注文 注文の概要

注文

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/20 07:39 UTC 版)

人名や物品の種類・数量を一つ書き形式で記したもの。

概要

主に依頼を受けて物事を調査する際に控えもしくは明細などの副進文書として作成されるもので、注進状と違い正式に提出されることを前提にした文書ではない。

中世に発達し、人名を記した「交名注文」や調達すべき物資の明細を記した「支度注文」、合戦時に負傷した者や負傷の状況を記した「合戦手負注文」、討ち取った敵の首について記した「分捕頸注文」などがあった。

文献的には軍記物である『源平盛衰記』27巻(14世紀)に「おのおの聞書きの注文に~」と記され、確認される。

注文による研究

軍事

「合戦手負注文」の研究によって、中世当時の戦傷率が解明でき、南北朝14世紀)の合戦においては、7 - 8割が弓矢による負傷とわかっている[1][2]。全31頭の軍馬の戦傷も記録されているが、その内、61%は矢、白兵戦による切り傷は35%、刺し傷は3%となっており、こちらも矢による負傷率が高い。一方、致死率は矢の場合は低く、太刀・薙刀による切り傷や槍による刺し傷は高くなっている[3]

また、後世の軍忠状との比較によって、鉄砲登場後の戦傷率の変化もわかり、永禄6年から慶長5年の間(1563年 - 1600年)の軍忠状による分析では、鉄砲による負傷が45%、弓矢・(つぶて)が27%、は28%[4]と、注文の記述は合戦での武器の主流の変化の解明に貢献している。

しかし、受け身側のみの記録であり、死因はほとんど不明で、特に攻撃側の状況に関しては一切不明である。そのため戦闘法の変化などを解明するのには不完全であり、攻撃側の状況を把握する必要がある[5]。また記録対象は士分以上に限られ、雑兵や足軽、軍夫は対象外であること、亡国敗軍側は基本的に合戦手負注文や軍忠状を作成しない[6]など記録内容に偏りがある。

「首取り注文」に関しては、鎌倉終期から南北朝期(14世紀)にかけての『毛利家文書』を調べた本郷和人によれば、そのほとんどが「首一つ○○(人名、誰々が取った)」とあり、「首二つ○○」といった注文は稀であり、例外中の例外としており[7]、それが14世紀の実態であったと個人的な見解を述べている。ただし、中世における首級は数ではなく、誰を討ち取ったかを重視した点や頭部と兜の重さ(合わせて10kgは軽く超える)を考慮すれば、多く運べたとは考えにくい。戦国時代になり、首級の代わりとして鼻級が登場したのも運びやすいためである[8][9]

軍事以外

中世において、何らかの理由で家財道具を差し押さえられた場合、差し押さえた側がどういったものを差し押さえるかを検討し、目録として記した文書、または、差し押さえられた側が不当に感じて、どういったものを差し押さえられたかを書いた文書を、「雑物注文」、「色々物注文」という[10]。一種の財産目録であり、時代時代の変化を研究できるが、近畿周辺のものが残り、東国九州にはほとんど見られない[11]平安末期から鎌倉初期(12世紀末)では、烏帽子なども記されている[12]。鎌倉末期から室町初期(14世紀)では、注文から若狭国で女性名主が多いことなどがわかっている[13]。この時代となると農具・武具が多様化している[14]網野善彦が注目している点として、が記述されていることであり、庶民の常食としての位置が確認できる資料である[15]。また14世紀中頃の百姓の注文の中には、太刀はないが、が現れている一方、女性名主の注文の方には武具が無く、この時期に(少なくとも近畿圏の)女性の武装が無くなった可能性が示唆されている[16]

近代の商業

注文は、後には動詞化して、特定の物品の調達を依頼する(結果として依頼した相手によって依頼に関する注文を作成される)ことを「注文する」と言うようになった。近代の商取引では、物品の調達を依頼する一般用語として用いられる。なお、注文を出すことを「発注(はっちゅう)する」、注文を受けることを「受注(じゅちゅう)する」という。

『広辞苑』(岩波書店)には、「注文生産」や「注文帳」の項目がある。


  1. ^ 近藤好和『中世的武具の成立と武士』吉川弘文館 
  2. ^ 鈴木眞哉『謎とき日本合戦史 日本人はどう戦ってきたか』講談社 
  3. ^ トマス・D・コンラン『図説 戦国時代 武器・防具・戦術百科』原書房、80頁。 
  4. ^ 鈴木眞哉『鉄砲と日本人』洋泉社 
  5. ^ 近藤好和『騎兵と歩兵の中世史』吉川弘文館、99-100頁。 
  6. ^ 笹間良彦『図説 日本戦陣作法辞典』柏木書房、280頁。 
  7. ^ 本郷和人『軍事の日本史 鎌倉・南北朝・室町・戦国時代のリアル』〈朝日新書〉2018年、31頁。 
  8. ^ 『訓閲集』
  9. ^ 山口博『日本人の給与明細』〈角川ソフィア文庫〉2015年、192頁。 
  10. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、73頁。 
  11. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、100頁。 
  12. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、74頁。 
  13. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、82頁。 
  14. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、82,85頁。 
  15. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、85頁。 
  16. ^ 網野善彦『中世再考 列島の地域と社会』〈講談社学術文庫〉2000年、85-86頁。 


「注文」の続きの解説一覧




注文と同じ種類の言葉


品詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

「注文」に関係したコラム

  • ETFの売買注文の種類

    ETFの売買注文の種類には次のようなものがあります。▼成行注文成行注文は、証券会社の提示する価格で売り注文、あるいは、買い注文をすることです。価格は常に変動しているため、実際に成立する価格は証券会社の...

  • 株365の注文方法

    株365では、投資家が有利に取引できるように次のような注文方法が用意されています。▼成行注文価格を指定しないで、相場の価格に従って注文を出す方法です。成行注文ではすぐに約定したい時に用います。相場が大...

  • FXのOCOでの注文方法

    FX(外国為替証拠金取引)のOCOとは、新規注文時、あるいは、決済注文時に2つの価格を指定して注文する方法のことです。OCOは、one cancels the otherの略です。新規注文でのOCOは...

  • CFDの注文方法の種類

    CFDにはさまざまな注文方法があります。相場の動きや投資スタイルにより使い分けることで、有利な取引が可能になります。▼成行注文価格を指定しないで注文を行います。だいたいCFD業者の提示する価格かそれに...

  • 株式の売買注文の種類

    株式の売買注文の方法にはさまざまな種類があります。どのような注文方法があるのかを知ることで、投資家に有利な注文をすることも可能です。ここでは、株式の売買注文の種類を紹介します。▼成行注文株価を指定しな...

  • 株式の成行注文と指値注文の使い分け方

    株式の注文方法はさまざまな種類があります。その中でも、成行注文と指値注文はよく使われる注文方法です。この2つの注文方法をうまく使い分けることによって、効率の良い株式投資ができます。ここでは、株式の成行...

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「注文」の関連用語

注文のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



注文のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの注文 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS