モデルの構築、提示の仕方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/17 06:31 UTC 版)
「IMRAD」の記事における「モデルの構築、提示の仕方」の解説
本節では、論文中の「考察の書き方(書かれ方)」という観点からモデル化について論じる。より一般的な観点については、Wikipediaの専門記事 数理モデル モデル (自然科学) 等を参照のこと。 特に現代の科学においては、「真理とは何か」といった哲学的で捉えどころのない問題に比べ 「どのようなモデル、式、計算コードが最も現実をよく反映するのか」という問題が圧倒的に重要な意味をもつ。そのため、現代の自然科学においては、「とりあえず」のメカニズムを考案する上で、以下のような流れでモデルを形成し、その良否を論じることが多い。 モデル化の本質は、「牛を球と仮定する」という標語が教えるように、起こっている現象から本質と無関係と思われる部分をそぎ落としたものを作り、そこに物理法則をあてはめ、現象を再構築することである。 モデルの提示方法は、大まかに、以下のように類型化される。 1つのモデルを挙げ、そのモデルが実験をよく説明していることを示す。 いくつかの対等なモデルをいくつか挙げ、それをいくつかの論点から比較し最もよく実験を説明しているものを選ぶ。 複数の論点を挙げ、それぞれの論点についてモデルを1つ / 複数挙げ、妥当性を示す / 妥当なものを選択する。 モデルの構築方法の典型的な一例を以下に示す。 直観的に考え、もっともらしい「仮のモデル」を、議論の叩き台にするために提案する。 現実と合致するようにモデル、式、計算コードを調整する(調整されてできたモデルあるいはモデルの調整法をとりあえずのメカニズムと考える)。 そのモデルが、(少なくとも考えた中では)最もよく物事を説明していることを、統計学的な見地から評価する。 モデルを調整するのに用いた実験パラメータの物理学的な意味を次元解析等を参考に解釈する。特に萌芽的な研究においては、「ある程度幅をもった実験結果でも取り込めるような体系を作り、実験でパラメータを抜き出し、外挿によって近縁の系に対して予測を立てる」という手法がよく採られる。 モデルは、いくつかの原理(物理法則や数理法則、経済法則等)から演繹的に作られる場合や、いくつかの実験法則をまぜた方法で構築される場合など様々な場合がある。実際の論文中で構築されたモデルそのものについて、例えば量子力学の古典的な論文中のモデルについては、江沢2002に外村彰の実験等を含む様々な有名な研究のモデルの核心となる部分が、演習問題として原著を引用した上で解説されている。また、初等的な微分方程式を用いたモデル化手法の解説が、例えばマルサスの人口モデル等を例にして、デビッドに記載されている。比較的簡単な数理モデルを実際にプログラムを組んで計算する方法自体については、例えば小高(C言語)山田 (VB)吉村 (Excel VBA)等多数の書籍が存在する。 より、記述的なモデル構築手法としては、曲線あてはめ(非線形最小二乗法)がある。 「データをプロットしてみること」や、「理論的な考察」から、当てはまりのよさそうな曲線を考案する。 最小二乗法等を用いて、フィッティングパラメータを調整する。 誤差の評価 次元解析などから、フィッティングパラメータの持つ物理学的な意味を考察する。 例えば自由落下する物体Aの位置xと時刻tの関係を表す式は、モデル式としてとてもよいものであろう。 x ( t ) = a t 2 + b t + c {\displaystyle x(t)=at^{2}+bt+c} (1) (1) 式において、フィッティングパラメータはa、b、cの3つの文字。当てはまりのよさそうな曲線を表す式のことを、その式の由来によって「実験式」、「理論式」と呼ぶ。を求める問題を、「運動方程式に重力の作用を仮定して式変形から、(1) 式を導き、データとのフィッティングから最適なa、b、cを求める」という方法で当てはめる場合には、(1) 式は理論式である。逆に、「データを散布図に書いてみたところ、何となく放物線の当てはまりが良さそうだということに気付き、とりあえず、(1) のような式で当てはめてみた」という場合には、(1) 式は実験式(経験式)である。なお、例えば原子間力のポテンシャルを表すレナード-ジョーンズ・ポテンシャル等は、有名な実験式であるが、この式も最近では「シュレーディンガー方程式に何らかの近似を施すことでも得られる」としている書物もあり、元々実験式だったものが、理論式になるということもある。 「曲線あてはめ」は、より一般には、変数がたくさんある場合には「曲面のあてはめ」という言い方をした方がよいだろうが、曲線の当てはめですら、10年前まではコンピュータの計算力から極めて難しく、アレニウスプロットや直線回帰などのようなきわめて限られたものしかできなかったため、統計学の文献が数多ある中、理論的な解説をしている書籍は少ないという事情もあり、一般化していない。現在ではOriginなどの主要な統計ソフトにはおおむねこの機能が搭載されているため、アレニウスプロットや直線回帰以外にもたくさんの回帰曲線が論文に現れるようになっている。
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