黒部川電力と国産肥料
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1929年4月および1931年(昭和6年)11月、常願寺川支流の小口川にて小口川第二発電所(出力3,100キロワット)・小口川第三発電所(出力7,150キロワット)がそれぞれ運転を開始した。これらの発電所は既設小口川第一発電所の上流に位置する。うち小口川第三発電所は小口川最上部の祐延ダムより取水しており、大型の貯水池を持つ。従って春・秋の豊水期には原則として発電を停止して貯水に専念し、夏・冬の渇水期を中心に放水・発電するという当時の火力発電所のような補給発電所として運転された。また発電所直下流に小口川第二発電所の調整池が立地することから、調整池の水を祐延ダムに戻す揚水設備が1934年(昭和9年)5月になって増設され、余剰電力を有効利用する揚水発電が可能となった。 自社開発に並行して、日本海電気は1929年9月、富山県東部の黒部川にて電源開発を手掛ける黒部川電力を傘下に収めた。同社は川北栄夫率いる川北電気企業社の関係会社として1923年10月に設立。1926年6月に開業し、日本海電気や新潟県に工場を持つ電気化学工業(現・デンカ)へと送電していた。川北電気企業社が経営不振に陥ったことから社長の川北栄夫から買収話が持ち込まれ、これを受諾したことで日本海電気の関係会社となった。発電所は第一発電所(出力7,760キロワット)・第二発電所(出力6,330キロワット)と1929年に追加された第三発電所(出力3,700キロワット)があった。 黒部川電力の供給先の一つ電気化学工業青海工場は日本海電気の供給先でもあり、1922年8月から送電していた。供給電力は1930年6月末時点で日本海電気からが8,000キロワット、黒部川電力からが1万7,000キロワット。また電力料金は日本海電気分と黒部川電力第1期契約分が1キロワット時あたり定時電力1銭2厘5毛・不定時電力8厘、黒部川電力第2期契約分が定時8厘5毛・不定時7厘7毛と廉価であった。しかしながら電気化学工業は1930年代初頭の硫安価格暴落によって極度の経営不振に陥り、最終的に1キロワット時あたり3厘以下でなければ支払えないという状況に陥ってしまう。1932年(昭和7年)7月、電気化学工業会長藤原銀次郎と日本海電気社長山田昌作による直接交渉の結果、電気化学工業が持つ自家発電所を黒部川電力へ提供することで料金未納を帳消しにする、提供後は原則として不定時電力のみを1キロワット時あたり3厘(ただし将来の硫安価格上昇に連動して値上げ)で電気化学工業は受電する、という旨の支援策が取り決められた。翌1933年(昭和8年)5月、電気化学工業の自家発電所2か所が黒部川電力へ現物出資され、同社は資本金1800万円、日本海電気との折半出資の電力会社となった。 黒部川電力と並ぶ日本海電気の主要傍系会社に国産肥料株式会社があった。同社は電気化学工業常務であった藤山常一と日本海電気の提携によって1929年4月19日、資本金100万円で発足。日本海電気が土地を持っていた下新川郡道下村の日本電気工業跡地に工場を再建し、藤山の考案による藤山式電極を用いた電気炉を新設、日本海電気より電力供給を受けて1930年2月よりカーバイド・石灰窒素の製造を開始した。ところが新型電気炉の操業は技術的に難航し、石灰窒素製造も不振であったため、間もなく資金が枯渇し操業休止となってしまう。その結果、同年8月藤山らは退陣し、日本海電気が収拾に入る。工場は閉鎖状態となるが、従業員が「魚津カーバイド製造組合」を組織して1931年10月より操業を再開した。その後カーバイド価格が回復すると、日本海電気は余剰電力活用のため工場再生を決め、1933年4月工場を国産肥料の経営に戻した。以後設備の改善が進められ、翌1934年6月22日には第二国産肥料を設立し、11月22日付で初代の国産肥料を大幅減資の上で吸収させて2代目の国産肥料とするという形で整理も実施している。 1935年(昭和10年)10月8日、東洋窒素工業によってアセチレンからベンゼンを合成する合成ベンゼン事業の新会社として日本カーバイド工業が設立された。同社では事業を急ぐため工場を新設するのではなく既存工場を買収する方針を立て、全国を調査した結果、日本海電気の傘下にあってその低廉な電力を受電する国産肥料の工場が適当と認めた。日本海電気としても工場経営に苦心していたため東洋窒素工業の買収提案を受け入れ、その結果、1936年(昭和11年)2月1日付で国産肥料は日本カーバイド工業へと合併され、道下村の工場は日本カーバイド工業魚津工場となった。
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