3.5インチマイクロフロッピーディスク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 18:55 UTC 版)
「フロッピーディスクの歴史」の記事における「3.5インチマイクロフロッピーディスク」の解説
ソニーは1980年に3.5インチフロッピーディスクを開発し、1981年に発売した英文ワープロのシリーズ35に2台のドライブを標準搭載して発売した。標準規格では90mmフレキシブルディスクが正式名称となっており、マイクロフロッピーディスクとも呼ばれた。8インチや5.25インチのディスクは薄い樹脂製の袋に収められていたが、プラスチック製の硬質なケースを採用した。3.5インチ(外径90mm、内径25mm)のサイズは、ソニーのプロジェクトリーダーだった中山正之が「えいやー」と決めたもので特に大きな理由は無く、そのまま標準規格に採用された。 ソニーはワードプロセッサーを開発するにあたり小型のフロッピーを売りの1つにする計画だった。また当時標準だった250KBの5.25インチディスクに比べて4倍の容量を持つ1MBのディスクを目指した。磁性体を5.25インチで採用されていたガンマヘタイトから、より高密度なコバルト・ガンマ酸化鉄に変更し、データ更新時の磁気の消し残りを解消するため、磁性体の塗布厚を薄くした。密度は従来の従来48TPI (Track par Inch) から135TPIに向上した。磁気ヘッドはビデオテープレコーダーのヘッドに用いられていた技術を応用して新規に開発された。 さらに8インチ/5.25インチよりも剛性と信頼性を高めるため、高コストではあるが比較的強靱な厚さ3.3mmのプラスティック製のケースを採用した。固いケースを採用したことによりドライブ内部で外からディスクを圧迫して押さえることができなくなったため、ケース内部に「リフター」と呼ばれる板バネを付けてディスクを押さえた。またヘッド部にシャッターを設けて異物がケース内部へ入らないようにした。初期のディスクはシャッターの開閉は手動であり、挿入前に手で開け、排出後に手で閉める必要があったが、利用者からの不満の声を受けて自動開閉式に改められた。 またやはりコストは増したがディスクのセンター部に金属製のハブが設けられ、ドライブはそれをチャックするシステムとした。これにより従来よりチャッキングの精度を上げると同時に、チャッキングを片面からのみ行うことによりケース中央の穴を片面に限定でき、異物の混入を防げるようになった。またドライブ側もチャッキングに要する部品を片面のみに限定することができるため、ドライブの薄型化にも貢献した。 1980年末に「シリーズ35」が発表されると、ワープロ本体よりも3.5インチフロッピーディスクのほうが注目を集め、翌年5月にはプロジェクトリーダーがフランスのIEEEで学会発表した。またソニーはディスクの普及のため、はじめてOEM供給する方針を打ち出したが、当時採用したのは1社だけだった。ソニーは1982年に発売したパソコンのSMC-70にも3.5インチドライブを搭載した。また同年にヒューレット・パッカードが3年間で27万台の供給を受ける契約を締結し、HP-150に搭載した。 1982年に米国で業界団体のマイクロフロッピー・スタンダード・コミッティ(MIC)が設立され、ソニーもオブザーバーとして参加した。ソニーはこのコミッティからの依頼を受け、以下の改良を行った。 シャッターの自動化 トラックの数を80に変更 プロテクトのセンサーを透過型に変更 ソニーがこの3点を変更したことを受け、コミッティは全米規格協会 (American National Standards Institute: ANSI) に3.5インチ規格を提案し、1984年にはISO会議で規格が承認された。 この新仕様に対応した片面ドライブが1983年上半期に発売され、そのすぐ翌年に両面対応ドライブが発売された。アップルコンピューターは1984年に新発売したMacintoshシリーズでこのフォーマットを採用した。続けてアタリが新機種のST系で、コモドールがAmigaで採用した。1988年までに3.5インチディスクの販売枚数は5.25インチを超えた。南アフリカではフロッピーと呼ばれていた5.25インチディスクと区別するため、3.5インチディスクをスティッフィーと呼んだ。 "3.5インチディスク"や"3+1⁄2インチディスク"という呼び方は長方形の片側90mmである実際の寸法に近い値として採用された。ディスク本体の直径は85.8mm(3.38インチ)だった。 3.5インチディスクのケースにはしっかりとした金属製のスライドカバーがあり、ディスクドライブはカバーを開けて磁性面にアクセスするため、5.25インチディスクと比べ磁性面が不意な接触からしっかり保護されるという大きな利点があった。ディスクをドライブに挿入すると金属のカバーがスライドし、ドライブが磁性面にアクセスしてデータを読み書きすることができた。開発中の当初は正方形をしていたが、スライド式のメカニズムを加えることになり、長方形にすることで間違った方向へ挿入することが不可能なように改善された。 また終端抵抗が不要で、インデックスホールも不要などのような点でも、3.5インチドライブは競合する他のコンパクトディスク規格より優れていた。 このシャッターのメカニズムには問題がないわけではなく、古くなったり乱暴に扱われたディスクではシャッターが曲がってしまうこともあった。これにより完全に取れてしまったり(取れてしまうこと自体がディスクを傷つけることは無いが磁性面にゴミが付着しやすくなる)、最悪の場合はドライブの中に入り込んで取れなくなりディスクドライブを傷める可能性があった。 標準化案には他に3インチ、3.25インチ、4インチなどが提案されていたが、既にヒューレットパッカードやアップルが採用しておりデファクトスタンダードとなっている3.5インチフロッピーディスクが採用された。ただし各種パソコンメーカーは5.25インチフロッピーディスクドライブをそのまま置き換えられることを期待していたのに対し、ソニーは既にワープロ用として3.5インチフロッピーディスクを販売していたため、トラック数は70と80、回転数は300rpmと600rpm、転送レートは250Kbit/secと500Kbit/sec、といった仕様が混在し、また接続ピンも5.25インチのドライブと互換性のある34ピンと、24ピンの二種類があった。
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