ピアノソナタ第32番とは? わかりやすく解説

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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調

英語表記/番号出版情報
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調Sonate für Klavier Nr.32 c-Moll Op.111作曲年: 1821-22年  出版年1823年  初版出版地/出版社Schlesinger 

作品概要

楽章・曲名 演奏時間 譜例
1 第1楽章 1.Satz Maestoso-Allegro con brio ed appassionato 8分30秒
2 第2楽章 2.Satz Arietta Adagio molto semplice [e] cantabile1800

作品解説

2009年7月 執筆者: 岡田 安樹浩

Op.110並行して1821年から22年にかけて作曲されたこのソナタは、結果としてベートーヴェン最後ピアノ・ソナタとなった
Op.109以降それまで拡大されてきたソナタ形式は、極度に凝縮圧縮されるようになり、この作品においてもその傾向顕著である。また、Op.110106では「フーガ」という形に結実した対位法試みは、ここではソナタ形式中に取り込まれた。

第1楽章 ハ短調 4分の4拍子 ソナタ形式
序奏
突然の減7度跳躍下降で始まるMaestoso序奏は、鋭い付点リズム(複付点8分音符32分音符)と2度順次下降動機によって成り立っている。また、主部突入する少し前、第12小節アウフタクトからあらわれ順次上行音型は、音価16分3漣音符に短くして主要主題要素へと変貌する。

提示部
ト音変イ音のトリル音型が主要主題導き主部(第19小節~)へ突入する。主要主題16分3連音符による急速な4度順次上行と減4度跳躍下降組み合わせ、および減7度跳躍から順次下降組み合わせといった具合に、跳躍順次進行、上行と下降という対照をなす動機組み合わせ構成される
主題確保(第29小節~)を経て推移(第35小節~)に至る。ここでは主要主題動機発展した絶え間なく動き回る16分音符の音型と8分音符主体とした音型が転回可能対位法によって進行し変イ長調到達する
変イ長調による副次主題(第50小節~)は、序奏における付点リズム連打2度順次由来している。束の間副次主題は、すぐさま減7和音分散和音によって引き裂かれ、主要主題動機による推移(第56小節~)とコーダ(第6769小節)で提示部終える。

展開部再現部
展開部(第70小節~)ではもっぱら主要主題動機扱われる。主要主題音程拡大され動機と、同じく音価拡大されトリル伴った動機が、転回可能対位法によるフガート展開されるト短調からハ短調ヘ短調へと転調し、主要主題跳躍音型が和音化され続的に繰り返されるうちに主要主題主調再現(第92小節~)へなだれ込む
副次主題が同主長調であるハ長調再現(第116小節~)された後、ヘ短調確保のような発展部分(第124小節~)を挟み、減7和音分散和音と主要主題動機による推移(だ132小節~)を経てコーダ(第145小節~)へ至る。
コーダでは、序奏中にあらわれ、主要主題動機変容した順次上行音型が和声づけされてコラール風に響きポリフォニック技法駆使した楽章ふさわしく、同主長調主和音ピカルディ終止する。

第2楽章 ハ長調 16分の9拍子 変奏曲
16小節アリエッタ主題は、反復記号によって8小節ずつ繰り返され合計32小節からなる前半の8小節ハ長調後半平行調であるイ短調転じる
第1変奏(第17小節~)では、属音ト音中心として、音型的な変奏が行われ、第2変奏(第33小節~)では拍子16分の6拍子へと変化させ、あたかもスイング思わせるような特徴的なリズムによって変奏が行われる。
第3変奏(第48小節~)は、さらに拍子32分の12拍子変化させ、主題和声的骨格分散和音化した変奏が行われる。シンコペーション・リズムや、スフォルツァンド記号によって弱拍強調されることで、オフ・ビートジャズ要素すら感じさせる。そして、これほど細かい音価緩やかなテンポ音楽において主体となるのは、ほとんど病的といっていだろう
第4変奏(第65小節~)では、拍子16分の9拍子戻り主音属音中心としたトレモロの上に、主題和声的骨格が、低音域において和音化されたかたちであらわれた後、高音域で、絶え間ない32分音符による装飾的パッセージ単音和音支え変奏へと移行するトリルの上下に主題断片あらわれ、同主短調ハ短調転じると、これが最終変奏への推移(第120小節~)を形成する
第5変奏(第131小節~)では、ふたたび主題の音型が、分散和音化され和声支えのうえにはっきりとあらわれる。そして、コーダ(第160小節~)では、主題長大トリル和音トレモロはさまれあらわれ最後に主題冒頭動機回想しながら楽曲閉じる。


ピアノソナタ第32番 (ベートーヴェン)

(ピアノソナタ第32番 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/23 20:54 UTC 版)

ソナタ作品111初版表紙

ピアノソナタ第32番(ピアノソナタだいさんじゅうにばん)ハ短調 作品111は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン1822年に完成した、作曲者最後のピアノソナタ

概要

ベートーヴェン最後のピアノソナタの作曲は、第30番作品109、第31番 作品110と並行する形で進められた。1819年頃にはスケッチに着手しており[1]1820年9月20日の書簡ではこの曲の作曲を進めている最中であることが報告されている[2]。その後、浄書開始の日付として譜面に1822年1月13日の日付が書き入れられており、この直後に全曲の完成に至ったと思われる[1]。当時のベートーヴェンは『ミサ・ソレムニス』や交響曲第9番などの大作にも取り組んでおり、これら晩年の作品群は同時に生み出されていったことになる[2]

この曲の完成をもってベートーヴェンは初期より続けてきたピアノソナタ作曲の筆を折る。この曲の後のピアノ作品には『ディアベリ変奏曲』などが続くものの、ピアノソナタが書かれることはついになかった。1822年6月5日付の書簡では次なるピアノソナタが近いうちに出来上がる旨、楽譜出版社のペータースに伝えているが、該当する作品の存在は草稿としても確認されていない[1]

楽譜は1822年にシュレジンガーから出版された。楽譜の表紙にはルドルフ大公への献辞が掲げられているが、もともとはベートーヴェンと関わりの深かったブレンターノ家のアントニー(1780年-1860年)に贈られる予定だった[2][3]。しかし、献呈先をどちらとするか両者の間で二転三転した結果、最終的にルドルフ大公へと捧げられることになった。なお、アントニーはピアノソナタ第31番の献呈先としても名前が挙がっていたものの結局同曲は無献辞で出版されており[4]、ようやく『ディアベリ変奏曲』に至って作品の献呈を受けることになる[2][注 1]

他の後期ピアノソナタと同様、この作品もフーガ的要素を含み、非常に高い演奏技術をピアノ奏者に要求する。

また、この曲はベートーヴェンの全ピアノソナタのうち唯一強弱記号としてメゾピアノを使用している曲である[5]

演奏時間

第1楽章が約9分、第2楽章が約15分である[注 2]

楽曲構成

曲はアレグロ対位法的書法を駆使した情熱的なハ短調のソナタ形式と、アダージョで美しいハ長調変奏曲という、ベートーヴェンが後期ピアノソナタにおいて体現してきたすべての要素を凝縮したかのような対照的な2楽章からなる[1][6][注 3]

第1楽章

第1楽章冒頭部の作曲者自筆譜。ボンベートーヴェン・ハウス蔵。
Maestoso - Allegro con brio ed appassionato ハ短調

ソナタ形式。序奏を持ち、フーガ的要素を含む。悲愴ソナタ運命交響曲などベートーヴェンのハ短調で書かれた他の作品と同じく、荒々しく熱情的な楽想を持つ。また、減七の和音を多く含む。第1楽章の冒頭、第1小節全体に広がる減七の和音はその一例である(譜例1)。

譜例1


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key c \minor \time 4/4 \tempo "Maestoso." \partial 32
    <<
     {
      \override DynamicLineSpanner #'staff-padding = #1.8
      \override DynamicLineSpanner #'Y-extent = #'(-1.0 . 1.0)
      \override TextScript #'Y-extent = #'(-1.5 . 1.5)
       b'32\rest b8\rest b16.\rest <es c a es>32\f <es~ c~ a~ es~>4\sf <es c a es>8.. <c a>32 c8.^\trill\sf\> b32 c\!
       b8\p b\rest <c g es> b\rest \grace { d,64[ g b!] } <d g, d>8\f b\rest
     }
     \\
      { s32 s2. a4 g8 }
     >>
    }
   \new Staff { \key c \minor \time 4/4 \clef bass
    <es es,>32\f <fis, fis,>8.. <fis, fis,>32 <fis'~ fis,~>4 <fis fis,>8.. <es' fis,>32 <es fis,>4
    <d g,>8 r <c g c,> r \grace { b,,64\sustainOn ^\cresc [ d\! g b d g b] s32. } <b,! b,!>8 r
   }
  >>
 }

序奏は低音からのクレッシェンドにより主部へと接続される。第1主題は強奏により威圧的に提示され(譜例2)、まもなく対位法的に扱われていく。

譜例2


 \relative c' \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key c \minor \time 4/4 \partial 8 \clef bass
  <<
   { \times 2/3 { g,16^\ff a b } c4-. es-. b4.^\sf\fermata \times 2/3 { g16 a b } c4-. es-. b4.^\sf aes'!8-. g-. f-. es-. d-. es16 f es d c8 }
  \\
   { \times 2/3 { g,16 a b } c4-. es-. b4.\fermata \times 2/3 { g16 a b } c4-. es-. b4. aes'!8-. g-. f-. es-. d-. es16 f es d c8 }
  >>
 }

第2主題は変イ長調で現れるが、たちまち細かい音の流れに融解していく(譜例3)。

譜例3


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key aes \major \time 4/4
    r4 es''2\sf\>( c8. aes16) aes4\p g8[ r16 f] f4( es8) r16 <des' g, des>
    <des g, des>4 <c~ aes~ c,~>
    \times 8/12 { <c aes c,>32_\markup { \italic { Meno allegro } }([ es d es f es b c b c des c]) }
    \times 4/6 { g16([ aes bes aes g aes]) }
   }
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key aes \major \time 4/4 \clef bass
    <es,, es,>4\sustainOn r4 r r8. << <es' c es,>16 { s32 s32\sustainOff } >>
    <des bes es,>4. r16 <c aes es> <c aes es>4 <bes g es>8[ r16 <bes g es>] <bes g es>4 <c aes es> r2
   }
  >>
 }

第2主題のもたらす静寂は長くは続かず、第1主題に基づくコデッタに取って代わられると反復記号によって提示部を繰り返す。展開部では第1主題をフーガ風に扱っていくが、規模はさほど大きなものではない[3]。4オクターヴユニゾンが強烈に譜例2を奏して再現部となり、続いて第2主題はハ長調となって現れる。第2主題がヘ短調となって低音部で繰り返され、結尾句を経るとコーダとなる。コーダは短いながらも、ディミヌエンドしてハ長調で終止し、第2楽章の変奏曲に溶け込むように巧妙に作られている。

第2楽章

第2楽章冒頭部、楽譜出版者のモーリス・シュレジンガーによる写譜。1823年。
Arietta. Adagio molto, semplice e cantabile ハ長調

(厳格)変奏曲。16小節の主題とそれに基づく5つの変奏からなり[3]、転調を伴う短い間奏とコーダを持つ。16分の9拍子の下、譜例4に示される深みのある主題が穏やかに歌われる[9]

譜例4[注 4]


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key c \major \time 9/16 \tempo "Adagio molto semplice e cantabile." \partial 8.
    <<
     { c'8\p( g16) g4. d'8( g,16) g4. g8. g([ e' c]) c[ b b] c\<([ e g]) g\>([ f d8 c16\!]) b8.([ c d8 g,16]) g4. }
    \\
     { e8. e([ f d]) d([ e f]) s e[ g] e[ d <g d>] g4. g8. a4. a8 <a d,>16 <g d>8.[ <g c,> <g d>8 d16~] d8 }
    >>
   }
   \new Staff { \key c \major \time 9/16 \clef bass
    <<
     {
      <g,, c,>8. <g c,>[ <g d> <g b,>] <g b,>[ <g c,> <g d>] <g e>[ <g c,> <g e>] g,[ g' g8( f16]
      <e e,>4.) <e e,>8. <d d,>4. <f f,>8 <fis fis,>16 g8.([ a b8) b16~] b8
     }
    \\
     { s8. | s4. s8. | s4. s8. | s4. s8. | g,4.~ g8[ f16] | s4. s8. | s4. s8. | g4. }
    >>
   }
  >>
 }

第1変奏では旋律に一定の律動が伴われ、以後、第3変奏にかけてこの律動が漸次細分化される。下記に第1変奏(譜例5)、第2変奏(譜例6)、第3変奏(譜例7)の冒頭部分を示す。

譜例5


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key c \major \time 9/16 \partial 8.
    c'8_\markup \italic dolce ( e,16 a8 e16 g8 f16 d'8 d,16 g8_\markup { \italic { sempre legato } }  d16 f8 e16 g8 f16)
    a8( g16 e'8 e,16 c'8 e,16) <c' es,>8( <b d,>16 <a c,>8 <g b,>16 <a c,>8 <b d,>16)
   }
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key c \major \time 9/16 \clef bass
    e,,16 c g'~ g( cis, g'~ g d g~ g ais, g'~ g b, g'~ g c,! g' e d g~) g( dis e g c, g'~ g e g~ g fis, g'~ g g, g'~ g f, g')
   }
  >>
 }

譜例6


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff = "up" { \key c \major \time 6/16 \partial 8. \tempo "L'istesso tempo."
    <<
     {
      \set subdivideBeams = ##t \set baseMoment = #(ly:make-moment 6 32)
      b'8*3/2\rest e16_\markup { \italic { mano sinistra } }[( c32 b16 c32] d16 b32 ais16 b32) b8*3/2\rest 
      \change Staff = "down" f,16([ d32 cis16 d32] \change Staff = "up" g'16[ e32 dis16 e32] g16[ e32 g16 f32] a16[ fis32 a16 g32])
     }
    \\
     {
      \set subdivideBeams = ##t \set baseMoment = #(ly:make-moment 6 32)
      s8. g16[ e32 d16 e32] f16[ d32 cis16 d32] }
    >>
   }
   \new Staff = "down" { \key c \major \time 9/16 \clef bass
    \set subdivideBeams = ##t \set baseMoment = #(ly:make-moment 6 32)
     c16_\markup \italic dolce g32 fis16 g32 g16*3/2[ g~] g[ g] d16( g,32 fis16 g32) \voiceTwo a16*3/2([ b~] b[ c] cis[ d] dis[ e])
    }
  >>
 }

譜例7


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff = "up" { \key c \major \time 12/32 \partial 8. \tempo "L'istesso tempo."
    \set subdivideBeams = ##t \set baseMoment = #(ly:make-moment 6 64)
    c''32\f([ g64 e32 c64] g32[ e64 c32 g64])
    \set baseMoment = #(ly:make-moment 12 64)
    \cadenzaOn
    <g'~ e~>32*3/2[ <g e>32 <g~ e~>64 <g~ e~>32*3/2 <g e>32 <g e>64] <g~ f~>32*3/2[ <g f>32 <g~ f~>64 <g~ f~>32*3/2 <g f>32 <g f>64]
    \set subdivideBeams = ##t \set baseMoment = #(ly:make-moment 18 64)
    f''32([ d64 b32 g64 f32 d64 b32 g64]) \bar "|"
    }
    \new Staff = "down" { \key c \major \time 12/32 \clef bass
     \set baseMoment = #(ly:make-moment 36 64)
      r8*3/2 c,,,32([ e64 g32 c64 e32 g64 b32 c64])
     \set baseMoment = #(ly:make-moment 18 64)
      d,,32([ g64 b32 d64 g32 b64 cis32 d64]) r8*3/2 } \bar "|"
  >>
 }

第4変奏(譜例8)になると、32分音符の三連音による律動が低音部及び高音部に出現するが、この律動は非常に重要で、その後の楽曲全体を支配する。第4変奏末尾には間奏部が付されている[10]。長いトリルを伴って主題の断片が現れ、一度ハ短調に転ずると最弱音から息の長いクレッシェンドを形成しつつ第5変奏へと接続される[11]

譜例8


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff { \key c \major \time 9/16 \partial 8. \clef bass
    <c e,>16\pp <c~ g~ e~> <c g e> r <g~ f~ d~ b~> <g f d b> r <g~ f~ d~ b~> <g f d b> r <d'~ b~ g~ f~> <d b g f>
   }
    \new Staff { \key c \major \time 9/16 \clef bass
     c,,32*2/3[ g' c, g' c, g' c, g' c,] g'[ c, g' c, g' c, g' c, g'] c,[ g' c, g' c, g' c, g' c,] g'[ c, g' c, g' c, g' c, g']
   }
  >>
 }

最終(第5)変奏より、主題が律動の上に出現する(譜例9)。再び姿を現した主題は名残を惜しむかのように、拡大されて歌われていく[10]

譜例9


 \relative c' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key c \major \time 9/16 \partial 8.
    <<
     { c'8( g16) g4. d'8( g,16) g4. }
    \\
     { <e c>16 <e c> <e c> e d e f e f d c d d e d }
    >>
   }
    \new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key c \major \time 9/16 \clef bass
     g,,32*2/3[ c, e g c e c e g] c,[ e g b, d g c, e g] d[ f g c, e g d f g] b,[ d g a, c g' b, d g] b,[ d g c, e g b, d g]
    }
  >>
 }

最後は高音域のトリルを伴いながら主題が回顧され、ハ長調の響きの中、楽曲は静寂のうちに幕を閉じる。

評価

2楽章という際立った対比について、「輪廻解脱」(ハンス・フォン・ビューロー)、「此岸彼岸」(エトヴィン・フィッシャー)、「抵抗と服従」(ヴィルヘルム・フォン・レンツ)など、過去にも様々な形容がなされてきた[12]。ベートーヴェン自身は曲が2つの楽章で終わることについて伝記作家アントン・シンドラーに問われた際、ただ「時間が足りなかったので」とのみ述べたとされる[1][13]。一方で、トーマス・マンは小説『ファウストゥス博士』の中で作中人物の言葉として「戻ることのない終わり[注 5]」「ソナタという形式との決別[注 6]」とし[12][14]、2楽章が遥かな高みに至るのを聴くとき、聴衆はこのピアノソナタがこれ以上の楽章を必要としないことを自ずと悟るのである、と表現している[1][12]

試聴

脚注

注釈

  1. ^ アントニーの娘、マキシミリアーネはピアノソナタ第30番の献呈を受けている[2]
  2. ^ 現在、CDで聴ける最短の演奏は、イヴォンヌ・ルフェビュール 第1楽章:6'21"/第2楽章:10'50"(録音:1961年7月6日 INA COUP 009)が、最長の演奏は、アナトール・ウゴルスキ 第1楽章:11'12"/第2楽章:26'54"(録音:1991-92年 DG 435 881-2)が、それぞれ挙げられる。
  3. ^ スケッチを見ると、当初は3楽章制のソナタが構想されていたと考えられる[7]。この段階では変イ長調の緩徐楽章とプレストのフィナーレの冒頭が記され、20年ほど前の着想にさかのぼる後者は最終的に第1楽章の第1主題に使われた[8]
  4. ^ 5小節目、下段譜表低声部のト音には次の小節のホ音へのスラーがかかる。
  5. ^ 英文では"an end without any return"
  6. ^ 英文では"the farewell of the sonata form"

出典

  1. ^ a b c d e f 大木 1980, p. 404.
  2. ^ a b c d e 大木 1980, p. 398.
  3. ^ a b c 大木 1980, p. 405.
  4. ^ 大木 1980, p. 401.
  5. ^ 今井顕. “ベートーヴェンの強弱法 ―パウル・バドゥーラースコダ教授による公開講座:報告と注釈―” (PDF). 国立音楽大学音楽研究所年報. 2021年5月31日閲覧。
  6. ^ BEETHOVEN, L. van: Piano Sonatas Nos. 30-32, Opp. 109-111”. Naxos. 2015年2月1日閲覧。
  7. ^ ヨーアヒム・カイザー 著、門馬直美、鈴木威 訳『ベートーヴェン32のソナタと演奏家たち(下)』春秋社、1996年、279頁。 
  8. ^ Donat, Misha (2019). “Introduction”. (Score) Sonata in C minor for pianoforte, op. 111. Bärenreiter. p. III 
  9. ^ 大木 1980, p. 406.
  10. ^ a b 大木 1980, p. 407.
  11. ^ Beethoven, Piano Sonata No.32” (PDF). Breitkopf & Härtel. 2015年2月1日閲覧。
  12. ^ a b c Beethoven: The Last Three Piano Sonatas”. Hyperion Records. 2015年2月1日閲覧。
  13. ^ Boucourechliev A, Beethoven, Seuil, 1994, p. 93
  14. ^ Mann, Thomas. Doctor Faustus translated by H.T. Lowe-Porter. London: Penguin. p. 57. ISBN 0-14-018141-5 

参考文献

外部リンク


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