莢膜とは? わかりやすく解説

きょう‐まく〔ケフ‐〕【×莢膜】

読み方:きょうまく

一部細菌細胞壁外側にある層。細菌分泌する多糖類ポリペプチドからなり白血球などの食細胞から細菌本体を守る役割を担う。免疫反応引き起こす抗原性がある。カプセル


莢膜 [Capsule]

 ある種細菌細胞壁外側に光を屈折する透明な粘液質またはゼリー状の膜をもっている場合がある。多く多糖であるがペプチド場合もある。その発育良く外周との境界明瞭なものを莢膜といい、境界不明瞭なものを粘液層(粘層)あるいはエンベロープという。一般的に呼吸器感染症をおこす細菌ほど莢膜をもつ傾向があり、とくに臨床的に分離されたばかり細菌では、厚くて丈夫な莢膜をもっている。また、培地上で何回植え継いでゆくと莢膜ができなくなるが、増殖良くなる。莢膜をもたなくなった変異株知られているが、動物組織中へ移植すると莢膜をもつようになる場合もある。細菌は莢膜をもつことによって、宿主食細胞(マクロファージ)に認識されにくくなり、そのために貪食作用を受けにくくなる。 また、食細胞貪食されても、莢膜によって食細胞殺菌酵素作用から細菌自身を守ることができるので、それだけ食細胞の中で長く生き延びて病気をおこす能力強く保たれるまた、莢膜多糖耐熱性種々の莢膜抗原(K抗原)として知られ細菌血清学的な型分類(血清型)に有用である。肺炎連鎖球菌(肺炎双球菌)はその典型的な例である。
 なお、連鎖球菌のMタンパク質チフス菌Vi抗原のような場合には、それらの細菌外膜微小莢膜(micro-capsule)とよぶこともある。莢膜をもつ細菌としては肺炎連鎖球菌肺炎桿菌(フリードレンデル桿菌)、炭疽菌インフルエンザ菌髄膜炎菌百日咳菌ブドウ球菌緑膿菌などが知られている。莢膜を染色観察する方法には、一般にヒス法が用いられ、莢膜は薄赤色菌体は濃赤色に染まる。

莢膜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/16 21:48 UTC 版)

原核細胞の構造。Capsule:莢膜en:Cell wall:細胞壁en:Plasma membrane:細胞膜en:Cytoplasm:細胞質en:Ribosomes:リボソームen:Plasmid:プラスミドPili:線毛Bacterial flagellum:真正細菌鞭毛en:Nucleoid( en: Circular DNA):核様体 この図はグラム陽性菌を表しているので、「外膜」はない。

莢膜(きょうまく、capsule)は、一部の真正細菌が持つ、細胞壁の外側に位置する被膜状の構造物。細菌が分泌したゲル状の粘質物が、細胞表面にほぼ均一な厚さで層を成したものである。白血球による食作用などの宿主の免疫機構によって排除されることを回避する役割を持ち、病原菌病原性に関与している。

概要

莢膜および類似の構造物
1. 莢膜: ほぼ均一な厚みで周囲との境界が明瞭。
2. 粘液層: 不定形で境界不明瞭。
3. バイオフィルム: 物体表面に層を形成し、複数の菌が内部で生存。

莢膜は、ドイツ語のKapsel(カプセルと同語。英語のcapsule)に対する訳語である。「膜」という名称が付いているが、細胞膜核膜などのような細胞組織学的な膜(脂質二重膜)ではなく、高分子からなるゲル状の粘質物が菌体表面にほぼ均一な厚さで付着して出来た層状の部分である。細菌によっては、この層の部分と菌の周囲との境界線が明瞭になり、光学顕微鏡下で、あたかも菌体の周囲にもう一層の膜を持っているように見えるものがあり、このような場合、この層状の部分を莢膜と呼ぶ。一方、菌によっては分泌された粘質物と周囲の境界が不明瞭で、形状も一定でないものがあり、このような場合には粘液層(slime layer)と呼ばれるが、形態上の違いを除けば、本質的にはほぼ同様のものである。また、これらと類似したものとして、他にバイオフィルムが知られている。分泌した大量の粘質物によって複数の菌体を覆い包み、また物体の表面に強く付着して、増殖生存のための「場」を作り上げたものである。

莢膜は一部の細菌だけが作り出す構造物であり、菌種あるいは菌株によってそれを産生するかどうかが異なる。すなわち、同種の菌であっても莢膜を作る菌株と、作らない菌株とが存在する。また、同じ莢膜を作る菌株であっても、培養や生育の条件によっては莢膜を形成しない場合がある。一般に病原細菌の場合、動物に感染したときには莢膜を形成するが、そこから分離して純粋培養すると形成しなくなることは珍しくない。また、培養した菌に熱処理などを行うと、大部分の莢膜は比較的容易に分解され、内部の菌体が露出する。このことは細菌の抗原型を決定する際(後述)に利用されるが、大腸菌のA型莢膜のように耐熱性の莢膜も一部には存在する。

莢膜の厚さは菌種によってさまざまであり、光学顕微鏡下での観察が可能な厚いもの(〜1 µm程度)から、電子顕微鏡でないと観察できない薄いもの(マイクロカプセル)までが知られている。

構成成分

莢膜は、菌体によって分泌された親水性の高い高分子で構成される。ほとんどの菌の場合、多糖類から構成されるが、炭疽菌に代表されるバシラス属細菌はポリペプチドからなる莢膜を持つ。多糖類からなる莢膜では、ウロン酸グルクロン酸など、菌体や細胞壁には含まれない糖類を含むものも多い。代表的なものとして、肺炎桿菌腸内細菌科クレブシエラ属)のグルクロン酸莢膜、化膿レンサ球菌ヒアルロン酸莢膜や、髄膜炎菌シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)莢膜、炭疽菌のポリ-D-グルタミン酸莢膜などがある。これらの高分子が菌体外に分泌された後、その表面に付着している場合がほとんどであるが、なかには化膿レンサ球菌のヒアルロン酸莢膜のように、細胞壁の構成成分であるペプチドグリカン共有結合している場合もある。

莢膜の抗原性

多糖類は、タンパク質に比べると劣るものの、抗原として認識されて、特異的な抗体の産生を誘導しうる性質(抗原性)を持つ。このため莢膜には、それを構成する多糖類に由来して、菌体そのものの表面とは異なる抗原性が存在する。細菌表面の抗原分子(外膜抗原、鞭毛抗原など)と同様、莢膜抗原の抗原性もまた菌株によって違いがあるため、この違いを利用して、同一の種に属する細菌をさらに細かく分類することが可能である。これらの抗原性の違いを利用した分類は血清型 (serotype) と呼ばれる。

莢膜抗原による血清型分類は、腸内細菌科ビブリオ属などのグラム陰性桿菌で頻用されており、一般にK抗原(莢膜を意味するドイツ語 Kapselの頭文字から)と呼ばれる。例えば2006年現在、大腸菌では約100種類、クレブシエラでは86種類、腸炎ビブリオでは75種類のK抗原が見つかっており、それぞれの菌種ごとにK1, K2, K3...というかたちでナンバリングして分類されている。血清型による分類では、これに他の抗原分子による分類と組み合わせて、「大腸菌 O4:K12:H5」のような形で表記される。K抗原を持たない(=莢膜を持たない)菌株については「大腸菌 O157:H7」のように、K抗原は表記されない。K抗原以外にも、強毒性のチフス菌(サルモネラ)に見られるVi抗原(Vi抗原の有無で判定される)など、莢膜に由来する抗原分子がある。

K抗原やVi抗原などを持つ、莢膜を有する菌株では、しばしば外膜抗原であるO抗原に対する抗血清との反応性が失われる。莢膜は細胞の最も外側に位置する構造体であるため、これによって菌体表面のO抗原が覆われてしまうからである。菌体を熱や固定剤で処理して莢膜を破壊すると、O抗原が露出して、その抗原性を調べることが可能となる。

役割

莢膜は、宿主となる動物の体内にその細菌が感染したとき、宿主の免疫機構によって排除されることから逃れる役割を担っている。このため、莢膜を持つ菌は、莢膜を持たない菌と比較すると、宿主の生体内で増殖しやすく、高病原性であることが一般的である。例えば、チフス菌の莢膜由来の抗原であるVi抗原を有する菌株は、持たない菌株よりも毒性が強い。このことから「強毒性」を意味する"virulent"からVi抗原という名前が用いられるようになった。また莢膜を失った炭疽菌は、病原性が低下することから、動物用の生菌ワクチンに利用されている。

莢膜による免疫機構の回避は、白血球マクロファージなどの食細胞による貪食から逃れやすくなるためである。この理由はまだよく判っていないが、莢膜を構成する高分子が親水性であること、表面が負の電荷を帯びていることで、食細胞から認識されにくくなるためだという説がある。またこれ以外の免疫回避機構として、菌体表面への補体の結合を抑制することで、補体による殺菌を回避することが知られている。

観察法

莢膜の部分は光の屈折率が周囲と異なるため、特に厚いものの場合は、光学顕微鏡下で直接観察することも可能である。よりよく観察するためには、墨汁染色に代表されるネガティブ染色法で菌体の周囲を染色し、染色されにくい莢膜部分が透明に見えるのを観察するか、あるいはHissの莢膜染色法などを用いて、莢膜部分を菌体よりも淡い色調に染色して観察する。

また莢膜に対する抗体を反応させると、抗体が結合することによって光屈折率が高くなる結果、莢膜が膨れたように見えて観察が容易になる。これを膨化反応と呼び、この方法によって通常では見づらい莢膜を光学顕微鏡下で観察することも可能である。

参考文献

関連項目

外部リンク


莢膜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 16:50 UTC 版)

炭疽菌」の記事における「莢膜」の解説

炭疽菌の莢膜は、ポリグルタミン酸ペプチド主成分とする。バシラス属以外の細菌で莢膜を持つものには多糖類主成分とするものが多く、この点は炭疽菌莢膜の特徴一つであるといえる。またこの分子を構成するアミノ酸が、L体だけでなくD体光学異性体D-アミノ酸)を多く含んでいる点でも特徴的である。一般に莢膜は、細菌動物体内侵入した際、白血球貪食などから逃れる役割担っており、炭疽菌の莢膜もこの役割果たしている。莢膜によって宿主免疫機構による排除逃れて生体内への定着容易になる考えられている。 1930年代スターン開発して以来使用されている炭疽ワクチンは、培養繰り返すうちに莢膜を失った弱毒生菌ワクチンであり、これは莢膜をコードしているプラスミド pXO2 が欠落したのである。莢膜を失った炭疽菌白血球による貪食などを受けやすくなって弱毒性になるため、比較安全に炭疽菌対す免疫獲得することが可能であるが、ヒトに対して十分安全とは言えないため、この炭疽ワクチン動物にのみ用いられている。

※この「莢膜」の解説は、「炭疽菌」の解説の一部です。
「莢膜」を含む「炭疽菌」の記事については、「炭疽菌」の概要を参照ください。

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