凋落期
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 05:38 UTC 版)
ビッグスリーの寡占化圧力が強まっていた1953年末、パッカードにとって非常に困難な事態が発生した。パッカード車のボディ製造を請け負っていたブリッグス社が、経営問題に乗じる形でライバルのクライスラーに買収され、パッカード車のボディの生産が出来なくなるという事態が生じたのである。交渉の結果1954年型の生産は継続されることになったが、それ以降は拒絶され、1955年型以降は他社に依頼するか自社で生産するかの選択を迫られた。パッカード社はブリッグス社の空いている工場を借り、ボディのみならず、最終組み立てもその工場で自社で行うと決定した。しかし、急ごしらえのラインで不慣れな工員に生産をさせたことが災いし、品質は低下、クレームが多発した。品質水準は徐々に回復したが、解決までには1年以上を要し、パッカードのイメージと信用は大いに傷ついた。 経営が悪化したパッカード社は、1954年には中堅独立系メーカーのナッシュ・モーターズとハドソン・モーター・カーの合同で成立したアメリカン・モーターズ(AMC)との提携を模索し、ナッシュ・ハドソンになかったV型8気筒エンジンの供給で提携したが、AMCトップのジョージ・ロムニーらの慎重さによってそれ以上の関係には至らず、パッカードエンジンが高価であったことから、AMCが自前のV型8気筒を開発した1956年にはこの提携も途絶えた。 結局パッカードは、同年10月に中堅の中級車メーカーのスチュードベーカーを吸収合併し、スチュードベーカー=パッカード社に改組し苦境を乗り切ろうとするものの、一方のスチュードベーカーの経営状態も決して良いものではなかった(スチュードベーカーは中級車・大衆車のメーカーであったが、高い人件費などが災いし、慢性的な高コスト体質を抱えていた)。また、合併直後にスチュードベーカー側が損益分岐点(生産台数)を少なく見積もっていたという帳簿上のミスが発覚した。両社の合併に関しては、事前精査なしでフレンドリーな話し合いで契約を結ぶという経営が行われていたため、契約前での状況把握ができていなかったのであるが、このような経営では事態は改善できず、また、多大な設備投資や防衛システムの受注失敗などもあり、1956年には危機的状況に陥った。 GMやフォード、クライスラー等に支援を要請したが断られ、最終的に1956年8月に3年の期限付きで航空機メーカーのカーチス・ライトと経営顧問契約を結んだ。しかし、カーチス社の真の目的は子会社化したスチュードベーカー=パッカード社の累積赤字を利用して業績の良いカーチス社の税金を相殺(節税)することにあったと言われており、そのためにスチュードベーカー=パッカード社の業績は全く好転せず、契約が切れるとカーチス社は手を引きスチュードベーカー=パッカード社の業績はますます悪化した。 前後するが、1955年型ではトーションバーと電気モーターを用いた前後関連式の車高自動調整式サスペンションを用いたモデルを発売。販売は一時上向いたものの、同じ年に車名の「クリッパー」が商標権の侵害であるとしてパンアメリカン航空から訴えられ、1956年型は、後車軸のリコール問題を起こすなど、高品質を誇ったかつてのパッカードからは考えられないトラブルが頻発した。ブランドイメージ低下に加え、品質面での劣化も明らかになるなどで、市場の信頼は急速に低下し、販売は大幅に落ち込んだ。 このためパッカードに見切りを付け、他ブランド車(キャディラックやリンカーンなど)に乗り換えるユーザーや、取り扱い車種を他ブランド車に鞍替えする販売店も続出した。 また、この頃になると、大メーカーの激しいモデルチェンジ攻勢についていけなくなり、デザインも時代遅れになりつつあった。販売台数の減少によりスチュードベーカーと異なる独自のシャシー、ボディを使用し続けることがコスト的に困難になり、1957年型以降はスチュードベーカーのボディシェルを共用して豪華に飾り立てたものに成り下がってしまった。「スチュードパッカード(Studepackard)」や「スチュードパック(Studepack)」、「パックベーカー(Packbaker)」といった不名誉なニックネームを頂戴したのはこの頃である。 その後も他社への支援の要請や、次期型の開発などパッカード延命の努力も続けられたが、経営陣は、パッカードブランドの存続は困難との結論に達し、結局、パッカードブランドでの自動車製造は1958年に打ち切られ、ブランドは消滅した。また、1962年にスチュードベーカー=パッカード社はスチュードベーカー社に社名変更し、会社名からもパッカードの名が消され、自動車メーカーとしてのパッカードの歴史は名実共に幕を閉じた。
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