北欧神話におけるエルフ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 06:04 UTC 版)
エルフに関する最も古い記述は北欧神話にある。最初期のエルフは、古ノルド語でアールヴ(álfr、複álfar)と呼ばれた。同時期の記述は存在しないが、後の民間伝承に登場するアールヴと語源的に結びついた多くの単語の存在は、エルフへの信仰が古代スカンディナヴィア人だけのものではなく、ゲルマン民族全体で一般的であったことを強く示唆している。 エルフは北欧神話に様々な形で登場する。現代の私たちが当時のエルフの概念を明確に定義づけることはできないが、当時の人々はエルフを強力で美しい、人間ほどの大きさの存在として理解していたように思われる。彼らは一般的に先祖崇拝と同様に、豊かさと結びついた半ば神聖な集団として言及される。エルフの存在は自然の精霊や死者の魂に対するアニミズム的な信仰と類似していて、ほとんど全て人間の信仰と通じるものがある。ほぼ間違いなく、ゲルマン民族にとってのエルフとは、ギリシャ・ローマ神話におけるニンフや、スラヴ神話におけるルサールカのような存在であったと思われる。 スノッリ・ストゥルルソンは、ドヴェルグ(ドワーフ、単 dvergr, 複 dvergar)について、「デックアールヴ(闇のエルフ、単dökkálfr, 複dökkálfar)」または「スヴァルトアールヴ(黒いエルフ、単 svartálfr, 複 svartálfar)」として言及しているが、このような使用法が中世のスカンジナビアにおいて一般的であったかは分からない。スノッリはダークエルフではないエルフを、「リョースアールヴ(光のエルフ、単 Ljósálfr, 複 ljósálfar)」と言及しているが、この使用法は「エルフ」とalbhの語源的な関係と関連している。スノッリは『スノッリのエッダ』において、彼らの違いについて説明している。 “空には「アルフヘイム(エルフの故郷)」と呼ばれる土地がある。「光のエルフ」と呼ばれる人々がそこに住んでいる。しかし、「闇のエルフ」は地下に住み、外見は彼らと違っているが、中身はもっと違っている。光のエルフは太陽よりも明るいが、闇のエルフはピッチよりも黒い。” "Sá er einn staðr þar, er kallaðr er Álfheimr. Þar byggvir fólk þat, er Ljósálfar heita, en Dökkálfar búa niðri í jörðu, ok eru þeir ólíkir þeim sýnum ok miklu ólíkari reyndum. Ljósálfar eru fegri en sól sýnum, en Dökkálfar eru svartari en bik." スノッリの作品の外に北欧神話のエルフの姿を求めるならば、スノッリの作品以前のエルフの存在を証明する証拠は、スカルド詩(吟唱詩)、エッダ詩(古エッダ)、サガなどに見つけられる。エルフはここで、おそらく「全ての神々」を意味する、「アース神族とエルフ」という慣用句によって、アース神族と結び付けられる。一部の学者は、エルフをヴァン神族と比較したり、あるいはヴァン神族であるとしてきた。しかし古エッダの『アルヴィースの歌』では、各種族がさまざまな物に付けた名前が紹介されるが、エルフはアース神族ともヴァン神族とも異なる風習を持つ種族として描かれている。しかし、これは高位の豊穣神であるヴァン神族と、低位の豊穣神であるエルフとの違いを表したものかもしれない。また古エッダの『グリームニルの言葉』では、ヴァン神族のフレイは光のエルフの故郷である「アルフヘイム」の王であるとされている。同じく古エッダの『ロキの口論』では、エーギルの館で宴会を開かれ、アース神族とエルフの大集団が宴に招ばれている。ここでフレイの従者ビュグヴィルとその妻ベイラが登場するが、二人が神々の列に加えられていないことと、フレイがアルフヘイムの支配者であることから、この二人がエルフであることが分かる。 一部の研究者はヴァン神族とエルフはスカンジナビアの青銅器時代の宗教の神であったが、後に主神の座をアース神族に取って代わられたと推測している。ジョルジュ・デュメジルをはじめ、そのほかの研究者は、ヴァン神族とエルフは一般人のもので、アース神族は僧侶や戦士階級の神であったと主張している。(ネルトゥスも参照) スカルドのシグヴァト・ソルザルソンは、1020年ごろの『東行詩』(Austrfararvísur)の中で、彼がキリスト教徒であったため、スウェーデンの異教徒の家で「エルフの供儀」(álfablót)の間の賄いを拒否されたことについて触れている。しかし、「エルフの供儀」について信頼できるさらなる情報はない。しかし他の供儀(blót)と同様に、「エルフの供儀」にも食料の提供があっただろう。そして後のスカンジナビアの民間伝承も、エルフにもてなしを捧げる伝統を保っている。 これに加えて、『コルマクのサガ』では、エルフへの捧げものがひどい戦傷を癒すことができると信じられていた様子が描かれている。 ”ソルヴァルズはゆっくりと癒えていった。彼は立ち上がれるようになるとソルズィスを訪れ、彼女に彼を癒す良い方法を尋ねた。 「丘があります」、と彼女は答えた。「ここから遠くない、エルフたちが訪れるところが。今からコルマクが殺した雄牛をもって、その血で丘を赤く染め、その肉でエルフのために宴をひらくのです。その時あなたがたは癒されるでしょう」” Þorvarð healed but slowly; and when he could get on his feet he went to see Þorðís, and asked her what was best to help his healing. "A hill there is," answered she, "not far away from here, where elves have their haunt. Now get you the bull that Kormák killed, and redden the outer side of the hill with its blood, and make a feast for the elves with its flesh. Then thou wilt be healed. スカンジナビアのエルフは、人間ほどの大きさであった。『ゲイルスタッド・エルフのオラーフ王』や、『ヴェルンドの歌』で、「妖精の王」と呼ばれている鍛冶師ヴェルンドなど、名声ある男性は死後エルフの列に加えられることがあった。古代の北欧の人々は、エルフと人間との混血も可能だと信じていた。『フロルフ・クラキのサガ』では、デンマーク王ヘルギは彼が出会った中で最も美しい女性であるシルクをまとったエルフと出会う。彼は彼女を強姦し、娘のスクルドが生まれた。スクルドはフロルフ・クラキの殺害者ヒョルバルズルと結婚する。エルフとの混血であったスクルドは魔術に通じており、そのため戦場では無敵であった。かの女の兵士が倒れても、かの女はかれらを立ち上がらせ、戦い続けさせることができた。かの女に勝つには、かの女がエルフなどの兵士を呼び出す前に、かの女を捕らえるしかなかった。もう一つの例には、母親が人間の女王であったホグニがある。『シドレクス・サガ』によると、ホグニの父は、エルフのアドリアン王であった。(ただし、『シドレクス・サガ』の原点のほとんどはドイツ語資料である。) 『ヘイムスクリングラ』と『ソースタイン・サガ』では、現在のブーヒュースレーン地方と一致するアルフヘイムを支配した王統について説明している。彼らにはエルフの血が混ざっていたため、他の男たちよりも美しいといわれていた。 "アルフ王によって支配されたその地はアルフヘイムと呼ばれ、これの子供たちはエルフの親戚であった。かれらは他の人々よりも美しかった……。" 彼らの最後の王の名は、ガンドアールヴといった。
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