予戒令の廃止
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予戒令の廃止の背景には、予戒令により規定された犯罪が他の治安立法等の法整備によって、その存在理由を失ったと考えられている。予戒令の廃止の根拠となる「予戒令廃止ノ件」(大正3年1月20日勅令第4号)の勅令案が枢密院によって審査される際に、会議録が記録されている。 その記録によると、 「 …然ルニ同令(引用者註:予戒令)実施以来治安警察法警察犯処罰令及行政執行法等ノ制定衆議院議員選挙法刑法等ノ改正アリテ… 将来必スシモ本令ヲ存置スルノ必要ヲ認メサルに至リタリ 」 —枢密院会議筆記 「予戒令廃止ノ件」 と記載がある。 「治安警察法」(明治33年1月10日法律第36号)は1900年(明治33年)2月23日に、「行政執行法」(明治33年6月2日法律第84号)は同年6月2日に、「警察犯処罰令」(明治41年9月29日内務省令第16号)は1908年(明治41年)9月29日に制定された法令であり、これらの法令の条文には、予戒令のそれとの共通点がある。 浮浪徘徊に関する規定 予戒令第2条第1号「一定ノ期間内ニ適法ノ生業ヲ求メ之ニ従事スヘキコトヲ命ス」 警察犯処罰令第1条第3号「一定ノ住居又ハ生業無クシテ諸方ニ徘徊スル者ハ〔三十日以下ノ拘留ニ処ス〕」 業務妨害に関する規定 予戒令第2条第2号「総テ他人ノ開設スル集会ニ立入リ妨害ヲ為スヘカラサルヲ命ス」 治安警察法第12条「集会又ハ多衆運動ノ場合ニ於テ故(ことさ)ラニ喧騒シ又ハ狂暴ニ渉ル者アルトキハ警察官ハ之ヲ制止シ其ノ命ニ従ハサルトキハ現場ヨリ退去セシムルコトヲ得」 行政執行法第1条「…行政官庁ハ …暴行、闘争其ノ他公共ヲ害スルノ虞アル者ニ対シ之ヲ予防スル為〔必要ナル検束ヲ為スヲ得〕」 また、同引用文中の「衆議院議員選挙法刑法等ノ改正」とは、「衆議院議員選挙法」(明治22年2月11日法律第3号)の全面改正法である「衆議院議員選挙法」(明治33年3月29日法律第73号)と旧刑法の全面改正法である現行法の「刑法」(明治40年4月24日法律第45号)を指す。予戒令と該法令との比較は以下の通り。 脅迫行為に関する規定 予戒令第2条第3号「…財物ヲ強請シ不当ノ要求ヲ為シ強テ面会ヲ求メ脅迫ニ渉ル書面ヲ用ヒ勧告書ヲ送リ又ハ…暴威ヲ示シテ他人ノ進退意見ヲ変更セシメントシ其ノ他他人ノ業務行為ヲ妨害シ又ハ妨害セントスルノ所業ヲ為スヘカラサルコトヲ命ス」 刑法第222条「生命、身体、自由、名誉又ハ財産ニ対シ害ヲ加フ可キコトヲ以テ人ヲ脅迫シタル者ハ一年以下ノ懲役ニ処ス」 刑法第223条「生命、身体、自由、名誉又ハ財産ニ対シ害ヲ加フ可キコトヲ以テ脅迫シ又ハ暴行ヲ用ヒ人ヲシテ義務ナキ事ヲ行ハシメ又ハ行フ可キ権利ヲ妨害シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ処ス」 衆議院議員選挙法第88条「左ノ各号ニ該当スル者ハ二月以上二年以下ノ軽禁錮ニ処シ五円以上百円以下ノ罰金ヲ附加ス」第一号 選挙ニ関シ選挙人ニ暴行脅迫ヲ加ヘ若ハ之ヲ拐引シタル者 第二号 選挙人ニ対シ往来ノ便ヲ妨ケ又ハ詐偽ノ手段ヲ以テ選挙権ノ行使ヲ妨害シ若ハ投票ヲ為サシメタル者 第三号 選挙ニ関シ選挙人又ハ其ノ関係アル社寺、学校、会社、組合、市町村等ニ対スル用水、小作、債権、其ノ他利害ノ関係ヲ利用シ選挙人ヲ威遍シタル者 犯罪の共同行為に関する規定 予戒令第2条第4号「人ヲ使用シテ総テ他人ノ開設スル集会ヲ妨害シ又ハ妨害セントシ又ハ他人ノ業務行為ニ干渉シテ其ノ自由ヲ妨害シ又ハ妨害セントスルノ所業ヲ為サシメ…予戒命令ヲ受ケタル者ヲ扶助シ…使用スヘカラサルコトヲ命ス」 刑法第61条「人ヲ教唆シテ犯罪ヲ実行セシメタル者ハ正犯ニ準ス」 刑法第62条「正犯ヲ幇助シタル者ハ従犯トス」 刑法第63条「従犯ノ刑ハ正犯ノ刑ニ照シテ減刑ス」 複数個の改正法の中で、特に改正刑法においては、「脅迫の罪」(改正刑法第222条、223条・旧刑法第326-329条)の非親告罪化、「強要」の規定を新たに設けたほか、「信用及び業務に対する罪」(新刑法第233条、234条・旧刑法第267-272条)では、「業務」の範囲の拡大、信用を毀損する罪の新設する点が強調される。
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