偽史的な伝承にみられる仏教
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/07 08:33 UTC 版)
「仏教のシルクロード伝播」の記事における「偽史的な伝承にみられる仏教」の解説
仏教の伝来を1世紀におく中国の世俗の歴史家に反して、いくつかの偽史的な仏教文献や伝承が述べるところによれば、最初期の伝来は秦(紀元前221年-紀元前206年)あるいは前漢(紀元前208年-9年)にまで遡るという。 『歴代三宝紀』(597年)を初出とするある偽史には、仏教の聖職者の集団がおそらく紀元前217年に秦の都咸陽に到着したことが述べられている。沙門室李防に先導された僧侶たちが始皇帝に経典を贈ると、始皇帝は彼らを投獄した; 「だが夜になると16フィートもの高さの黄金の人が牢屋を破壊し、彼らを脱獄させてしまった。この奇蹟に突き動かされて、皇帝は土下座して許しを請うた。」 仏教の百科事典『法苑珠林』(668年)ではこの伝説が、マウリヤ朝のアショーカ王が中国に室李防を派遣したという逸話とからめて練り直されている;梁啓超を除けば、近代の殆どの中国学者はこの室李防の物語を無視している。西洋の歴史家の中にはアショーカ帝が中国に宣教師を送ったと信じる者がおり、ギリシアやスリランカ、ネパールに宣教師が送られたことを記録するアショーカの勅令(265年頃)を参照している。これに反対する者もおり、「碑文から推測できる限り、彼[アショーカ]は中国の存在自体を知らなかった」という。 紀元前2年に哀帝の宮廷に来た月氏の使節が一巻かそれ以上の仏典を中国の学者に向けて送ったという伝承が存在する。この伝承の初期のものは現在は散逸してしまった『魏略』(3世紀中頃)に由来し、『三国志』の裴松之注(429年)で引用されている: 「宮廷学舎で学んでいた景盧が大月氏の王の使者伊存から仏教経典の説明を口頭で受けた。」漢朝の歴史には哀帝が月氏と関係を持ったことが言及されていないため、この伝承が「真剣な考察に値する」か、あるいは「歴史研究の信頼できる史料」であるということには賛成していない。 多くの偽史的な史料では、明帝が仏陀を夢に見て、月氏に使節を送り(時期に関しては60年、61年、64年、68年と様々な説がある)、(3もしくは11年後に)聖典と最初の仏教宣教師迦葉摩騰(あるいは攝摩騰)と竺法蘭を伴って使節が帰還したという「敬虔な伝説」を説明している。彼らは『四十二章経』を漢訳したが、その時期は67年か、遅くとも100年頃と推定されている。皇帝はこれを称賛して白馬寺を建立し、ここに中国仏教が始まった。明帝の夢と月氏使節に関する説明は全て『四十二章経』の匿名の序文(3世紀中頃)に由来する。例えば(3世紀後半-5世紀初期の)『牟子理惑論』にはこうある。 かつて明帝は太陽のように光り輝く体を持つ神が自分の宮殿の前を飛び回るの夢に見た。そして彼はこのことを非常に喜んだ。次の日彼は「これは如何なる神だろうか?」と群臣に尋ねた。学者の傅毅はこれに答えて言った。「西域には道を会得した仏陀という者がいるそうです。彼は宙を飛び、彼の体は太陽のごとく光り輝いているとのことです。これは神に違いありません。」 明帝の夢が歴史的事実であるということは学術的には否定されている。湯用彤はこの伝承の背後になんらかの核心があるのではないかとみており、一方アンリ・マスペロはプロパガンダ的なフィクションとしてこれを否定している。 中国仏教を説明する上で歴史と伝説がどのように融合することがあったかを示そうとすると、『漢書』に記された武帝が匈奴を攻撃するために紀元前121年に霍去病を派遣した話が挙げられる。霍去病は休屠王(休屠は今日の甘粛省)を打ち負かし、「休屠王が天を崇めるのに使っていた金人を手に入れた。」 休屠王の太子は捕えられて官奴となったが、後に武帝の高名な家臣となり、金日磾という名を授かった。彼の姓「金」は「金人」を指しているものと考えられる。黄金の像は後に、夏期の皇宮のあった甘泉付近の雲陽寺に移された。『世説新語』(6世紀頃)では、金人は10フィート以上あり、武帝(在位:紀元前141年-紀元前87年)が甘泉で金人に対して供物を捧げ、「そのようにして仏教が徐々に(中国に)広まっていった」と主張されている。注目すべきことに、莫高窟(敦煌周辺、タリム盆地内)で見つかったフレスコ画(8世紀)に二つの仏像を拝む武帝が描かれており、「漢の大将軍が紀元前120年に遊牧民に対する軍事作戦中に得た『金人』だと同定される。」 武帝は敦煌に郡を設置したが、「彼は仏陀を信仰することは決してなかった。」
※この「偽史的な伝承にみられる仏教」の解説は、「仏教のシルクロード伝播」の解説の一部です。
「偽史的な伝承にみられる仏教」を含む「仏教のシルクロード伝播」の記事については、「仏教のシルクロード伝播」の概要を参照ください。
- 偽史的な伝承にみられる仏教のページへのリンク