する像を認めると確実な多発筋炎と診断される。 多発筋炎の病態機序としてはCD8陽性T細胞が筋内鞘中心に侵入し、パーフォリンと呼ばれる物質を放出しながら筋線維の基底膜を破って線維の内部に入り込み、筋線維を障害すると考えられている。皮膚筋炎と異なり多発筋炎では筋局所において細胞性免疫機序が存在する。臨床的な多発筋炎の多くは病理学的には壊死性ミオパチーである。「CD8陽性T細胞の筋内鞘および非壊死性線維内部への浸潤を伴う」という多発筋炎の組織学的な定義を用いると多発筋炎と病理学的に診断される例はほとんどなく、そのような所見を示す例の殆どが封入体筋炎である。
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