ヴォルテールの転回
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 15:08 UTC 版)
「啓蒙思想」も参照 「啓蒙主義の歴史記述」も参照 人間の理性を重視し、思考の基礎に置いた啓蒙思想が18世紀には思想の主流となると、その方法論によって歴史の再評価が施され、それらは旧来の普遍史を批判する立場を取った。ヴォルテール(1694年 - 1778年)は1751年に刊行した『ルイ十四世の世紀』にて、世界史を段階的に4つの「世紀」に分けて論述した。第1はフィリップとアレクサンダーの時代、第2はシーザーとアウグストゥスの時代、第3はメフメト2世のコンスタンチノープル陥落とその直後の時代、第4はルイ14世の世紀であり、理知が完璧に近づいた時代と定めた(序説)。この区分は、第1から第3まではそれぞれギリシア古典文化、ローマ古典文化、ルネサンスと対応しており、第4は科学革命の時代でもある。これらを区分するものは人間の「理知」とそれによって生み出された文化であり、普遍史的区分とは全く異なる文化史・精神史の出発点となるものだった。 これは、歴史を重ねる毎に進歩発展する「進歩史観」という点で普遍史と共通しているが、普遍史が神の意思による教育と発展段階と位置づけられていたのに対し、ヴォルテールの歴史叙述は理性的人間の活動によって精神・文化が進歩してゆく過程、いわば人類が世俗的世界で自己啓蒙を続け発展した道程を叙述している。 人間の理性の歴史を上のように論述したヴォルテールは、それ以前の時間について『歴史哲学』にて纏めているが、これは「理性」を以って思考し導き出したもので、旧来の普遍史的歴史観とは全く異なる。彼は、初期の人類は禽獣のような状態にあり、一日の食糧を確保するために労力を費やしていたと考える。言語が出来上がるまでには長い年月が掛かり、住居や衣服を得るのはもっと後、さらに鉄を使いこなすようになるにはとてつもない努力と歳月が必要だと想像する。文字が作られ、天文書や歴史書が編纂されるのはそれからさらに長い年月がかかる。これは普遍史の期間ではとても賄えず、例えカルデアの歴史が言う47万年も「宇宙全体からすれば微々たるもの」(10章)と言い切った。彼は原始時代を想定して、歴史記述を開始している。 さらにヴォルテールは、アメリカや中国など大航海時代に広がった世界やイスラムなど世界中を網羅し、それぞれの文明を取り上げている。特にカルデア・中国・インドを高く評価し(10章)、これらは最も古く文明を発達させた民族と述べて、普遍史にある文明の一元的発生を否定している。特に中国については、世界最古の年代記が途切れずに続いている(52章)と述べ、地球全域を覆うような大災害は中国に及ばなかった(18章)と、普遍史批判となる論述を取る。そしてユダヤ人を最も新しく発生した民族のひとつと評し(38章)、旧約聖書は単なる一民族の排他的で偏狭な宗教の経典に過ぎないと断定した。このように、彼に代表される啓蒙思想が明確に普遍史を否定した。
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