1973年式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/12 03:50 UTC 版)
1973年式は1972年式からボディ形状自体はそれ程大きくは変化しなかった。1973年式において一目見て明確に分かる変更点は、新しい連邦政府の安全規制を満たす為に必要なフロントフェイスであった。その規制とは1972年9月1日以降販売される全ての自動車に対して、時速5 mph (8.0 km/h)で車体前方から衝突した場合でもヘッドライトや燃料装置に損傷を及ぼさない構造とする事が求められた。1973年に限っては、リアバンパーは時速2.5 mph (4.0 km/h)の衝突に耐える物が要求された。1973年式トリノはバルクヘッド(en:Firewall (construction))から前方のボディメタルは全て一新され、1972年式までの尖った部分の多いフロントフェイスはより平面的な形状のフロントフェイスに取り替えられた。更に1972年式までのフロントフェイスにフィットした構造の薄いフロントバンパーは、新たに巨大な 5 mph (8.0 km/h)衝撃吸収バンパー(所謂5マイルバンパー)に変更された。この新しい大きなバンパーにより、トリノ全モデルに少なくとも全長で1 in (25 mm)、重量で100 lb (45 kg)の増加をもたらした。 フロントグリルの基本的なデザインは、トリノもグラン・トリノも1972年式のコンセプトを引き継いだものが採用された。1973年式グラン・トリノは長方形のフロントグリルの両端にパーキングライトが内蔵され、4灯ヘッドライトの周囲にはクロームメッキベゼルが配置された。ベースモデルのトリノにはヘッドライトまで取り囲む形状の大型フロントグリルが装着され、パーキングライトはフロントフェイス両端に配置された。両者ともフロントフェイスの上端部は航空機の-リーディングエッジ(en:Leading edge)を模した形状に造形され、代わりに全てのモデルが同じボンネットを共有する事となった。つまり、ボンネットのエアスクープがついに廃止された事を意味していた。1973年式は1972年式と同一デザインのリアバンパーに、衝撃吸収材(インパクトストライプ)が貼り付けられたバンパーガードを追加する事で、時速2.5 mph (4.0 km/h)の耐衝撃要件をクリアしていた。 1973年式のモデルラインナップは11種類で、9種類存在した1972年式よりも増加した。前年のオプションパッケージの地位から単独グレードの地位に復帰し、新たに最上位モデルとして設定されたグラン・トリノ・ブロアムは、2ドアハードトップと4ドアセダンの2種類が用意された。その他のモデルは1972年式と同じままであった。1973年式のベンチシートは後方視認性を高めるためにヘッドレストが別体式となり、シートバックの高さも低くされた。ハイバック・バケットシートは2ドアモデルで引き続き選択可能であった。ボンネットオープナーはセキュリティ性を高めるために室内へと移動された。1973年式では新たにラジアルタイヤもオプション設定され、トレッド寿命の向上と路面騒音の低下を実現していた。 標準装備のエンジンは全モデルで250 cu in (4.1 L) 直6が継続され、ステーションワゴンとスポーツモデルでは302V8が標準である点も変わらなかった。オプションエンジンも1972年式のものがほぼそのまま残されたが、全てのエンジンで圧縮比が8.0:1まで低下し、出力も若干低下した。351 cu in (5.75 L) コブラジェットエンジンは唯一の高性能エンジンとして残され、出力は1972年式の2 hp (1.5 kW)減に抑えられたが、車重の増加により全体的な性能は低下した。警察及び公用向けトリノのオプションとしてインターセプターパッケージが新設定され、専用エンジンとして460 cu in (7.5 L)・4バレルV8エンジンが追加された。車重の増加に対応するため、1973年式ではリアドラムブレーキが1972年式までの10インチ (254 mm)から、11インチ (279 mm)に増径された。しかし、変速機に関しては3速MTは250・302の両標準エンジンのみの装備であり、大排気量エンジンの場合には強制的に3速ATが組み合わされる点や、351エンジンのみ4速MTが選択できる点は前年と同様であった。 グラン・トリノ・スポーツはフロントグリルとデッキリッドに専用エンブレムが装着された。レーザーストライプは若干形状が変更されて残され、貼付位置もボディサイドのより高い位置に変更された。スポーツモデルであってもボンネットのエアスクープは廃止され、ラムエアインテークももう選択できなくなった。しかし、上記の変更を除いてはグラン・トリノ・スポーツは2ドアハードトップとスポーツルーフの2種類で提供されつづけた。カー・アンド・ドライバー誌における1973年式グラン・トリノ・スポーツのロードテストでは、サスペンションの高い減衰性能と上質なハンドリングで高い評価を受けた。同誌は1973年式トリノを評して「静粛さはジャガー、スムーズさはリンカーン・コンチネンタルに匹敵する程、トリノのコンペティションサスは優れている。」と述べている。同誌はテスト車両に351 CJエンジン、C-6型3速AT、3.25:1の最終減速比のスポーツルーフを選択し、0-60 mph (97 km/h)加速は7.7秒、1/4マイルは16.0秒、最終地点では88.1 mph (141.8 km/h)を計測した。1972年式よりも0-60マイル加速では0.9秒遅かったが、この成績はギア比の差や変速機の違い、増加した車重などが主要な原因でもある。1973年式スポーツモデルは4,308 lb (1,954 kg)、1972年式は3,966 lb (1,799 kg)であり、実に350 lb (160 kg)も増加していたのである。性能は既にかつてのスーパーカー級とは言いがたいものであったが、他社のマッスルカーの性能低下と比較すればまだ立派なものであった。単純な比較を行うと、モータートレンド誌のテストでは1970年式トリノ2ドアモデルに351・4バレルエンジンとクルーズOマチック3速AT、3.00:1の最終減速比の車両で、0-60 mph (97 km/h)加速は8.7秒、1/4マイルは16.5秒、最終地点では86 mph (138 km/h)であったが、1970年式は高圧縮比のためにハイオクガソリンを必要としたのに対して、1973年式はレギュラーガソリンでありながらもより良い成績を残していた。 グラン・トリノ・ブロアムは最高級の内装材を持つトリノの最上級車としてラインナップされ、ナイロン製の布地や合成皮革製のシート地を特色とした。ベンチシートには折り畳み式アームレストが装備され、内装には木目調パネルも多用された。ステアリングホイールも専用品が装備され、電気式時計や金属製ペダルパッド、デュアルホーン等も装備された。グラン・トリノ・スクワイアもブロアムと同様の内装材が奢られていた。 性能低下などの数々のマイナス要因を抱えながらも、1973年式は引き続き大きな成功を収めつづけ、販売台数は496,581台に達した。公衆はトリノに好意的な反応を見せつづけ、GMが1973年に送り出したコロネードスタイルの中型車を大きく引き離した。1973年式トリノは主要な対抗車種である同年式のシボレー・シェベルに対して、販売台数で実に168,000台以上の大差を付けたのである。
※この「1973年式」の解説は、「フォード・トリノ」の解説の一部です。
「1973年式」を含む「フォード・トリノ」の記事については、「フォード・トリノ」の概要を参照ください。
- 1973年式のページへのリンク