P2Pに対する誤解と技術的課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 05:20 UTC 版)
「Peer to Peer」の記事における「P2Pに対する誤解と技術的課題」の解説
P2Pの技術は、実用化されて間もないため、成熟した技術として使われるためには、いくつかの課題が残されている。また、これまでのP2P技術は、ファイル共有ソフトによって注目されてきた経緯があり、P2Pを使っていると聞くだけで有害なソフトウェアだと思うような誤解を与えてしまうことがある。しかし、以下に示すように、多くの誤解はアプリケーションやP2Pソフトの実装上の問題であり、解決策が見えてきている。つまり、P2P技術自体は、うまく使えば非常に有用な技術である。 意図しない情報の流出・混入の危険性(誤解1) ファイル共有ソフトを初めとするオンデマンド型アプリケーションには、自分のPC上のデータを公開できる機能が付いているものがある。しかし、これによって、ユーザーが意図しないデータ(極秘情報やプライベートデータなど)が流出する恐れがある。特に、WinnyやShareでは、ウイルスによりこの機能が利用されて被害が広がり、大きな社会問題となった。 対策としては、管理者の検閲を経てからの公開や、ウイルスチェックプログラムの利用徹底、利用者にアップロードファイルの確認を求める実装、などが有効である。その一方で、商用のP2Pシステムでは、元を絶つという意味で、ユーザーの手元データの公開機能自体を実装せずに、正規コンテンツは管理者だけしか投入できない仕組みとする方向に動いている。 共有データの削除が困難(誤解2) Winny利用のウイルス問題で有名になったが、一度P2P網に公開されると、削除するのが難しいという問題がある。しかし、これは単に、Winnyに共有データを削除する機能が実装されていなかったためである。最近の商用のP2Pシステムでは、管理者によるリモートでのインデックス削除とデータレプリカ削除機能が実装されている。 データの改竄の危険性(誤解3) オンデマンド型アプリケーションでは、データのコピー(レプリカ)をキャッシュフォルダー内に持つケースが多い。しかし、一般ユーザーが、いたずら目的でこのファイルを改竄する恐れがある。これへの対策としては、ファイルにハッシュコードや電子署名を付けることで、改竄の検出ができる。改竄が検知されたファイルは、P2Pソフトがすみやかに廃棄することで、不正ファイルの伝播を防止できる。 ISPの帯域制限 ファイル共有ソフトの利用の広がりにより、インターネットのバックボーンは、トラフィックのほとんどがファイル共有ソフトで食いつぶされる、という事態が起こっている。これに対して、多くのISPは、一般ユーザーの利用帯域を制限するという対応に出ている。あまりに多くのトラフィックを使うユーザーには、利用制限をかけようという動きである。P2Pのフォーマルな利用に当たっても、この制限は課される場合があるため、P2Pアプリケーションの利用に制限が出る恐れがある。対策としては、ISP側が、WinnyやShareなどの問題があるソフトに関してのみ帯域制限をかけるようにすること、あるいは、ユーザーの料金体系を従量制にすること、などが考えられる。 NAT越え問題 ほとんどの一般家庭では、インターネットへの接続にブロードバンドルーターが使われている。しかし、P2Pソフトが外部からのIPパケットに対して接続を可能にするためには、ルーターの中のNATに、ポートフォワードの設定を施す必要がある。これを通称、NAT越えと呼ぶ。ファイル共有ソフトでは「ポート開放」と呼ぶことも多い。ユーザーが手動で設定することも可能ではあるが、専門知識が必要になることから、P2Pソフトから自動的に設定を行うようにすることが望まれる。これには、UPnP、STUN、UDPホールパンチングなどの利用が有効であるが、古いルーターの中には対策が難しいものもあり、100%のNAT越え成功率を達成するのは困難である。 また、企業内のLANで、外部とのP2Pを行う場合は、セキュリティレベルの高いファイアウォールを越える必要があるが、こちらの場合は、P2Pソフトによる自動対応は非常に難しく、手動でのポートフォワード設定に頼るしかないのが現状である。 将来的には、IPv6が普及して、各コンピューターに個別のグローバルIPアドレスが付与されるので、一般家庭、企業内LANともに、NAT越え・ファイアウォール越えが不要になるのでは、という見方があるが、セキュリティ的な見地から、ファイアウォールとしてのIPパケットフィルターは何らかの形で設けられるであろうことから、これをどのように越えるかが課題である。これを自動化することは、技術的には可能であるが、セキュリティの確保と利便性の向上は常にトレードオフの関係になり、ちょうど良い頃合いを見定めるのに、しばらく時間がかかりそうである。[独自研究?] また、IPv4アドレスの枯渇問題への対応として、ISPにラージスケールNATを設置するという計画が進行中である。これは各ユーザーに対して、プライベートIPアドレスを配布するという物であるが、P2Pに取っては大きな問題であり、すべてのコンピューター間で自由にピア接続ができるようになるかどうかは、注視が必要である。 キャッシュの有効利用 オンデマンドタイプのP2Pアプリケーションでは、ユーザーのコンピューター内にキャッシュを多く持たせれば持たせるほど、配信効率が向上する(具体的には、特定ノードへの集中が起きない、データ取得に時間がかからない、など)。しかし、ユーザーPCの限りある資源であるメモリーやHDD容量をどれだけ確保させてもらえるか、とのトレードオフとなり、ユーザーの理解を求めながらユーザーがどれぐらいの性能を欲するかを見極めるという、微妙なバランスを模索していく必要がある。 ネットワークのコストが最適なコンピューターを選ぶ技術(P4P) データを持っているノードが複数ある時、どのノードを選ぶと、ISPや通信キャリアに取って都合がよいか、インターネットのバックボーンに負担をかけないか、という観点での技術開発が行われている。 例えば、北海道‐札幌のユーザーが何かのデータをリクエストして、データを持っているノードが、鹿児島、北海道‐旭川、東京、に見つかったとき、旭川のノードを選ぶのが、北海道‐東京間の回線を使わなくて済むので、多くの場合好ましいだろう。しかし、通信キャリアの立場から見ると、実は東京への回線のほうが帯域に余裕があって、こちらを使って欲しいという状況もあり得る。 このような通信インフラのコスト構造の実体に合わせたノード選択手法の必要性が、クローズアップされてきている(P4P: Proactive network provider participation for P2P(英語版))。
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