走行性能の特性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 17:45 UTC 版)
電動機に比べると、内燃機関の出力重量比が小さく、性能面で不利な傾向がある。 この点は国鉄時代に顕著であり、たとえばキハ58形で自重38 t, 360 PS=270 kWであるのに対し、117系電車モハ117形は自重44 tで480 kWであった。国鉄分割民営化以降の車両ではJR北海道のキハ283系が1両平均自重42 t, 710 PS=530 kWであるなど性能向上がなされているが、同社の789系電車の電動車は920 kWと性能向上がなされており、差は縮まっていない。 内燃機関一般の特徴として、常用域でのトルク変動が少なく出力が回転数にほぼ比例して上がり、高回転域で最大出力に到達するという点がある。この特性を生かすためには多段変速機を用いてエンジンが最大出力を発揮している領域を使う必要がある。また、燃料の供給を調節することでほぼ任意の出力領域で部分負荷運転に対応できる。すなわち、おおむねどの速度域でも連続力行が可能となる。他方で、内燃機関は過負荷・過回転への耐性が低く、設計最高値を超える範囲での使用はオーバーヒートや焼きつきを発生させ、最終的にはエンジンブローを招くため不可能である。負荷や回転数が許容範囲内にあっても、部品寸法の公差や組付け不良による不具合発生のリスクは電動機より高くなる。電動機で一般的に見られる「短時間定格」運転の許容幅は極めて小さいか、許されていない。このため電動機で常用される「連続」定格を越えた出力での運転が困難である。 また、同様に拘束状態からの起動ができない。自動車の運転方法を見れば明らかなように、エンジンは常に一定(アイドリング)以上の回転数で稼働していなければならない。エンジンを停止した状態でギヤを噛み合わせ、その後エンジンを起動することは実用上不可能である。そのため、クラッチ機構が必要である。現代の日本の鉄道車両では起動トルクの確保と半クラッチ制御を要しない点から、変速機の1段目は全てトルクコンバータを介している。このため低速域での「動輪周引張力」と「起動加速力」は電車より大きいことが多い。 よって、 電車の場合、VVVFインバータ制御あるいは電機子チョッパ制御等においてはいずれの速度域においても連続力行可能であるが、抵抗制御車の場合、抵抗器が全て短絡された状態になければ連続力行は不可能である。したがって任意の速度で、かつ自由な出力で力行が可能な気動車は速度の調整において、抵抗制御の電車に比較すると気動車が有利な点がある。例えば「速度制限のかかった勾配を連続して登る」場合には運転が容易になる。気動車は適切な出力で連続力行すれば良いが、抵抗制御車は断続的に力行と惰行の繰り返し(ノコギリ運転)を強いられる場合がある。また、空転をしない限りは前述のトルクコンバータの作用により起動不可能に陥ることは少ない。 電動機は回路に流せる最大電流によって、最大トルクが決定される。しかし、気動車ではトルクコンバータの増幅作用により、低速域で大きなトルク=加速力を引き出すことができる。ただし、内燃機関は過負荷・過回転への耐性が低く、電動機で許容される短時間「定格外」運転の許容幅は極めて小さいため「連続」定格を越えた出力での運転が困難である。電車の場合はこの特徴を利用して停止状態から常用速度まで大きな加速を得ている。相対的に加減速を繰り返す運転をやや苦手とすることは否めない。 電動機における特性領域ではトルクは速度の二乗に反比例して低下し最大出力を発揮できないが、「定トルク特性の機関」+変速機(適切な歯車比)の組み合わせで駆動されている気動車ではこのようなことは生じない。よって高速域での加速力低下が比較的小さい。このように機関の常用回転域の上限付近での加速機会が多い場合は有利に働く。ただし、この点は性能の設計次第の問題であり、例えばEF66形電気機関車では、定出力域が72 km/h - 108 km/hに設定されており、特性領域は108 km/hを越えた部分であるが、車両の最高運転速度は110 km/hであり特性領域はほとんど使用しない。 ということが言える。 国鉄時代の気動車が鈍重であったことも、おおむね上記の内容で説明される。すなわち一つには絶対的な出力不足であり、もう一つは変直2段の変速機しか持たなかったことが原因である。上述の通り、変速機の低速側は起動用のトルクコンバータ段であることは変えられない。直結段はエンジンの最大回転数(最高馬力付近)と車両の最高速度によって、比較的高速ギヤに固定されてしまう。したがって直結段に移ると途端にトルクが低下し、満足に加速しない、上り坂になれば速度が低下し変速段まで落とさなければ維持できないということが生じていたのである。これは自動車において、1速と4速しか使えない場合と、1、2、3、4速の全てが使える場合(超ワイドレシオとクロースレシオ)の走り方をイメージすればわかりやすい。
※この「走行性能の特性」の解説は、「気動車」の解説の一部です。
「走行性能の特性」を含む「気動車」の記事については、「気動車」の概要を参照ください。
- 走行性能の特性のページへのリンク