事故調査と原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/11 07:08 UTC 版)
「アトランティック・エアウェイズ670便オーバーラン事故」の記事における「事故調査と原因」の解説
13時08分にノルウェー事故調査委員会(AIBN)がヘリコプターで到着した:42 。事故の様子を3人が撮影していた。そのうちの一人が事故現場から1.5キロメートル (1 mi) 付近で撮影したビデオは特に有用だった。彼はテープをTV 2(ノルウェーの放送局)に売った。その後、ビデオはAIBNに渡された:52。調査官が到着したとき滑走路が湿っていたが、事故当時濡れていたかどうかはわからないとした:34 。また、機体が火災によりほとんど焼けてしまったために、調査は不可能に近かった:48。しかし、機体から分離していた左の着陸装置は調査することができた:52。 調査官は滑走路上に残されたスリップ痕をすべて確認した。それによれば、670便が最初に接地したのは滑走路33の端から945メートル (3,100 ft)地点だと判明した:41。また、滑走路にはゴム片が残っていた:46。機体は最初は中心線をたどったが、1,140メートル (3,740 ft)を過ぎた辺りで右に逸れ、1,206 メートル (3,957 ft)を越えてから方向を変えた。1,274メートル (4,180 ft)から、機体が左へスリップしだしており、1,465メートル (4,806 ft)地点でオーバーランしたときには徐々に25度の角度に達していた:46。 また、事故機が進入を開始する以前に、滑走路の検査が行われたが、その際に路面が乾いているか湿っているかは報告されなかった。そのため、パイロット達も滑走路の状態を把握しておらず、乾いた状態であると認識していた。しかし、実際には滑走路は湿っていたと調査で明らかになった。 フライトデータレコーダーは回収されたが、火災の影響で大きく損傷していた。データのうちの大半は焼けてしまい、取り出せたのはストード空港への進入中の12秒間と最後の3秒間だけだった:40 。フェアチャイルド社製A100S コックピットボイスレコーダーは研究所に送られたが、回路板の損傷により、そこではデータを取り出すことができなかった:41。しかし、メーカーに送ったところ、データの取り出しに成功した:42。AIBNは操縦席の音の録音に関する専門知識を持っているフィンランド安全調査機関(英語版)[訳語疑問点](Safety Investigation Authority of Finland)に音声データを持ち込んで分析した。この分析の最も重要な結果は、事故のタイムラインの確立と、スポイラーレバーが正しい位置に設定されていたことの確認であった:62。 コックピット内の音声を聞くと、機長と副操縦士は模範的な着陸手順をとっているようだった:6。機長は、滑走路が50から100メートル (160から330ft) 長ければ、機体は停止していたと話した。また、副操縦士は、オーバーラン時の速度を5から10キロメートル毎時 (3.1から6.2mph)で、滑走路が10から15メートル (33から49ft) 長かったら止まっていたと見積もった:9。 回収された6つのスポイラーアクチュエータは、調査のため、ケジェラー空港(英語版)にあるノルウェー空軍の施設に送られた。放射線検査により、すべて展開していなかったことが判明した:61。BAeが発行した文書には、スポイラーが全て作動しなかった場合、着陸に必要な距離は40%増加すると記載されていた。フライト・シミュレータでBAe 146がスポイラーなしでストード空港へ着陸できるかを検証した:62。シミュレータには湿った滑走路をシミュレートする機能がなかったため、滑走の前半を乾いた滑走路で、後半を濡れた滑走路でプログラムされた。シミュレーションの結果は、乾いた滑走路であれば滑走路上で停止可能であり、乾いた路面の後に湿った路面が続く場合は、停止することはできたがわずかな余裕しかなかった。濡れている場合は滑走路上で停止できなかった。スポイラー・システムの詳細な調査は、Aviation Engineeringによって行われ、2011年5月10日に調査結果が発表された:63。AIBNはスポイラーが展開しなかったという仮説からすぐに作業を開始し、レバーの機械的故障、2つのスラスト・レバー・マイクロスイッチの故障、スポイラー・システムの回路ブレーカーの切断の三つの原因の可能性を調査をした:79。マイクロスイッチは、4つのうち2つが故障するとシステムに障害が発生するが、1つだけしか故障していない場合はコクピットに警告は表示されない(潜在欠陥):99。 AIBNは、スポイラーレバー機構に機械的な欠陥があったか、4つのスラスト・レバー・マイクロスイッチのうちの2つに故障があったと信じていたが、スポイラーが起動しなかった原因に関する結論は見出せなかった。パイロットはスポイラーが展開していないという警告を受け取り、充分に減速しないことにも気付いたが、二つの問題を結び付ける代わりに車輪ブレーキを使った。パイロットは滑走路内で機体を停止できないと認識し、非常用ブレーキを起動させた。非常用ブレーキはアンチロック・ブレーキ・システムを無効化し、車輪を完全にロックする仕組みになっていた。この事故では、車輪がロックされ、滑走路表面との摩擦が増え、タイヤが急速に加熱された。溝のない湿った条件の滑走路と組み合わされたこの状況は、加熱されたゴムの熱がタイヤと滑走路との間に蒸気の層を作り、ブレーキの効果を著しく低下させ、停止するのに必要な距離を約60%増加させた:99。グルービングのない滑走路はハイドロプレーニング現象が発生するのに決定的なものだった。事故機は、オーバーラン時に15から20ノット (28から37km/h; 17から23mph)の速度が出ていたと推定される。非常用ブレーキを起動せず、最適な制動が行われていれば、機体は滑走路内で停止したと考えられた。被害の拡大は、オーバーランによるものではなく、滑走路の急な斜面によるものだった:100。 さらに、AIBNは、燃料漏れにより、火災が発生したことを発見した。機体が移動中にひどく損傷しているため、燃料漏れとおそらく電気的短絡による即時点火が発生したとみられる:100。左の内側のエンジンが、機体が停止してから5分以上高速で回転し続けたため、十分な酸素が火災に供給された。消防隊員は現場に迅速に到着したが、地形によって救助を妨げられ、火災も消火するのが難しくなってしまった:100。機体と乗員に非がなかったことも明らかにされた。当時、スポイラーの故障時の訓練やチェックリストなどは無かった:101。空港の地形や、安全性の欠如が事故を悪化させた:102。
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