ひなんじゅんび‐じょうほう〔‐ジヤウホウ〕【避難準備情報】
高齢者等避難
(避難準備情報 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/28 17:09 UTC 版)
名称 | 概略 |
---|---|
緊急安全確保 | 命の危険があり直ちに安全確保をするべき |
避難指示 | 危険な場所から全員避難するべき |
高齢者等避難 | 危険な場所から高齢者等は避難するべき |
注:概略は、警戒レベルの周知・普及啓発用一覧表における「住民がとるべき行動」による[1]。留意点として、警戒レベルは水害・土砂災害・高潮に紐づいているが、避難情報はそれ以外の危険も対象としている。 |
高齢者等避難(こうれいしゃとうひなん)とは、日本において、市区町村[注釈 1]が発令する避難を呼びかける情報のひとつ。災害が発生するおそれがあるとき発令される。避難に時間がかかったりひとりで避難できなかったりする高齢者・障害者・乳幼児などの避難行動要支援者、およびその支援者らに対して、危険な場所から避難することを呼びかけるもの[2][3]。
水害・土砂災害・高潮に導入されている警戒レベルではレベル3の情報(“危険な場所から高齢者等は避難”)に位置付けられている[2]。
災害対策基本法に基づく。避難に関する情報として、上位には避難指示や緊急安全確保がある[2]。
情報名は、2005年から2016年12月まで「避難準備情報」、2016年12月から2021年5月まで「避難準備・高齢者等避難開始」だった[4]。
解説
災害発生のおそれがあるとき、市区町村長が対象地域の住民らに対して発令する。「高齢者等避難」の根拠となっている法令は災害対策基本法第56条第2項の以下の規定[5]。ただし、法令に直接「高齢者等避難」と明記されているわけではなく、内閣府のガイドラインにより情報名が定められている。
第五十六条 (前略)市町村長は、住民その他関係のある公私の団体に対し、予想される災害の事態及びこれに対してとるべき避難のための立退きの準備その他の措置について、必要な通知又は警告をすることができる。
2 市町村長は、前項の規定により必要な通知又は警告をするに当たっては、要配慮者に対して、その円滑かつ迅速な避難の確保が図られるよう必要な情報の提供その他の必要な配慮をするものとする。 — 災害対策基本法[5](令和3年5月10日改正)
名称 | 内閣府ガイドラインにおける適用開始 |
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避難準備情報 | 2005年から |
避難準備・高齢者等避難開始 | 2016年12月26日から |
高齢者等避難 | 2021年5月20日から |
経緯
2004年(平成16年)に新潟・福島豪雨などの風水害により高齢者の被害が相次いだことから、2005年(平成17年)に内閣府のガイドラインで「避難準備情報」として制定され、同年6月28日に新潟県の三条市と長岡市で初めて適用された。これにより、避難情報は3段階となる。なおこの時点では法律に明記がなく、各市町村が採用することで順次広がっていった。2013年6月の災害対策基本法改正で初めて明記されている[6][4]。
しかし、2016年(平成28年)の台風10号で高齢者施設の入居者が犠牲になったことで、「避難準備」では呼びかけの意図が伝わりにくいことが問題視された。高齢者等は避難を開始する段階であることを明確にするために、同年12月26日より「避難準備・高齢者等避難開始」に名称が変更された[4][7][8]。
この間、警戒レベルおよび「災害発生情報」の導入で2019年からは避難情報が4種類に増える反面、分かりにくさも指摘されていた[4][9][8]。
さらに、2021年(令和3年)5月20日からは名称を「高齢者等避難」に改めている。避難行動の対象者をより明確にすることが理由で、避難勧告の廃止を含む改正災害対策基本法施行に合わせて行われた。これにより避難情報は下位から順に「高齢者等避難」「避難指示」「緊急安全確保」の3種類となった[10][9][11]。
位置付け
「高齢者等避難」が指す「高齢者等」は、避難に時間を要したり独力で避難できなかったりする、在宅または施設を利用している高齢者、障害のある人などで、それに加えてその人達の避難を支援する人も含む[12]。 避難行動要支援者が利用する介護施設など、また不特定多数が利用する地下街のような施設では、平時から避難計画を作成することが定められていて(根拠法は介護保険法、水防法、土砂災害防止法、津波防災地域づくりに関する法律など)、基本的にはこれに基づいて避難が行われる[13]。
「人的被害が発生するおそれ」という不確実な段階で地域の人々の避難準備をさせる、すなわち災害が発生しない可能性も内在しながら、人々の生命を優先させるために発令することに意義がある。なお、この情報が発令されたとしても、事業所の活動や商店などの営業は可能となっている。
情報名は「避難指示」に合わせた「高齢者等避難指示」ではない。高齢者等避難は早い段階で空振りを恐れず発令するため発表の頻度が高く、頻繁に避難を行うことが負担となる高齢者等がいることから、拘束力の強い「指示」は用いなかったという[5]。
火山災害では、「噴火警報(居住地域)」(特別警報に該当する)の発表が高齢者等避難の段階である。なお、噴火警戒レベル導入火山ではレベル4にあたる[14]。この名称もかつては「避難準備」だった。
周知
テレビやWebサイト等による伝達の際、ガイドラインではISO 22324等を参考に危険度をカラーレベルで表現することが望ましいとされている。2019年に警戒レベルが導入されるとこれに合わせる形で変更された。現在高齢者等避難は赤系統 (RGB(255, 40, 0))。一例として2021年5月時点で、NHKのテレビ放送では同じ色[15]、Yahoo! JAPANの避難情報のページでは 赤系統の近似色 [16](※高齢者等避難に改称前は 黄色系統[17])を使用している。
内閣府による多言語周知の資料では、高齢者等避難の英称は"Evacuation of the Elderly, Etc."[18]。
基準
市町村が各々の事情に応じて基準を設定する。その目安になっている内閣府のガイドラインの最新のもの(2021年5月改訂・2022年9月更新)[19]の発令基準例から、主なものを以下に挙げる。
- 水害
-
土砂災害
- 大雨警報(土砂災害)が発表された場合や、危険度分布「警戒(赤)」の場合、過去の事例に基づく雨量基準などで早期避難を開始すべき水準に達した場合など。また、大雨注意報発表中の夕刻の段階で夜から早朝の間に大雨警報への切り替えの可能性がある場合[21]。
- 高潮
- ※なお風水害では、台風等で避難が難しくなる暴風が予想される場合は風の弱い段階で、夜間から明け方に強い降雨が予想される場合は夕方の時点での発令を検討する[22]。
- 津波
高齢者等避難の発令で行うべきこと
「高齢者等避難」が発令されたときには、避難に時間がかかる高齢者、障害者、乳幼児などは、支援者とともに、安全な場所へ避難を始めるべきとされている[24]。
高齢者等以外の人々においても、特に土砂災害や洪水・浸水の危険性が高いところではこの段階から自主的に避難するのが望ましい場合がある。そうでない場合も、水害・土砂災害・高潮の場合は警戒レベル3であり、いつも通りの行動を見直し始める契機としたり、すぐに避難できるような準備を行ったりするべきとされている[1][24]
脚注
注釈
出典
- ^ a b 『避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月)』内閣府、2022年9月 。2025年4月19日閲覧。
- ^ a b c 内閣府 2022a, pp. 8–18, 22–36
- ^ 「高齢者等避難」『デジタル大辞泉』小学館 。コトバンクより2025年4月28日閲覧。
- ^ a b c d 牛山素行「特集 災害時の「避難」を考える -プロローグ 避難勧告等ガイドラインの変遷-」『災害情報』第18巻第2号、日本災害情報学会、2020年7月、doi:10.24709/jasdis.18.2_115。
- ^ a b c 内閣府 2022a, p. 23.
- ^ 饒村曜「避難準備情報」『知恵蔵』朝日新聞出版 。コトバンクより2025年4月28日閲覧。
- ^ 「避難準備情報の名称変更 「高齢者等」追加」『日本経済新聞』2016年12月26日。2017年1月23日閲覧。
- ^ a b 内閣府 2022a, p. 31.
- ^ a b “災害時の「避難勧告」廃止、「避難指示」に一本化…違い分かりにくく”. 読売新聞オンライン (2021年5月10日). 2021年5月10日閲覧。
- ^ 内閣府 2022a, pp. 26–28, 31.
- ^ “「避難勧告」廃止し「避難指示」に一本化 法律改正案可決 成立”. NHKニュース (2021年4月28日). 2021年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月7日閲覧。
- ^ 内閣府 2022a, p. 12.
- ^ 内閣府 2022a, pp. 12, 115.
- ^ 「噴火警報・予報の説明」、気象庁、2023年1月14日閲覧
- ^ “5段階の大雨警戒レベル|災害 その時どうする|災害列島 命を守る情報サイト|NHK NEWS WEB”. 日本放送協会. 2021年4月20日閲覧。
- ^ 「天気・災害トップ > 避難情報」、Yahoo! JAPAN、2021年5月23日閲覧〈Wayback Machineによる同日時点のアーカイブ〉
- ^ 「天気・災害トップ > 避難情報」、Yahoo! JAPAN、2021年4月22日閲覧〈Wayback Machineによる同日時点のアーカイブ〉
- ^ 新たな避難情報に関するポスター・チラシ〈英語版〉 (PDF) - 内閣府「防災情報のページ」
- ^ 内閣府 2022a.
- ^ 内閣府 2022a, pp. 63, 68, 73.
- ^ 内閣府 2022a, pp. 85–86.
- ^ a b 内閣府 2022a, p. 93.
- ^ 内閣府 2022a, p. 98.
- ^ a b 『避難はいつ、どこに?』首相官邸 。2025年4月19日閲覧。
参考文献
- 『避難情報に関するガイドラインの改定(本文)(令和3年5月改定、令和4年9月更新)』(pdf)内閣府、2022年9月 。
関連項目
- 避難指示・緊急安全確保 - 市町村が発令する避難情報
- 特別警報・警報・注意報 - 自然災害発生のおそれがあるとき気象庁が発表する情報
- 避難行動要支援者 - 避難に支援が必要な高齢者、障害、乳幼児など
- 個別避難計画 - 避難行動要支援者の避難支援のために市町村が作成する計画
- タイムライン (防災) - 個人・組織が防災行動を時系列的に計画するもの
外部リンク
- 避難はいつ、どこに? - 首相官邸
避難準備情報と同じ種類の言葉
- 避難準備情報のページへのリンク